異世界で、かたくする。
ヤマナシオチナシ。
カップラーメンを待つ間にでも流し読みして頂けると喜びます。
『貴方にも“異能”を授けましょう』
事故死した時にそう女神に言われ、日本からファンタジーな異世界に転生して早28年。
冒険者生活14年目にしてベテラン(単に長くやってるだけ)のソロ。
Dランク(下から3番目)のボクは今日も今日とて日銭を稼ぐだけで精一杯な生活を送っている。
「はぁ。 ひのふのみの・・・銀貨6枚。 今日もこんだけか・・・」
冒険者ギルドで依頼終了の手続きを終え、定宿に戻る道すがら報酬を確認して溜め息が出た。
今ボクが住んでいる街では、一般的な宿屋に泊まるのに一泊銀貨2枚。
庶民的な食事1日分で大体銅貨5枚(銀貨1枚の半分)。
なんやかや使う消耗品の補充で銀貨1~2枚は使う。
で、手元に残るのは半分以下になるんだが、これもいざと言う時の為にぱかすか使うわけにもいかないから
自由になる金が本当に少ない。
いざと言う時って何だって?
そりゃ呪われて解呪を教会で頼まなきゃならん時だったり、武器を買い換えなきゃならなくなった時だったり、色々さ。
本当はもっとランクを上げて稼げるようになりたいんだが、ボクには無理だ。
なんせ“異能”が“異能”なだけに厳しい。
転生の時に女神からボクが貰った“異能”は―――
「おお? なんかしょぼくれたヤツがいると思ったら“盾男”じゃねーか」
掛けられた声に振り向くと、ガタイのいい中年のスキンヘッドの冒険者が串焼き片手に立っていた。
「え? ああ、えーっと・・・一昨日の」
「おう! 一昨日は世話になったな。 また頼むぜー!」
「あ、うん」
その会話を最後に去っていく背中を見送って、ボクも宿に向かって歩き出す。
そうして顔の向きを変えた際、探し人の張り紙が目に付いた。
この手の張り紙はこのところ増えている様で、行方不明者の増加が見て取れるから嫌なもんだ。
冒険者ギルドでも隣街からも人探しの依頼が増えているのが目立つ。
家族は気が気じゃないんだろうなぁ。
「嫌な世の中だね」
ちなみにさっき呼ばれていた“盾男”というのは、ボクの二つ名だ。
Dランクで長くやっていることと、ボクのスタイルを揶揄された二つ名。
読んで字の如く、人型の盾になるボクに付けられたもの。
そう、ボクの異能は“かたくなる”だ。
自分は蛹型のポケモンだったっけ? と、疑いたくなる表記と名称だけど、コレが現実。
効果は【想定したモノがかたくなる】。
以上。
簡潔で分かり易いしょう?
この異能を使って自分の身体や装備を硬くして魔物のヘイトを集めて盾になるのがボクのスタイル。
まぁ、要するに盾にはなれても攻撃手段に乏しいから雑魚しか自分では倒せない人間の盾って意味な訳で。
他に突出した技能も無いし、使える魔術は初級~中級の初歩。
ああ、訂正。
盾を持って魔物の群れを誘導したりもするから、素早さと度胸はちょっと自信あるかも?
