イケメンは寝ぐせ禁止
いくらみんみんだって、カンニングなんて不名誉なレッテルを貼られるわけにはいかない。
「よし、分かった。物理と世界史の先生に頼んでおく。いいか、オレは平がそんなことをする人間とは思ってないんだ。今まで成績なんて興味すら持たなかったんだから。お前、頭悪いけどいいヤツだもんな、平」
言いながら担任は悲しそうな顔をした。これ、めっちゃ疑ってるじゃん。
「先生。信じてください」
オレはびしっと言い切った。ものの、ふと不安が過る。もしも2回目のテストまでに元に戻ったら、みんみんはカンニング野郎決定。どーする。
進路指導室を出ると、そこにはミカちゃんと林がいた。
「みんみん」
「大丈夫かよ? 何か言われた?」
「英語と物理と世界史のテスト、カンニングしたんじゃないかって」
「ひっでー、なんだよ、それ」
怒る林の横で「きゃはっ。ウケる」と笑うミカちゃん。おいおい。
「もう1回テストすることになった」
「マジで?」
「えっ」
オレの言葉にミカちゃんの顔が曇った。オレと同じことを思ったんだろう。テスト前にみんみんとオレが元に戻ったら、みんみんはカンニング疑惑を免れないって。
即行、みんみんを呼び出した。そして謝った。
「ごめん。オレ、いつもみたいに、ついうっかり勉強して」
対するみんみんは、
「別にいーし。てか、オレの方こそ。全然できんかったー、テスト。はははは」
笑ってるし。
校舎別棟の1階奥、階段の向こう側で。使わなくなって処分を待っている机やイスが積まれている場所。誰も来ない。2人きりで話せる。
「もしも、もしもテスト前に元に戻ったらさ、みんみん、まずいことになるかも」
オレは不安を口にした。が、そこはみんみん。
「んー? いーんじゃね? 1回いい点取ったくらい、どーでも。疑うヤツには疑わせとけって。説明なんてできねーじゃん」
「みんみーん」
いいヤツ。担任も言ってたっけ。いいヤツって。
ところで、みんみんの髪がぼさっとなっている。左後に派手な寝ぐせつき。上履きは後ろを踏んづけている。カーディガンの後ろが下がり過ぎ。おまけにYシャツの襟の一方がくしゃっとよれて折れ曲がっている。
ささっ
オレはみんみんの襟を直した。ぐいっとカーディガンも矯正。
「ん? 何? オージ」
「襟が折れてた」
「あ、どーも」
「髪さ、ジェルかワックス使えよ。つーか基本朝シャワー」
「夜風呂入ったのに?」
「家は基本シャワーだけ。寝汗で髪はねるじゃん」
「髪?」
なんも気にしてねーのか。
「一応、オレなんだからさ。ちょっとはいい感じにして。ワックスで」
みんみんにお願いした。
「オージぃ、そんなん持ってんの?」
「リュックに入ってっし」
「どーやって使うの?」
「は?」
「オレ、使ったことねーわ。すっげーくせっ毛だから」
そっか。
オレは自分の邪魔な前髪を触ってみた。くせっ毛。
「むしろ、こーゆーのをジェルとかですればいーじゃん。ま、今は目立つことやめとくけど」
そういえば、みんみんの顔ってよく見てないよな。
前髪で顔半分見えてねーし。風呂んときは湯気で見えなかった。
だいたい、昨日は入れ替わってパニクってた。後で鏡見とこ。
「あのさ、ワックス取ってくるから、オージ、やって」
みんみんは即行でワックスを取って来た。
水で寝ぐせを直してからレクチャー。
「へー」
くんくんくんくん
みんみんはワックスの匂いを嗅ぐ。犬か。
「で、こうやって、こうやって、こんな感じ」
説明するが、鏡がないから伝わっていない気ぃする。
「へー」
「分かった?」
「んー」
分かってねーな。
「とにかく寝ぐせのままはやめて」
その体オレだから。
「ん。そーいえばさー、部活どーすればいい?」