みんみん3日目
くさくさ考えてもどうしようもない。
オレは今、みんみんなんだから。
こんなときは体を動かすに限る。
ってことで朝練に出ることにした。ら、
あの~、部室の鍵、開いてないんっすけどぉ。
実質7時半っつってたから着替えと移動とネット張り、ストレッチを考えて7時15分に来てみた。
待つこと15分。
部長が来た。
「あれ? みんみん、忘れ物?」
挨拶の前にそれかよ。
「うぃ~。朝練」
「なんで?」
「なんとなく」
「ふーん」
部長が7時半にしか来ないと分かっているからか、部員もそれに合わせて登場。
オレとしてはサッカー部の試合でグランドでのパンイチ生着替えに慣れてるから、外で着替えてもよかったんだけどさ。
やっと練習開始。たらたらのストレッチを妙に長く感じた。
テニス、楽しー。メキメキ球に慣れてくるのが分かる。自分の体と違って、コンマ秒、脚の動きが遅れる気ぃする。それも含めて慣れてきた。
腕は、みんみんの方がオレよりも器用なんじゃね? さっすがテニス部。
そういえば、昨夜、みんみんの顔を見た。
想像以上に整っていた。
夕食のときにみんみんの父親を眺めると、メタボに騙されそうになるが、パーツはGOOD。
でもって、みんみんの目は母親譲りの優しそうで色っぽいタレ目。
みんみんって実はイケメンじゃね?
アゴとか実はシャープなんっすけどー。
前髪のもさっとした印象が強すぎるだけじゃん。
洗面台にあった妹のジェルを使ってみたら、おおーっ、イケる。
イケメンって要はさ、雰囲気も大きいんだよな。
ぼさぼさぼさっ
鏡の前でオレは自分の前髪を元に戻した。
あかん。
開眼したら、みんみんじゃなくなる。
あの時、振り向いたら妹がいたんだよな。
『びっくりした』
『お兄ちゃん、人のジェル使わないでよね』
『あ、ごめん』
『やっぱ変だよ。お兄ちゃん』
『ん?』
『鏡なんて見なかったじゃん。カノジョができても髪なんか気にしなかったのに』
『んー』
言葉に詰まる。
『シャキッとし過ぎだし。頭ごんごん鴨居にぶつけてるし』
『うっせーな』
『ほら』
『は?』
『ブスって言わないじゃん』
仕方ない。不本意だけど。
『ブース』
ばっちーん
殴られた。
弁当は前日のスペアリブが入っていた。
うっまー。1日経っても、スペアリブ柔らかー。
温かかったときって、脂が舌の上で蕩けたし。とろーって。
オムそばもあるじゃん。いーじゃん。
デザートは手作りの洋ナシのコンポート。これも旨ー。
カンニング疑惑は放課後に解けた。つまり、オレはみんみんと入れ替わったまんまってこと。
担任の鬼瓦は高校受験のときの点数表を持ち出していた。
「平、お前、入学んときのテスト、すっげーんだな。論文問題トップだぞ。調べたんだよ。内申点はダントツの最低だったけど、テストはいい。お前はやればできる。頑張れ、平。クラスの平均点をガンガンに下げて、いっそのことテスト受けるんじゃねーって思ってたけど。見直したぞ」
そこそこサイテー発言をする鬼瓦。オレが星野央治だったときは「星野君、いつも頑張っていますね」なんて言葉遣いなのに。みんみんには、これかよ。本音出まくり。
可憐とメッセージでしかやりとりできないのは不便だけどさ、このままでもいいかも。
飯旨いし。
妹可愛いし。
ドルチェ懐いたし。
テニス面白くなってきたし。
星野央治に戻ったら、宝田とご対面するし。
ぶぶー ぶぶー ぶぶー
ベッドに仰向けになっているとスマホが電話着信を告げた。
宝田だったらどうしようか、と思ったら、可憐だった。