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今度、寝ぐせ見せてね

声で星野央治じゃないとバレる。

でも、可憐の声、聞きたい。

可憐と話したい。


「もしもし」


口元をたれーんとなったスエットの袖口で覆って喋ってみた。


『オージくん?』

「ん」

『声どーしたの?』

「変?」

『かも』

「ははは。あ、プリントとか色々さんきゅ」

『ぜんぜん。役に立った?』

「もち」

『ふふふ。ね、オージくん、昨日の午前中、髪はねてたの?』


バレてるし。


「ちょっと」

『楽しみにしてたのに、5時間目にはもう直ってるんだもん』

「楽しみって?」

『寝ぐせとか、私が最初に見たかったなーって。ふふ。起き抜けで髪がはねたままであくびする姿とか想像したかったな』

「えっ」


それって。それって、前の晩にやっちゃってるシチュエーションだよな。2人で一緒のベッドで起きてるよな。エッロ。

可憐が? あの可憐が言ってる? スマホの向こうで。


長かった。ここまでの道のり。

少しずつ軽い下ネタを交えつつ、オレが聖人君主ではないことを伝え、徐々によりエロい話にシフトさせていった。


最初のはテディベアのお尻がかわいいって話。


『なぁ、この熊、ケツかわいくね?』



もふもふもふ



オレはテディベアのお尻をなでなでした。


『ホントだぁ』



もふもふ



可憐もなでなで。


『ケツってより、”おちり”って感じ』

『ふふふ』


こんな感じで。


中級編は二の腕神話。


『力こぶできる? オレ、あんまできねー』

『力こぶ? 見て見て』


可憐は腕を捲り上げて力こぶを自慢げに見せてくれた。


『意外。あるじゃん。触っていい?』

『うん』

『おっ。かっちかち』

『うふ』

『力抜いてみて』


ふにふにふに


『何してんの?』


可憐が不思議そうにオレを見た。


『二の腕の感触って胸と一緒なんだって』

『やだっ。ちょっと。もう、オージくんったら』


あの時、可憐はオレから飛びのいたんだよな。ちょっと傷ついた。

可憐の二の腕はマシュマロみたいだった。


最も最近のは、夏が終わった砂浜をビーサンで歩いたとき。


『なぁ、可憐。足の指と指の間で1番感じるとこってどこ?』


可憐は立ち止まって自分の右足の指の間を人差し指で確認していった。

首を傾げながらちょっと神妙な顔。

オレは、砂が白い人差し指を少しずつ汚していくのを眺めた。


『えー、どこだろ。薬指と小指の間がこそばゆいかも』


しゃがんだままオレを見上げていたっけ。


『親指と親指の間じゃん』



ぼっ



可憐の顔は夕陽よりも眩しく発火した。

思い出すだけできゅんきゅんする。


あの可憐が。今、寝ぐせリクエスト。感涙。

しかも、自分が最初に見たかったなんて。どんだけ可愛い独占欲だよ。

心配しなくても、オレの初めては全部、可憐のもんだから。

初めてのカノジョも、初めて手を繋いだのも、初ちゅーも。これからもぜーんぶ。


「じゃさ」


スマホに向かって色っぽい本音を冗談っぽく言おうと思った。が、オレは言葉を飲み込んだ。

「一緒に泊まりで旅行する?」って続きを言えなかった。言えねーじゃん。オレは今、みんみんなんだから。


『なに?』

「なんでもねーし」

『……』

「なんでもねーって」

『……

 ……今度、寝ぐせ見せてね』



きゅ――――――ん



「おぅ」


通話はそこで終わった。

すっげー好き。めちゃめちゃ好き。

今から可憐と出かけて、明日朝に寝ぐせを見せたいくらい。


でもオレは今、みんみん。


宝田が足掛け2年も可憐を見てたと思うと、それもオレの心を淀ませる。


こんなときは飯だ。飯飯。


うっまー。

サバの味噌煮。オレ、身の茶色いとこ好きなんだよなー。アサリの御御御付けもいいお味。大学芋もあるじゃん。ほっくほくー。トマトサラダは玉ねぎがいっぱいのドレッシング。冷え冷えー。

なんか、みんみんの家の飯食ってると、心ん中で語尾が伸びるよなー。


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