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孤独の新月  作者: 瑠璃茉莉
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スレイルラージュ

「俺たちが君を連れてきたのは、とあるゲームに参加したいからなんだ」


たくさんの書類を手にして、お兄さんはそう告げる。


「スレイルラージュって知ってる?」


太陽の宴(スレイル・ラージュ)

それはこの国最大のお祭りの名前だ。

別名、日の出の国と呼ばれる太陽神を信仰するこの国が、太陽の恵みに感謝するお祭り。


「見たことは無いけれど、歴史の本で読みました」


そしてお祭り最大の催しがある。

その最大の催しが所謂デスゲーム。

生死問わず、なんでもありの生き残り対決。

あの塔の中にあった本にそのことは書いてあった。


数十年前からある伝統的な殺し合い。

きっかけは王様が、奴隷2人に見せ物として戦わせたことが始まりらしい。

2人のうち勝った方が奴隷の身分を回復されるという褒美を与えられ、そのうちに望みを叶えるという褒美へと変貌していった。


「俺たちはそのゲームに参加するつもりなんだ。危険を承知で頼む、君の力も貸して欲しい」


真面目な顔でお兄さんは私へとそう告げた。

だが、当の私は頭に大量の疑問符が飛び回っていた。


「わ、わたしに、なにをしろ、と?」


「え?」


私は首をひねる。

お兄さんも首をひねる。

何かが理解出来てない。

何かが伝っていない。

たった今、囚われの身からようやく解放された私にはなんの力もない。

そんな殺し合いに参加したところで、役に立てるとは思えないのだが。

戦闘力はもちろん、作戦を練るほどの知能もない。

お兄さん達は私に何を期待してるのだろう?


「あー…ねぇ、兄ちゃん、もしかしてなんだけど、本当に何も知らないまま生きてきたんじゃないかな?」


「ずーっとあそこにいたんじゃ無理もないと思うよ?」


苦笑を浮かべた双子は、硬直する長男にそう言う。

余裕たっぷりに微笑んでいたお兄さんもどうしたもんか、と頭を掻き乱す。


「え、と、じゃあ、まずはその黒髪について話そうか」


ひねった首を反対にひねる。


「紬ちゃん、あのね、紬ちゃんのその立派な黒髪はね、ある一族の象徴なの」


長年伸び続けたこの鬱陶しい髪は、毛先まで真っ黒だ。

これは確か父譲りで、兄も同じ色だった。

そんな髪色に意味があるなんて知らなかった。


「黒髪は『夜族』と言って、能力のコントロールに長けた一族なんだ」


補足するように蕾が続ける。

能力とは?

そしてほんの少し微笑みながらさらに説明を続ける。


「さっき俺が兵士に触るだけで眠らせただろう?あれが俺の能力、『前』を魅せる力」


蕾が右手をこちらに振りながら言う。


「れーくんの能力はね、すごいんだよ!触った相手を眠らせて、相手に過去の夢を見せるの!」


愛は双子の兄の能力を自慢げに説明する。

だから、あの兵士達は突然倒れたのかと納得がいった。

触るだけで眠らせるなんて、なかなか凄い能力である。

なら、あの足の速さも能力なのかな?

あれも異常だと思うのだけれど…。

能力は複数持つこともできるの?

ていうか、蕾のことれーくんって呼んでるんだ。


「ちなみに私は『先』を視る力っていうの。時々だけど夢で未来予知ができるんだー」


「え、未来が見えるの!?すごい…」


思わず口から出た。

愛ちゃんはえっへんと笑顔で胸を張る。

双子が能力者ならその兄も例外ではないだろう。

そう思い、期待を込めてお兄さんを見ると、彼はただ困ったように笑った。


「俺の能力はね、よくわからないんだ」


ははは、と乾いた笑いをこぼす。


「お兄ちゃんの能力はほんとによくわからないの」


「昔一度だけ見たことあるんだけど、よくわかんないんだよね」


双子は顔を見合わせてうんうんと頷いている。

自分の能力がわからないとは、どういった事なのか。


「とりあえず俺のことは置いておいて。能力に関しては君も例外じゃないんだ」


「へ?」


変な声とともにまたも首をひねった。


「夜族って言うのは、さっきも言ったように能力のコントロールが上手な一族なんだ。そして君もその1人」


「さらにさらに!私たちが紬ちゃんを見つけられたのは、私が夢で紬ちゃんを視たからなの」


「その夢では傷を癒していた、らしいよ」


兄妹が次々と口を開く。

愛ちゃんの能力で私を見つけ、私は傷を癒す力を使っていた。

だから戦いの場では回復役として参加してほしい、そういうことなんだろう。

3人が言いたいことは分かった、だけど…。


「で、でも、力の使い方なんて、私、しらないよ?」


オロオロと不安を打ち明けると、3人は顔を見合わせる。

そして笑顔で続けた。


「無理強いはしないよ。紬ちゃんが参加したくないなら断ってくれていいよ。いてくれたら嬉しいってだけだから」


愛ちゃんはもう1度私の手をとってニコニコとする。

蕾と同じく温かくて、蕾よりも柔らかい。

真っ白な髪は兄弟皆くせっ毛で、瞳は蕾と同じく紫色。

お兄さんの瞳は黒色だ。


「死ぬかもしれない危険なゲームだ。もちろん断ったからってあの塔に戻したりなんかしないからね」


どうしてだろう。

お兄さんはとても優しい口調で優しいことを言っているのに、どうしてもなにか裏があるように思えて、その優しさに違和感を覚える。


「ま、今すぐ考えてなんて言わないから。よぉーく考えてね」


スレイルラージュ開催までたしかあと半年くらいある。

その間ゆっくり考えてね、と3人は言った。

その半年間私は彼らと過ごして、孤独だった時間が嘘のように充実した日々となる。

その時間はとても、とっても楽しいと思えたのだった。

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