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孤独の新月  作者: 瑠璃茉莉
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大切な人の大切な子

時間がかなり押してしまった。

父親に似ず、姉共々優しい心根を持つこの人を支えて来てもう何年になるだろうか。


「アレはやはり姉上の娘だなぁ」


先程まで子どもたちと話していた部屋から遠ざかった所で、苦笑交じりに呟く。

姉のサクラ様は栗色の髪に桜色の瞳をした美しい女性だった。

そのサクラ様の娘である彼女は、艶のある漆黒の髪に同じ色の瞳。

父親の色を受け継いでいるものの、その顔立ちはサクラ様によく似ている。


「姉上を守りきれなかった後悔があるから、今度こそは手のうちで守りたかったんだが…」


「蕾さんは優人さんにも護様にも似ていますから、きっと大丈夫よ」


父親譲りの髪と母親譲りの瞳。

優しげに微笑む顔は父親に似ている。

しかしその心は、粗暴ながらも主であるサクラ様を支え続けた優人さんを彷彿とさせる。

皆さん素敵な人たちだった。

そして素敵な子どもたちだ。


「親子でもないのに優人に似ている…いや、姉上と紬が親子だから似たような人間がそばにいるのか」


それはどうなのかな?

と思いつつも、納得してしまったようなので放置する。

紬さんは主張の強い方ではないが、芯がしっかりしている。

気の強いところは恐らくサクラ様似なのだろう。

男性の好みもそうなのかもしれない。


「まぁいいじゃないですか。あの子たちにはあの子たちの人生がありますから」


王の執務室前まで来ると私は言葉を正す。

「仕事に行くよ」と、軽い口付けが落とされて、私は一礼する。

あまり公務の場でそういうことはしてほしくないなぁ、なんて満更でもないくせに思っておく。

サクラ様はお若くして亡くなられて、きっと未練は沢山あったと思う。

けれど、後悔はしていない気がする。


「さて、と…」


一息ついて仕事へ心を切替える。

実を言うと私は護様の妹である。

ただし腹違いの妹だ。

それに小さい頃は遊んでもらっていたけれど、護様が能力を継承してからは関わっていない。

だからあまり兄という実感はなく、家のために犠牲になった人という印象だ。

サクラ様とは護様の所へよく来ていたので、その廊下でのすれ違いなどで知り合った。

話した回数はそんなに多くはない。


「あ!あ、あの、楓さん!」


自分の仕事場へ向かおうとした時だった。

呼ばれた声に振り向けば、そこにいるのはツインテールを揺らす少女。

護様付きだったメイドの花を髪の色だけ変えたような子。

サクラ様と紬さんより似ている。


「愛さん?どうしました?」


「実は、その、お願い、があって……」


兄弟の前では気丈に振る舞うこの子らしくない挙動。

余程のことかと近寄って耳を傾けた。

彼女の口から聞かされた言葉に、数秒の逡巡。


「結論から言うと可能です。けど、ご兄弟たちはどうするんですか?その様子だと何も言っていないのでしょう?」


「たぶん、否定はされない、と思うんですけど…」


そうだろうな、と同感する。

ここ数日で彼らが妹に対してとても甘いというのがわかっている。

いや、妹に対してではないな。

女の子に対してというか、主にあの3人に対して、だ。

特に蕾さんは紬さんをとても大事にしているように思える。

彼女が目覚めるまで自分が世話をする、とほとんどのことをしていた。

唯一、体を拭いたり着替えさせるのだけは女の子に任せていたが…。


「きちんと話し合って、お互いにどうしていくかが決まったら、また声をかけてくださいな」


愛さん、彼女のそのお願いを聞くのは可能だ。

もちろん嫌だとも思わない。

けれど独断での判断に協力して、ほか4人に恨まれるのは御免である。

確かこの子はまだ15歳。

その歳でするには多すぎる苦労をしてきたはずだ。

それについこの間までこの子は歩くことすらままならなかったのだから。


「貴女に協力するのは大歓迎ですから。そんな顔せずに夢を叶える努力をしてください」


「…はい。ありがとうございます。もう少しお兄ちゃんたちと話してみます」


ぺこり、と頭を下げてパタパタと廊下を駆けていく。

何も出来なかった私たちができるのは、4人が残したあの子たちにできる限りの支援をすることだと思っている。

あとはアオイ様が心から元気になっていただくように、臣下として支えるのみだ。


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