やっぱお兄ちゃん変
離れを出るときに深呼吸。
家族構成は祖父母、両親、妹、ドルチェ。
妹のことは「ブス」と呼ぶ。
いざ。
がらがらがらがら~
母屋の玄関を開けた。
「わんわんわんわんわん」
来た。いきなり。ドルチェ。怖っ。
オレがサンダルを脱いで上がろうとすると、母親が出てきた。
「どうしたの? みんみん、玄関から入って来るなんて。だからドルちゃんがびっくりしたのねー」
ほわほわーっと笑いながらドルチェを抱きしめる。
みんみんの母親は聖母のような美しさ。めっちゃ優しそう。妹の顔は母親似か。
「お邪魔します」
やばっ。間違えた。
「もー。みんみんったら、ふざけてー」
「はははは」
笑ってごまかす。心の中で冷や汗。
リビングダイニングは賑やかだった。
爺さん2人がカーテン手前にある縁側っぽい場所で将棋中。リビングのソファでは婆さん3人がくっ喋り、足元に犬3頭が戯れる。ダイニングテーブルには父親&妹。キッチンに母親。
「こんばんは」
恐らくお客様が混じっているだろうジジババ連中に挨拶した。
「お帰り」
「お帰りなさい」
「おう、みんみん」
「みんみん、ますますいい男になってぇ。私と再婚しない?」
「またボーリング行こうね」
よー分からんが、みんみんがババアにモテている。
微笑みながらダイニングテーブルに着席。と、
「お兄ちゃん、どーしたの? その席お祖父ちゃんの席じゃん」
妹に指摘された。
さあ、どーする。どこなんだ。一旦トイレに行ってみんみんに電話するか。いや考えろ。考えるんだ。席は6つ。父親と妹はそれぞれの席に腰掛けている。空席は4つ。しかし1つは祖父の席と分かった。そして、母親の席というものはキッチンの1番近くの下座と決まっている。ということは、残りは2つ。確率は二分の一。
みんみんは身長約180で手足が邪魔。真ん中の席じゃない。ここか?
がたっ
オレが妹の隣のイスを引くと、席にはランチョンマットが敷かれ、箸置きと箸が添えられた。
ヨカッタ。ほっと胸を撫でおろす。
天ぷら、ポテトサラダ、春菊と椎茸の和え物、ナスの御御御付け。
「いただきます」
「どーぞ、召し上がれ」
「いただきます」の答えが返って来るなんて。レア。
母の手料理を食べる日だって、大抵は1人で食卓に座る。父は仕事。母はバタバタと家事か持ち帰った仕事をしている。
湯気が立ち上る御御御付けを一口すする。なんか体に沁みて来るんすけど。オレがいつも食ってる、家政婦さんの飯って温め直したものなんだよなー。母の料理はカレーや鍋が多くてさ。仕事から帰って急いで作るから時短第一なんだよなー。
「うまっ」
「ふふっ。みんみんったら、いつも何にも言わないのに」
喋ったらボロが出る。黙って食おう。
かき揚げが旨すぎ。からっとサクサク。玉ねぎ&小エビ&ホタテ&パセリ。こっちのは玉ねぎ&ゴボウ&人参&コーン&しらす。アスパラのベーコン巻きもからっとサクサク。
「お兄ちゃん、明日友達が来るからこっちの家に来ないでね」
妹が桜貝のような唇を動かす。が、内容は辛辣。
「ん」
みんみんは、返事はこんな感じだと言っていた。練習済み。
「こんなダサいお兄ちゃんがいるってバレたら、恥ずいじゃん?」
言われ放題だぞ、みんみん。
「……」
無視しておこう。
「やっぱお兄ちゃん変。いつもだったら『うっせーブス』ってゆーのに」
「言えねーし。可愛いじゃん」
反射的に言葉が口から出てしまった。
「「「……」」」
あれ? なんか静か。春菊と椎茸を箸で摘まんだまま顔を上げると、驚いたみんみんの両親と目が合った。隣の妹を見れば、首から上が真っ赤。