能天気平民男
で、早退。オレ、星野央治の家に2人で帰宅。
両親とも仕事で家にいないから。
イスに座って眉間に皺を寄せるオレに反して、ベッドで鏡を見てウハウハのオレ。つーか、オレの姿をした中身、平民男。
「やっべー。どっから見てもイッケメーン。オレ、明日からモテまくりじゃん? 手作りクッキーとかレモンのはちみつ漬けとか貢がれまくりじゃん? でさー、いーよなー、洋風の家。どっかの企業の保養所みてーだなー、お前んち。なーなーなー、キレーなねーちゃんとかいねーの? お前と似てるんだったら、やっべーじゃん」
どんだけ能天気なんだよ。この男。
「平、てめーは危機感とかねーのかっ」
思わず声を荒げるオレ。
なのに平はベッドでの寝転んだまま。
「みんみんでいーし。友達みんなそー呼んでる。星野はさー、オージだよなー。オーちゃんにする?」
そこ、どーでもいーだろ。
「どーするんだよ。これ」
オレは立ち上がって両腕を広げた。この体、完璧に平民男。
まず、親に話して、友達に理解してもらって、学校はその後か。
考えを巡らせる。
「んー。別に、なっちゃったもんはしゃーねーじゃん?」
「平っ」
「みんみんでいーし」
オレの姿をした平はベッドの下辺りをゴソゴソと漁り始める。
「何してんだよ」
こんな時に。
「エロいもんあっかなーって」
「アホかっ」
「なー。イライラすんなって。そのうち戻るんじゃね?」
なんでこんなに楽観的なんだよ、こいつ。
「根拠は?」
「んー。なんとなく」
こいつにまともな答えを期待したオレがバカだった。
平民男。あだ名はみんみん。授業中は大抵寝ている。
学祭ではバンドをしていたっけ。テニス部だったよーな気がする。絡みは挨拶以外特にナシ。
オレは星野央治。サッカー部、フォワード。
カノジョはミスG高。
「へー、オージってすっげー参考書いっぱいじゃん? やっぱ学年10位以内は勉強してんだなー」
オレの姿の平、改めみんみんは本棚を物色し、
「なー、どんだけ海外チームのユニフォーム持ってんだよー。やばっ、ザ・ノースフェイスのジャケ3着もあっし。アディダス多っ」
ウォ―クインクローゼットで騒ぎ、
「部屋にシャワーあんのかよー。おっ、シャワージェル、いー匂いじゃん。うわっ」
シャワールームでうっかり天井から水を浴び、びしょ濡れになった。
元に戻ることを考慮すると、それぞれこれまでのまま、お互いのフリをして生活するのが平穏だろうということになった。もちろん、みんみんは何も考えていない。首を縦に数回振っただけ。
オレはみんみんの家について聞いた。
「んー。オレの部屋、離れだからさー、飯食うときだけだなー。風呂入るときと。テレビはオレの部屋にもあっしー。観たかったら部屋で観ればいーし」
「テレビはほぼ観ない」
現在高2。来年は受験生。テレビを観ている余裕はオレにはない。新聞の1面&ヤフーニュース&ブルームバーグでOK。
みんみんは家族構成や注意事項を挙げていく。
「じーちゃんばーちゃんオヤジとかーちゃん妹」
5人も欺かなきゃいけねーじゃん。大変。
「妹か。オレの方は大学生の兄がいるけど留学中だから大丈夫」
みんみんは続けた。
「ドルチェっつー犬いるんだよ。そいつ、遊びに来たらドア閉めてあげて」
ドルチェか。可愛い犬なんだろーなー。
ん?
「開けてあげるんじゃねーの?」
「自分で開けっから。でも閉めねーの。開けっぱだと虫入ってくるんだよなー。ムカデとか蛇も」
ムカデと蛇?! それはマズイ。カブトムシとクワガタムシ以外はムリ。ムカデとか蛇とかもう失神レベル。
「絶対閉める」
いったい、どんな山ん中なんだよ、みんみんち。