入れ替わったみたいっす
小春日和に夢現
あかん。めっちゃ眠ぃ。数式とその下の線がぼやけてきた。それを書いているチョークが黄色と白の縞々に見える。
教師のチョークがチンアナゴ
いや確か縞々はニシキアナゴ。……眠ぃ。
寝るな。ここは前から2番目の席。下手すると最前列より教師から見える。寝るな、耐えろ。
がくっ
睡魔が体を揺らした。思わずオレはシャキッと姿勢を正す。がすでに遅し。
「星野くん。疲れてるんですか? 眠気覚ましに黒板の問題解いてください」
教師から指名された。ちょっとした注意で終わってラッキー。それにあの問題だったら解ける。
ガタッと立ち上がると、
あれ?
なんか眺めがさっきまでと違う。黒板が遠い。10m以上向こうにある。
隣の席のヤツが立ち上がったオレのカーディガンを引っ張った。
教師は、黒板のところからオレを一瞥。
「おい、平。また寝てたのか。座っとけ」
ははははっははは
ははは
はははははっははは
教室は和やかな笑いに包まれた。
平? 平って言われたよな?
さっきオレのカーディガンを引っ張った隣の席のヤツは「みんみん、寝ぼけるなってー」と気の毒そうに話しかけてくる。
いやいやいやいや、みんみんって? オレ、星野なんだけど。
取りあえず着席。座っているのは教室の1番後ろの窓側。
おかしい。確かオレは前から2番目の席だったはずなのに。
なんか、視界が悪い。目の前に髪がもさもさしてる。
前髪を手で避けながら前方を見ると、星野央治がぼーっと黒板の前に歩いて行く。ちょい猫背で上履きを引きずって。
あれオレじゃん。
なんで?
星野央治は黒板の前まで行くと、チョークを持ったまま直立不動。そしてダルそうに言葉を発した。
「分かりません」
は? すっげー簡単じゃん。解けよ。オレ。
教師は心配そうに星野央治を見る。
「大丈夫ですか? 星野君。具合が悪いなら保健室に行きなさい」
言われた星野央治は、チョークを置いた。なんか、チョークが白と黄色の縞々のチンアナゴ、じゃなくてニシキアナゴに見えるんだけど。まだ眠気が覚めてねーのかも。
「あー。じゃ」
短く答えた星野央治は、猫背のままずるずると教室の前のドアから退場した。
オレ、オレどこ行く。ちょっと。
教室がざわざわして女子がひそひそと星野央治を心配している。
「どうしたんだろ、オージ」
「具合悪そう」
「いつものオージと違うぅ」
「しんぱーい」
「私も保健室行っちゃおっかなー」
????
星野央治はオレなんっすけどー。あれ? あれ?
即行挙手。立ち上がったし。
「具合が悪いので保健室へ行きます」
指名されてもいないのに自ら宣言した。
教師は、メンドクサそうに手をしっしって感じで振りながらオレに言った。
「平か。目障りだから保健室で寝てこい」
廊下を走れば、すぐに星野央治のちょい猫背が見えた。
肩をぽんと叩く振り向いた。
「「%&&$# オレ!?」」
どうもオレ、星野央治は平民男と入れ替わったらしい。