カンニング疑惑
一応、正直に女国士無双のことは否定しておいた。
ミカちゃんは「ホントに~?」とちょっと疑っていたが、みんみんは、
「分かった。お前も大変なんだな、オージ」
とオレの肩に静かに手を置いた。
ドルチェにきゅいんきゅいんと鳴かれながら、みんみんはミカちゃんと帰って行った。
切ない鳴き声を聞いて思った。ドルチェには外見星野央治の中身がご主人様だと分かってるって。
おっと。明日は単語のテストじゃん。物理の小テストもある。そろそろ世界史の抜き打ちテストもあるころ。
が、勉強したくてもプリント類が揃ってねーし。くそっ。
オレはまず、情報を得るところからスタートするしかなかった。プリントや問題集の写真を送ってもらった。こんなことを頼めるのは可憐。
ネットで繋がりながらオレは切なく胸を焦がした。黙っててごめん、可憐。
翌日。
朝一で地図帳を持ち主に返した。
「そっかー、みんみんに貸したんだったんだー」
そいつはいつなくなったのかも把握していなかった模様。オレから地図帳を受け取ると、上履きの後ろを踏んだまま、ずるずると引きずるように歩いて行った。ゆるーっとした感じ。みんみんと同じ匂いがする。
2冊あった現国の教科書の1冊は、職員室前の遺失物の箱に入れておいた。
歩いていると「みんみん、うぃーっす」と声をかけられる。慣れてきた。
隣の席の林は1番仲がいいようだ。
「なー、みんみん。今日、早くね? いつも遅刻ギリギリなのに」
みんみんはそんな生活してるのか。
「地図帳返したかったし」
そう答えると、林はちょっと意外そうな顔をした。
英単語のテストは授業の最初に毎回行われる。隣と用紙を交換して答え合わせ。全問正解。クリア。
「すっげー。みんみんどーした?」
隣の席の林が驚いてたし。
物理の小テストも手応えあり。
予感的中。世界史は抜き打ちテストだった。論述問題が難しかったが、クリア。
昼休み、隣の席の林と弁当を食べているとき、担任に引っ張られた。
「来い。平」
「え、みんみん、どーしたの?」
「分かんね」
オレは首を傾げる。
連行された先は進路指導室。鬼瓦のような顔の担任が更に顔のシワを深くしている。
「座れ、平」
まさか、オレとみんみんが入れ替わっていることがバレたのか? それならそれで理解者が増えて心強い。
「人間は正しく生きなきゃならん」
は?
「はい」
一応返事。
「例え校内模試の順位でお前の下に不登校者と欠席者しかいなくても、そんなことは社会で正しく生きることに比べたら大したことじゃない」
「はあ」
「単語は机にでも書いておいたのか? それとも筆箱にカンニングペーパーを入れたのか? 物理と世界史は問題を盗んだのか?」
やっと分かった。どうしてオレがこんなところへ呼ばれたのか。
みんみん、お前、どんだけ勉強してねーんだよ。実質ワースト1だったのかよ。
「勉強しました」
正直に答えた。
ばんっ!
担任は机を叩いた。
「んなわけないだろ。1日24時間寝ているお前が、どうしてあんな点数取れるんだっ」
みんみん、せめて普通の成績くらい取っとけよ。オレがこんなこと言われるなんて理不尽なこと極まりない。
「本当です」
その後オレは、単語テストに出た単語を発音していった。日本語、英語、スペル。
「英語は分かった。でもな、物理や世界史は1日2日でできることじゃない」
売り言葉に買い言葉。
「だったら、もう一度違う問題でテストをしてください」