レギュラー落ち
当然のことながら、みんみんはサッカー部でレギュラー落ちした。
いくらみんみんがサッカー経験者であっても、中学3年間+高校1年間のブランクは大きい。弱小チームであろうと、他のメンバーは来る日も来る日もサッカーをしていたのだから。
「なんかさー、どー動いていいか分かんねーし」
平家の離れ。みんみんは申し訳なさそうに言った。
ドルチェがみんみんの横にぴったりと寄り添っている。
「しゃーないって。当たり前だって」
「小学校のころってさー、結構ドリブルでボール運んでたかも。でもなー、完璧にパスサッカーじゃん。周りの動き見るのって、こんなに大変だったんだなーって」
「クーン」
しょんぼりと項垂れるみんみん。その横で一生懸命話を聞いているドルチェ。
「へーき。もし元に戻ったら、また頑張るから」
みんみんを見て思い出したのは、オレが1年のときレギュラー入りしたためにレギュラー落ちした2コ上の先輩の姿だった。「すみません」なんて言えないし、普通に挨拶してたけどさ。それ以外は喋れなかった。
先輩が引退するとき、1コ上の同じポジションだった人に言われた。
『オージの仮入部1日目でさ、やっべーぞ、アイツどこのポジションだってざわついたし。で、先輩とオレでポジション変えよっかなーつってた。ははは』
2コ上の先輩は夏の最後の公式戦に出場することなく引退し、1コ上の先輩はポジションを左のトップに変わった。オレがいる限りトップの右はムリだと思い、左脚でのシュート練習をしまくったと語った。
「でもさー、Bチームに友達できた。居心地いーかも」
みんみんはほっとした様子。
Bチームはレギュラー以外で構成される。ポジション争いはほぼなく、練習試合の出番は均等。そのせいか和やか。オレから見れば向上心や闘争心に欠ける。が、いいヤツばっか。
例えば、誰かが試合中にケガをすると、Bチームのヤツらは心からチームメイトを心配して動く。試合後も普段も気にかけて重い物を持ってやったりする。
レギュラーチームは違う。例えば誰かが試合中にケガをして、そいつが松葉杖で戻ってきたとき、同じポジションの控えの選手はガッツポーズをする。声には出さない。でも思わず体が動いてしまったところを見た。レギュラーチームのそういった空気は好きになれない。
「へー。可憐になんか言われた?」
口に出してから気づいた。オレが気にするのは、レギュラー落ちして凹んでるみんみんじゃなくて、可憐にどう思われるのか、だって。
自分のことしか考えてねーじゃん。ポロっと出た本音で自覚する。オレって、まんま、自分が嫌だって思ってたヤツじゃん。
みんみんはオレに申し訳ないなんて言ってくれてるのに。オレの方は自分のことばっか。
「天使さんはさー、まだそんなん知らねーし。わざわざ言うことじゃねーじゃん」
だよな。
「そっか」
「でも宝田が喋ってるかも」
「えっ」
「部活終わったとき、宝田、オレの方をチラ見してから天使さんのとこ走ってった」
「えっ」
なんだって。
宝田が行動に出たってこと?!
宝田はレギュラー。不動のセンターバック。後ろからゲームを把握して指示を出す誰の目から見てもかっこいい漢。
「最近、宝田と絡みねーから、オレ。オージの友達だけど第一印象悪すぎでさー。ごめん」
「それは。オレがみんみんだったとしてもそうすると思う」
「でさー。オレ、林に入れ替わったこと言った」
「はああああ?!」
「ワンワンワンワンワンワンワンワン」
驚いたオレが大きな声を出すと、それに反応したドルチェが「ご主人をいじめた」とばかりにオレに吠えた。
林に。
みんみん、ぜんぜん黙ってる気ねーじゃん。