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孤独の新月  作者: 瑠璃茉莉
15/68

予選

次の日、目の前で行われているのは昨日の勝者同士の戦いだ。

次の試合で私たちが勝てば、どちらかのチームと当たることになる。

私たちのチームは全員能力持ち。

と言っても翼さんは不明だし、私や愛ちゃんは戦闘向きではない。

とはいえ全員持っているので、能力が珍しいものだとは自覚しておらず、昨日に続きほとんどが道具を使った戦闘なことに私は驚いていた。


「今日もすごい人だね」


螺旋闘技場とは真ん中に大きな闘技場があり、観客席が螺旋状になっている。

緩やかな螺旋にはびっしりと観客がおり、皆それぞれ応援や罵声を発している。

それがお城の横に3箇所あるらしい。

2箇所は私たちトーナメント参加者。

そしてもう1箇所は観客が少ない奴隷用のバトルロイヤルが開催されている。

本番で戦う国王軍を選出するらしい。

国が所有する奴隷の中で、参加したいものが全てこの予選の3日間で戦っているとのこと。


「翼、私たちも次戦うんでしょう?そろそろ準備しないと」


目の前で繰り広げられていた戦闘は佳境に差し掛かっている。

二刀流、モーニングスター、ハンマーを持った男3人はもう既にだいぶ疲労困憊のようだ。

もう1チームは体中のあちこちに武器を仕込んだすばしっこい男一人に、女性が2人。

1人はどうやら戦闘要因ではないらしい。

そしてもう1人は拳銃片手に男のサポートをしている。

もうそろそろ男3人が音を上げる頃合だ。


「行こうか」


私たちは席を立ち上がって控え室に向けて歩き出す。

途中で歓声が聞こえ、どうやら決着が着いたようだ。


「一つ考えがあるの、私に任せてくれないかしら?」


いつもは愛ちゃんお手製の愛らしい服装をしている明莉さんが、今日は随分と動きやすい服装に着替えている。

首元の開いた黒シャツに、すぐに着脱の可能なスカートと靴。

スカートは一応黒シャツ似合うように真っ黒で太もも近くまで切れ目の入ったタイトな感じだ。


「翼は私のサポートをして?そして、蕾、貴方は戦わないこと。2人を守りなさい」


翼さんはこの日の為に銃の練習をしてきた。

だからサポート要因なのは誰も異議はない。

そして動物的な身体能力の持ち主である明莉さんと、神速で走れる蕾が戦う予定だったのだが…。


「まって!それだと明莉の負担がっ…」


「どういう意図だ?」


異議あり!と言いたかった蕾を手で抑え、厳しい目をした翼さんが明莉さんを見る。

明莉さんは至極真面目な顔で「任せて欲しい」と言って、2人は黙る。

そして僅かな睨み合いの後、はぁとため息を吐いて翼さんが折れた。


「御会場の皆様!これより本日青ブロック2試合目を執り行います!!!」


司会者のアナウンスが会場に響き渡るとすぐに歓声と拍手が会場を包みなおす。

観客席から見た景色とだいぶ違う。

さすがにドキドキと緊張してきた。

翼さんはサポートで銃を使うため、愛ちゃんは蕾が背負っている。

そして私はその2人のすぐ側に立つ。

先頭には明莉さんが立ち、私たちの目の前に翼さんがリボルバーを持って盾となる。


「てめーらみたいなガキが誰の差し金で参加してるか知らねぇけどよ。大怪我する前に降参しろ?」


「そうよぉ?私たちはご主人様にこの度の功績を褒めてもらってぇ、もぉっと可愛がって貰うんだからぁ」


「きゃはは!あの銃持ってる子!あたし好みでちょ〜サイコー!今夜1発どお?」


「…」


対戦相手は貴族お抱えの4人の女性。

恐らく全員が成人済み。

あのティンカーベル、さん、共々翼さんはモテるらしい。

短髪の女の子が手を振ってウインクして随分と媚びを売っていた。

口の悪いチリチリ頭の女性。

随分と際どい格好の紺色の長髪の女性。

翼さんだけでなく会場中に媚びを振りまくオレンジ頭の女性。

そしてボサボサ頭で水色の毛先だけ黒い女性。


「あなた方がどういうつもりかは知りませんが、こちらも手加減を致す気はありませんのでご了承くださいね?」


明莉さんが丁寧にお辞儀をする。

それはまるでお姫様に仕える執事のような動きだった。

綺麗な赤い髪が風に靡いていた。


「では皆さん!開幕!!!」


