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聖属性魔力がありあまる  作者: 羽蓉
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翌日…爵位を返上した三公と呼ばれた元公爵達が、それぞれ自領にて挙兵し王宮に向かっていた。


国を相手にするには、兵の数が少なく、心もとない。

しかし今のティヨール軍は、コニフェルードとの開戦も控え、余力がないはずだ。

目的は勝利ではない、王の救出である。

そしてその目的の先に、エートゥルフォイユ撃退がある。


そんな三公を後押しするように、背後に控えた大国グランフルールが挙兵する。

その者達の目的は同じ…そして導かれるように、迷いがなかった。


   ・

   ・

   ・


プラタナス元公爵は、宰相の時の伝手を頼りに、グランフルールへ交渉に来ていた。

爵位を返上したとしても、ティヨールの国民には変わりはない。

私財を投げ売ってでも、良い医者を連れて帰るつもりでいた。


グランフルールに到着すると、伝手であるグランフルールの宰相シャードン公爵の邸へと訪れていた。

事情を説明しシャードン公爵の好意により、グランフルール国内の医者に声をかけてもらうことになった。


その日の夜シャードン公爵邸で夕食をいただき、侯爵と二人…互いの国の話をしていた時だった。

中庭に繋がるガラス細工の開いた扉から、すっと青白い光が入り込んでくると、その光は女性の姿をとった。


「…っ、魔の者かっ!」


シャードン公爵が椅子から飛び上がり、部屋にかけてある飾り剣を手に取ろうとした。

しかしその手は剣に届くことはない。

どんなに力を込めても、身動きをすることができなくなった二人は、視線だけでも逸らすまいと必死に女性へ視線を向ける。


「…見当外れな。」


女性が話しかけてきたかと思ったら、その声は男性のものだった。

そもそも、これは本当に人なのか…人の姿を纏った何かには違いないはずだ。


「…現在、ティヨールの民は回復している。」


「それは、本当なのか?あの惨状を、どうやって…。」


青白い光の女性は、目を閉じ頭を振る。


「…そこは重要ではない。司教からの願いで、ティヨール王を救う。其方達は、その為の布石として、王宮へと進軍してほしい。」


「待てっ、王は無事なのか…今どこにいる!それがわからないからこそ、私達は爵位を返上したようなものなのに…。」


プラタナス元公爵は、話を聞き、動揺していた。

国に尽くす…その気持ちは今も変わらない。

しかしその気持ちの前提は、良い国を治めたいと願う王陛下がいてこそだった。


「…王は、王宮にいる。だが、命が尽きようとしている。あまり時間がない…願いを叶える為には、力が届く範囲に出ることが必要だ。」


プラタナス元公爵は、ぐっと言葉を飲み込み考えを巡らせる。


この者の言葉を信じるならば、ティヨールの人々は苦しみから解放され、すでに回復へ向かっている。

そして司教の願いにより、王を助ける…それが本当ならば、すぐに動くべきだろう。


信じるに足るかどうかは、ティヨールに帰ってみればわかる。

ただ信じた時に裏切られるよりも、信じなかった時の後悔の方が大きいはずだ。


「わかった。自領に戻り、出来る限りの人数を集めよう。だが所詮は、元公爵だ。どこまでできるかは…。」


「…この話は、其方と同じ爵位にいた者に同じように伝えてある。どちらも同意を得られたようだ。」


プラタナス元公爵は、同じ公爵位にいた者達が自分と同じ選択だったことに感動していた。

どちらにしても、人数は少ないに違いない…しかし、とても心強い。


「僭越ながら、私も我が王にお話ししてみましょう。少しは助けになるはずです。」


シャードン公爵が助力を申し出てくれた。

その言葉に役目が終わったと感じたのか、女性は姿を徐々に霧散しようとしていた。


「待ってくれ、貴方は神…なのか?」


女性の姿がどんどんと薄く消えかかってはいたが、少しだけ答えが返ってくる。


「…私は、かつて聖女だった者の意思。そして現在、聖女の願いに力を貸す者だ。」


そこまで聞き取れたと思うと、すでに青白い女性の姿はなくなっていた。


聖女の意思、聖女の願い…ならば命が尽きると言われている王を、救うことができるはず。

プラタナス元公爵はシャードン公爵へ断りを入れ、今夜にでもグランフルールを発つ。

少しでも早くティヨールに戻り、王を救い出さねばならなかった。




   ◇◆◇




三日目の夜になると、白く発光する生き物「バシロサウルス」はその身を細かく分散し、大地に降り注ぐ。

その身は少し大粒の雨のように空から舞い降り、温かく国中を濡らしていった。


翌日には至る所で芽吹いた物が、黒く蕾をつけ、花開く段階で白く変わって咲き誇っていた。

王都中に白い花が咲き、熱気を含んだ霧が治まると、あとには清廉な空気が胸を満たしていった。


   ・

   ・

   ・


元公爵達が城へ到着した時には、王宮を護る騎士達は、争う姿勢で構えてはいなかった。

エートゥルフォイユとコニフェルードに睨まれ、グランフルールまで元公爵達と志同じく兵を挙げたとなると指導者がいないまま、動くわけにはいかないという考えなのだろう。

王宮騎士隊長がプラタナス元公爵の元へ走り寄り、膝をつく。


「ティヨールを護ることが出来ず、申し訳ありません。」


騎士隊長に倣い、控えていた騎士達も膝をつく。


「まだ、終わったわけではない。王陛下を救い、このティヨールを護る…その為に、諦めてはならん。」


「…っ!陛下が?」


「まだ間に合うはずだ…まだ。王陛下を探す、協力してくれ!」


皆の協力の元、王宮のあらゆる場所が探索される。

騎士達はプラタナス元公爵の「まだ」という言葉を、聞き逃してはいなかった。

時間はあまりないのだろう、なんとしてでも見つけ出さなければならない。




「見つかりました!王陛下が、見つかりました…ですが、陛下は…。」


城の奥、離宮に構えられた王妃の私室…その更に奥、日の差さない地下室のベッドに王陛下は横たわっていた。

その姿は肌の色を黒く変え、呼吸をしているようにも見えない。

すでに帰らぬ人のように見えた。

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