自分で言うのもなんだけど、この街の冒険者の中ではちょっと知られた存在でもある。
そんな前述の情報も出回っているからパーティーは臨時以外では組みづらい上、
組んでも行ける狩場も限られるから長年ソロ。
だから、たまに壁役が居ない他のパーティーから依頼を貰って期間と場所限定で組んで報酬を貰うか、1人で可能なショボい依頼をこなすのがボクの主生活。
「ただいまでーす」
「おう! 晩飯はどうするよ?」
定宿にしている「鳥休む若木亭」に戻りカウンターに声を掛けると、そんな声が奥から帰って来た。
声の主はこの宿のマスター(38歳バツ1の強面。 普段いい人なんだけど、元アル中の酒乱)だ。
「あとでまた降りてくるよ」
「あいよぉ! そん時はまた声掛けてくれ!!」
「はーい」
マスターとそんな遣り取りをして、ボクは借りている部屋へと引っ込む。
本当にちなみにだが、この宿に看板娘なんてものは存在しない。
マスターには年頃の娘さんはいる(らしい)が、親権は元奥さんのもので、養育費を払っているが滅多に会えないそうだ(前に煤けた背中を見せながら語っていた)。
閑話休題。
荷物を床に降ろし、着ていた革鎧を窓際のラックに掛ける。
その際に木で出来た窓枠の下部に、同じ様な木の色に塗られた薄い板が挟んであるのが分かった。
「おや? 久しぶりだな。 まぁ、無ければ無いで、世の中が平和ってことなんだけど」
ボクはその木目のカードダスみたいなのを手に取り裏返す。
そこには―――
【不正・密売ノ証拠・裏付ケアリ 交易都市リッツバーグ都市長補佐 即断罪セヨ“惨”】
との文と、件の都市長補佐の自宅の住所が記されていた。
そうそう、こんなボクにも実は裏の顔なんてものがあったりするんだ。
「交易都市リッツバーグって、隣じゃないか。 今から行けば・・・晩飯には間に合うかな」
初級の火魔術でカードダス(でいいかもう)を燃やして消すと、ボクはクローゼットの中から黒い外套を取り、脇に抱えて部屋を出た。
「おお? なんだ? また出掛けるのか?」
「あーうん。 ちょっと買い忘れがあってね」
「そうか」
「じゃあ」
宿を出る際に掛けられたマスターの声にそう答えると、ボクは表から出て暗がりの裏へと回る。
そこで黒い外套を羽織ってフードを被る。
「・・・よし、行こうか」
そうしてボクは宿の屋根に飛び乗ると、そのまま異能を使い“空を駆け滑り”隣町の交易都市リッツバーグへと向かった。
おいおい、お前の異能は“かたくなる”だろうがよって?
そうだよ。
ボクの異能は“かたくなる”だ。
この異能の説明である【想定したモノがかたくなる】効果で、空気の層を【想定してかたくしている】んだよ。
この異能、“かたく”という部分と、ボクが元日本人というところがミソで、“かたく”は“硬く”“堅く”“固く”とも、他にも置き換えて想定することが出来る。
それこそ、自分の靴底に板を当てて、その接地面をツルツルに硬くすれば滑って移動することも出来る。
そんな訳で、ボクは結構な高度なまで空気の階段を作って駆け上がり、後は進行方向に空気の層の滑り台を作って滑り降りる。
降りる前に上り坂を作れば勢いも殺していけるから楽チン。
そうして夜の空中滑走を楽しんだボクは、なんちゃってカードダス記されていた都市長補佐の自宅の屋根の上へとやって来た。
ボクはフードを目深に被り、首元の余った布をマスクの様にしてその両方を堅くする。
こうすればマスクもフードもズレ落ちたりしないからね。
「カードは“惨”って書いてあったってことは、惨めに死なせろってことだよね・・・なら」
ボクは指先と靴先を硬くして、煙突の中を降りて屋内へと侵入した。
屋内は人が疎らにいるが、警戒態勢ではない。
ボクが今着ているこの黒い外套に施されている“隠形”の魔術の効果で一般人にボクは見えない。
その状況で悠々と家宅捜索をして副都市長の書斎を見付け、本人の姿も見付けた。
件の副都市長は生え際が少し後退気味な肥えた中年で、口ひげに食べかすを付けたまま晩酌をしている。
勿論、姿は見えずとも音は立ってしまうので、抜き足差し足で移動。
そうして扉の開閉に細心の注意を払い、書斎へと侵入し、
そのまま副都市長の背後へ立つと―――
「やぁ、こんばんは副都市長殿」
と、彼の耳元で囁いた。
「ごふっぷるぁ!?」
こうかはばつぐんだ!
彼は盛大にワインを噴出してくれた。
「だ!だr―――!?!?!?!?」
副都市長が大声を出しそうになったので、彼の声帯と唇、口周りの筋肉を固くして喋れなくする。
どうでもいいけど、ボク昔、国語のテストで「“くちびる”を漢字で書きなさい」って問題に「口唇」って書いて不正解になったんだよね。あれはGLAYのせいだ。
ボクがそんなことを考えている間にも副都市長は逃げ出そうとするから首、肩、肘、手首、手の指、腰、股関節、膝、足首の関節を固くして逃げたり助けを呼んだり出来ないようにする。
本当はこんな風に声を掛けたりする必要は無いんだけど―――そこはソレ。
ボクの自己顕示欲が火を噴いた。
・・・ってことではなく、彼に後悔させる為。
「まぁまぁ、落ち着いて。 えー、改めましてこんばんは。 ボクはテストゥード。 “王耳の断罪者”だ―――そう言えば分かるかな?」
「―――!!! ―――――!?!?!?」
「あー、今喋れないんだっけ? じゃあ、聞いてるだけでいいよ。 元々弁明なんて聞く気もないしね。
貴方の働いていた隣国への情報漏洩による売国行為、そして不正な人攫いを起こしての奴隷密売。
その証拠と裏付けが取れたからボクが来たんだしね。 あ、そうそう。 今回は貴方を“惨たらしく死なせろ”って命令が出てるんだけど、ボクの想像力だと限界があってさぁ。 ちょっと変わったことになるけど許してね」
そう告げてボクは、彼の身体と彼が飲んでいたワインのボトルを抱えて窓から外へ出た。
目指す場所は、この副都市長の最期の場所。
夜空を経由して着いた此処は―――
ハッテンバ!!!
