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孤独の新月  作者: 瑠璃茉莉
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日常2

「おはよぉ。お嬢ちゃん」


「おはようございます、おば様。この間のワンピースは娘さん気に入って頂けましたか?」


明莉さんが加わって数日経った頃だった。

割腹のいい女性がにこやかに話しかけてきて、愛ちゃんが対応する。


「おや、覚えててくれたのかい?すごいねぇ」


愛ちゃんの商品はシンプルだが服の組み合わせ次第でお洒落に見えるため、固定ファンが付きつつある。

毎日たくさんの人を相手にするのだから一人一人覚えているはずもない。

だと言うのに、愛ちゃんはほとんどのお客さんを覚えているんじゃないか?と思うほど、どの商品を買って行った人かを覚えている。

シンプルにすごい。


「今日はね、ちょっと依頼って形になるんだけど、お願いがあってさ。孫の子供服を仕立ててくれないかい?」


「お孫さんですか?」


「そうそう。この間のワンピース着た妹を見てね、姉の方が孫にも愛らしいのが欲しいって言うもんだからね」


割腹のいい女性はそう言いながら幸せそうに微笑んだ。

娘さんたちもお孫さんも可愛くて仕方がない、といった雰囲気である。

愛ちゃんは初めての依頼という仕事に目が輝き、とっても嬉しそう。


「お孫さんの背丈は?お好きな色は?どのような形をお望みですか?私全力で取り掛かりますよ!!」


若干食い気味に質問攻めをする愛ちゃん。

好きなことを認められた感じがして楽しそう。


「受けてくれるんだね!有難うよ。孫はまだ赤子だからこんくらいの大きさで、好きな色はそうだねぇ、娘が好きな色でしてもらうのがいいだろうね」


そんな感じでいくつか質問のやり取りをして、愛ちゃんはそれを紙に書き留める。

愛ちゃんは断ったが、女性は前金として少しお金を置いていったのだった。

愛ちゃんがそっちの対応をしている間、私はたどたどしいながらも接客をして売り子を頑張っている。

本日の売上も上々なり。




「それでね!初めてお願いされたから、私すっごく嬉しい!」


「そっかぁ。愛が認められるのは俺も嬉しいから、頑張って。応援してるよ」


「うん!」


翼さんと蕾が迎えに来ても愛ちゃんは興奮冷めやらないようで、あの女性のことを蕾たちに伝えていた。

そして一頻り話した後、難しい顔をしてなにやら思案しているようだった。

きっと依頼された子供服の構想をし始めたんだろうなぁ。


「あ、おかえりなさい」


家に辿り着くと、家のすぐ側にある古井戸の前で明莉さんが顔を洗っているところだった。

まだ手と服に血らしきものがついている。


「ただいま。本当に鹿捕ってくれたんだな」


「ええ、できれば鹿って言われたから」


明莉さんが来てからというもの食事が豪華になった。

市場で売られている肉類はなかなかにいいお値段なのでそんなに買うことが出来なかったのだが、明莉さんがそのお肉をタダで狩ってくるので翼さんのレパートリーも増えている。

何作っても美味しい。

最近食べたハンバーグというお肉をふんだんに使った料理はほっぺたが落ちるかと思うほどだった。


「期待はしてたけどほんとにすごいな…よし、じゃあ今日は鍋にしよう」


そう言って翼さんは鹿を捌き始め、蕾は買ってきた野菜等の下ごしらえを始めた。

愛ちゃんは部屋にこもって何かを描き殴っている音がしている。

恐らく依頼の子供服だろうな。


「あ、明莉さん!またやらしてもらってもいいかな…」


着替えを終えた明莉さんが部屋から出てくるのを待って私は呼び止めた。

明莉さんの足には小さな裂傷がある。

変身能力で四足獣になって森をかけていても、毛の薄い足部分は木の枝などで怪我をするみたいだ。

明莉さんが狩りをするようになって、私は自分の能力のコントロールを明莉さんで試させてもらうようになっていた。

今のところ時間をかければ治せるという成果だ。


「治せるスピード、安定してきたんじゃない?」


「ほんと?」


確かに最初は力の出し方すらわからなくて、蕾に色々と教わったりしていた。

手のひらに熱を集めるイメージ。

指先に集中して、何かに直接ではなく触れるイメージ。

そして傷が塞がっていくイメージ。

手のひらに熱を集めるがなかなか出来なくて、本当に能力者なのかと疑っていたくらいだった。

だけどある日愛ちゃんが珍しくハサミで指を切って怪我をした時、私は慌てて(血よ止まれ!)と願いながら手を翳した。

するとみるみるうちに血が止まり、傷が塞がった。


「イメージは出来てたんだね。傷そのもののイメージが出来てないから上手くいかなかったのか」


と、蕾が言っていた。

けれどコントロールは相変わらず不安定で、早い時もあれば遅い時もある。

だから明莉さんが来てくれて、ほぼ毎日小さな傷を作ってくるのは練習にはもってこいだった。


「もう少し速く安定させれたらさらに実用的ね」


「が、頑張ります」


明莉さんは最初こそ、ちょっと怖いクールなイメージだったけれど、こうやって毎日話しているととても優しい人だと知った。

少し不器用なのは私とお互い様で、笑顔は少ないけれどその声音は落ち着いて安心させてくれるようなもの。

蕾の教え方ももちろん悪くは無い。

けれど明莉さんは変身という繊細な能力を使うため、より細かいコントロールの仕方を教えてくれる。


「そろそろご飯できるからみんな食卓においでー」


家の中から蕾の声が聞こえる。

本日の料理、夏野菜と鹿肉の鍋はボリューミーなのにあっさりしていて塩分もとれる絶品。

夏の暑い日に鍋?

最初はそう思ったけれど、暑くて汗をかいて美味しい物食べて、そのあとに湯浴みをして寝るのはかなり最高なのだった。


お祭りまであと1週間。

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