同日、帰路 夕方 前編
「かづ兄ぃやっぱり昔と変わってないね」
『……え?』
「外見は……そのニット帽とか髪の色とか変わったけど……中身は全然変わってない。
昔と同じ優しいかづ兄ぃだよ」
『……気のせいだ』
「違うよ!だって、今日だってなんだかんだいいながら……」
『あんなのいいように使われてるだけだ』
「そんな事無い!そんな事無いよ!!」
惟舞は俺に詰めよって言った。
惟舞の目は涙が出そうなくらい潤んでいた。
俺は目を反らして言った。
『好きにしろ……』
「やった!」
惟舞の顔はすっかり笑顔になった。
(……俺もまだ……甘いな。
この甘さを切り捨てないと……)
(かづ兄ぃなんで……辛そうに笑ってるの……?)
その時、俺の携帯が鳴った。
『ッ!!!!』
「あれ?この曲ってクラシックの……?」
『……惟舞、ちょっと電話に出るから先に行っててくれ』
「え……いいよ、待つから」
『……先に行っててくれ』
「……う、うん……」
…………
……そろそろだと思っていた
俺の携帯から鳴った曲……
J.S.バッハの『トッカータとフーガニ単調BWV565』……
この曲は本来俺の携帯に存在しない。
なのに何故鳴ったか?
理由は簡単だ。
始まるからだ――
アレが――