その言葉を合図にオレンジ頭が人間業とは思えない跳躍力で明莉さんの頭上へと跳んで来る。

紺色の人もそこそこ速いスピードで明莉さんの懐へ。

チリチリ頭の人は、若干遠回りをしながらどうやら私たちの方へと来る気のようだ。

ボサボサの人は動かない。


「すきありぃぃぃい!!」


「まずは1人目!」


オレンジ頭と紺色の人がそう叫んで切りかかった剣を、明莉さんは斜め後ろに避けた。

正面から刺突しようとした剣は空を刺し、避けた先に振り下ろされた剣は地面に突き刺さる。

見切って避けた明莉さんが紺色の人の剣を叩き落とし、オレンジ頭をの人を思い切り蹴っ飛ばした。


「へ、ぶぅっ!!!」


振り下ろしまま空中に停止していたオレンジ頭は微妙な声を上げて飛んでいく。

よく見るとその足は筋肉質で毛皮を纏った兎の足になっている。

勢いよく吹き飛んだオレンジ頭は、翼さんが照準を定めたチリチリ頭に綺麗に突っ込んでいく。

そしてチリチリ頭を巻き込んだままオレンジ頭と共々壁へ激突して行った。


「ひぇ…壁にめり込んだよ…」


敵だと言うのに痛そうで思わず声が出た。

ちなみに衝突で生じた煙幕が晴れると、2人は白目を剥いて壁に突き刺さっていた。

死んでは、ないらしい。


「なっ!?能力者!?」


紺色の人が気絶した2人を見て驚愕している。

そりゃそうだ。

人はあんなに飛ぶもんじゃない。

つい先日蕾に蹴り上げられた人は全身ボロボロにされていたけれども…。


「遅い」


明莉さんの一言で紺色の人は青ざめた顔で後ずさる。

その人のお腹目掛けてうさぎ足の蹴りが容赦なく襲いかかって、後ろにいたボサボサ頭を巻き込んだ。

と、思った。


「ボクの邪魔をするな色ボケ魔人」


飛んできた紺色の人を容赦なく地面に叩き落としたのはボサボサ頭。

紺色の人が吐血しながら耳を塞ぎたくなるような音がしたのは気の所為だと思いたい。

背骨が折れたのではないか。


「ボクの名前は水玉(ミズタマ)。夜族の末裔だよ〜。あっはは!」


そう言いながらボサボサ頭が両手に鉤爪のような武器を装着する。

顔を上げた彼女は不気味に笑いながらこちらへと突撃してきた。


「ボクの能力はね!『風』を纏う能力!!風のように速く!風のように鋭くなれるんだ!!」


蕾に負けないスピードかもしれないと思った。

明莉さんを無視して翼さんへ突っ込んでくる。

明莉さんもそのスピードには追いつけなかったのか、焦って手を伸ばしてくるのが見えた。

彼女が回転しながらそれこそつむじ風のように飛んで来る時、地面が爪痕のように抉られていく。

かまいたち。

空気中に真空ができて鋭利な刃物のようになる自然現象。

彼女はそれを鉤爪の先に纏って鉤爪よりも遥かに大きな見えない刃物を装着しているらしい。


「紬!愛ごめん!」


翼さんが咄嗟に発砲するもそれは纏われた風によって、あらぬ方向に逸らされる。

そしてまずいと感じた蕾が愛ちゃんを私へと放り出し、一瞬にして翼さんの前へ。

人のサイズの弾丸へと化した彼女に向けて左腕を突き出した。


「……え、と、全員戦闘不能…と確認!勝者は翼チーーム!!」


会場に静寂が立ち込めた後、相手チームは全員気絶しているのを確認した司会者が困惑気味にそう叫んだ。

会場も何が起こったのか分からず静まり返っていたが、アナウンスを聞いて歓声があがる。

『前』を魅せる。

指先で触れたものを眠らせる能力。

そして謎の神速を持つ足。


「蕾!!最後、ごめんなさい」


左腕を無数に切られ、頬から血を流す蕾に明莉さんが駆け寄る。


「ん?あぁうん。まぁ大丈夫」


「明莉、愛を頼む」


翼さんはそう言うと蕾を軽々と抱えて控え室へと走っていった。

男の子なのに兄に横抱きにされて明らかに焦っていた蕾の心情はお構いなしである。

控え室で蕾の手当てをするとかなり痛々しいことになっていたが、相変わらず綺麗さっぱり治せるのだった。


ちなみに予選最終日の次の日、体中の武器をぶん投げるしか脳のない男はあっさりと明莉さんの前に倒れた。

女性2人はそれを見てすぐに降参したため、あまり歓喜に浸ることなく本戦へと進むことになった。



少々遅れました

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