月見酒
部屋の明かりを最大限に暗くして、お気に入りの窓を全開にする。
窓の前にゆったりと腰かけ、グラスを傾ける。
艶のある赤ワインの香りを楽しみつつもうすぐ満月になるだろう月を見上げた。
「彼女たちは予選を突破したそうですよ」
背後から掛けられた言葉に口元が緩む。
1口飲めば酸味と甘みが広がり、鼻に抜けるこの香りがたまらない。
暗がりから近づいてきた人影が訝しげに覗き込んできた。
「感想はなしですか?貴方何考えてるんです?」
「…はぁ。別に今は2人なんだから敬語いらないだろ」
何度言っても仕事のくせが抜けない。
すると「あぁ」と納得した様子で眼鏡を外した。
眼鏡が切り替えの合図らしい。
「ごめんなさいね、一応仕事の話だしついつい」
「ま、いいけどさ。あの子たちが突破するのは予想通りさ。だって、ねぇ?」
「ま、そこは同感です。でも、やっぱり心配ね。予選前の拉致は失敗に終わった事だし」
組んでいた足を崩し、横に座るように促す。
空のグラスにワインを注ぎ差し出した。
一瞬、明日の仕事を考えて躊躇ったような顔をしたが、俺からの誘いを断れるわけないと嘆息を吐いた。
チビチビと飲む様は小動物のようだと毎度思う。
クスクスと俺が笑う理由に気づいているのか、恨めしい視線を向けられた。
「あそこで消せていれば、お前がここまでドギマギする必要もなかったのになぁ」
「ん、ぷはぁ。全くよ。そうまでして叶えたいものって何かしら?」
「さぁな。俺にはわからん。聞く前にいなくなってしまったからな」
ゴクリと喉を潤す。
グラスの中に月を収めて、揺れる月を見下ろす。
面白くなってきたけれど、明日からは手がだせない。
あの子ども達がどう奮闘するのか見物だ。
グラスの残りを仰ぎ、また新しく注いであまり酒が得意ではない彼女との月見を楽しむのだった。
見てくださってありがとうございます。
感想があれば書いていただけると励みになります