「――――っ!?!?!?!? ――――!! ―――!?!?」
「何言ってるか分かんないからね? まぁ、任せてよ。 悪いようにしかなんないからさ。
あ、ついでに言っておくけど、ボクはヤらないからね? さて、と」
「―――!!!!」
なんか喚こうと頑張っている副都市長を取り敢えず下半身脱がす。
おえ。
ちょっとチビッてたらしくアンモニア臭がする。
「・・・ボクの外套大丈夫かな?」
とても心配だけど、続けて異能をオンオフしながら彼の体勢をケツ突き上げて自分で尻穴広げて開脚するうつ伏せで固定する。
「仕上げに、最後の晩餐をさせてあげよう」
「――――――っ!?!?!?!?」
そう宣言して、彼の口にくしゃっとした彼のパンツを捻じ込み、広げさせたケツの穴にはワインボトルを逆さに突っ込んで差し上げる。
飲みかけだったから、最後まで飲ませてあげないとね。うん。
「じゃ、そういうことで! すぅ―――おおい!ここに掘り放題なオッサンが落ちてるぞーっ!!!」
最後に挨拶と共にそう叫んで、ボクはその場をあとにした。
その後「鳥休む若木亭」に戻り晩飯にありついたボクがワインを飲まなかったのは仕方の無い出来事だった。
それから4日後、冒険者ギルドの受付嬢(嬢と言ってももう直ぐ40歳独身のザボーネさん)から
「隣街のリッテンバーグの副都市長がね、ハッテンバで遺体で見付かったんだってさ。 しかもパンツ食べてアレ塗れの姿で。 汚いオッサンでも需要あるのねぇ」
なんて話を聞いた。
そしていつも通りに日銭を稼いで「鳥休む若木亭」に戻ると、
また窓枠の下部に、同じ様な木の色に塗られた薄い板が挟んであるのが分かった。
その裏面には
【交易都市リッツバーグ都市長補佐 断罪“惨” 今回ノ点数―――68点】
と、書かれていた。
微妙だ。
「うーん・・・まぁ、こんなもんかなぁ。 惨めと言えば惨めだけど、微妙だったし・・・」
そうそう。
ボクには裏の顔があると言っていたけど、それがアレ。
“王耳の断罪者”のこと。
これはこの国に仇成す者を王の耳となる諜報機関が調べ上げ、クロとなった者の中で大っぴらに処罰し辛い者や悪質な者を処分するお仕事なんだ。
稼ぎもそこそこいい。
今回のことでも金貨15枚(日銭稼ぎの25倍)は貰えるしね。
それで稼げるじゃんって?
そんな滅多に来るもんじゃないからね。
この仕事が多かったら、それこそこの国潰れるでしょ。
それもそうだけど、冒険者の仕事でももっと異能を活かせと?
それも尤もなんだけど、ボクね。
日本で好きなTVは必殺な仕事人シリーズだったんだよね。
やってることはズレてるけど、昼行灯に憧れもありまして。
心臓を硬くしたりも出来るけど、それやったら今度はボクが危険人物認定されそうで怖いし。
この異能って実は暗殺とか向いてそうだし?
すれ違い様に心筋梗塞起こさせたり、内臓の動き止めて病死に見せかけたり・・・うわぁ。
やばいでしょコレ。
と、いうことで、明日からもボクはまた日銭稼ぎに精を出しますよ。
なんでって?裏の顔で稼いだお金は老後の貯金に回しているのです。
知ってる?
地球だろうと異世界だろうと、老後にモノを言うのは金なんだよ。
最初は違ったんです。
最初は肛門硬くして糞詰まりで死なせるオチだったんです。
でも気付いたら変わってました。なんでだろう?
なんかもう、色々読みづらくて分かりづらくてすみません