カノジョはまだ誰のものでもありません
可憐とつき合うことになったのは、オレが告ったから。
顧問同士が仲が良くて、サッカー部とダンス部は合宿が一緒の場所だった。
合宿所、星降る空の下で2人。昼間紅白戦でハットトリックを決めたオレはノリにノッていた。この調子なら告白も上手く行くんじゃないかって。
『天使さん、つき合ってください』
可憐はちょっと考えてから『友達からでもいい? つき合うってよく分かんなくって』と恥ずかしそうに答えた。後から考えればOKとは言い難い。が、舞い上がっていたオレは『マジで? いーの?』とガッツポーズ。で、今に至る。
キスはした。唇が振れる感じの。それ以上は心臓がもたん。
キスであんなに大変なのに、みんみんとミカちゃんは……。すっげー心臓が頑丈なんだろーな。
可憐はオレを好きなんだろうか。自信ねーし。
周りはオレらのことをお似合いのカップルだと言う。絵に描いたようだと。
可憐はオレを好きなんじゃなくて、周りにそう思われたいだけかもしれない。そこそこ外さない外見でモテ男が多いサッカー部で1年からレギュラー。
もし、それが可憐にとってのつき合う理由だったら、今のオレはフラれる。
サッカー部じゃない。授業中にいつも居眠りしているだけの平民男。
「え、黙ってろってこと? じゃ、オレに天使さんとつき合えってこと?」
みんみんが自分自身を親指で指して、そのまま角度を変える。イイネ。
「はあああああ?! 何言ってんの? 二股かけるってこと? ふざけないでよ。そんなことしたら許さないから。別れる! みんみんと別れる。別れるときは女子のみんなに『星野央治は性癖異常の鬼畜野郎』って拡散してやるから」
ミカちゃんは恐ろしいことを言い放った。
「え、みんみんじゃなくてオレが言われるわけ?」
釈然としない。二股をかけるのはみんみんなのに、不名誉な噂はオレ、星野央治が被るなんて。
そんなレッテルが張られたまま元に戻った日には、お天道様の下を歩けねーじゃん。
「だってそーじゃん。みんみんは今、星野央治なんだもん。二股をかけるのは星野央治でしょ?」
ややこしい。
「オレー、ミカちゃんが嫌がることはしたくないなー。ま、さ、あんな綺麗な子と歩いてみたいくらいは思うけど」
どすっ
みんみんはミカちゃんのスクバ攻撃を受けてベッドの下に転がった。
「大丈夫。いつも一緒に帰るときは並んで歩くだけだから。頼む」
オレはみんみんではなく、ミカちゃんに手を合わせてお願いした。
「ホントに並んで歩くだけ?」
「おう」
「手ぇ繋がない?」
「部活でデートはあんま、できねーし」
「キスもなし?」
「人前や街中でできるかっ」
ミカちゃんは細かにオレに確認してくる。そして一言。
「くそつまんねー男」
ぱっりーん
オレのグラスハートは砕け散った。
「まさか、お前まだ、天使可憐とやってねーの?」
みんみんはかなりの砲弾をぶっこんできた。オレは無言で首を縦に振った。
「じゃ、女子の間で流れてるあの噂、本当だったんだ」
とミカちゃん。
「「噂?」」
どんな?
「星野央治は女性遍歴がすごくってJKごときにガツガツしないって。だから天使可憐はまだ誰のものでもないって。そうなの? そうなの? どーなの?」
ミカちゃんはオレににじり寄ってきて興味津々。
「女性遍歴?」
オレ、天使可憐が初めてのカノジョだけど。
「中学のときに家庭教師と教育実習生を手玉にとって、サッカー合宿ではテニサーの女子大生とワンナイトラブ、人妻とすったもんだあったけど、高校生になって汚れた恋愛から足を洗った」
誰それ。めっちゃ羨ましいんだけど。