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聖属性魔力がありあまる  作者: 羽蓉
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朝早くに支度を整え木窓を開けると、きらきらと朝日に照らされ、光を反射する街並みが目に入る。

街の中でも小高い場所にある宿屋だったので、綺麗に見渡すことができた。


この街のほとんどの家には、この領の特産である特別な石材を使用しているのだという。

角度によって様々に輝き違った顔を見せる、この領にきたら一度は見ておきたい風景だ。


朝の冷たい風と、鳥たちのさえずりで現実に引き戻されたジャサントは朝食をとる為に、宿屋の一階へと降りていった。


   ・

   ・

   ・


「おはようございます、サパンさん。昨日はゆっくり眠れましたか?」


宿屋のおかみである中年の女性が声をかけてきた…昨日の市場で会った女性の妹らしい。


「おはようございます。昨日はいつのまにか眠っていたようで…しかし今朝の日の出の景色には間に合いました。せっかくですからね、商売人としては一度見ておかないとと思いまして。」


人に好かれるような、綺麗な作り笑いを浮かべジャサントは答えを返す。

サパンはもちろん偽名だ、ここでジャサントと名乗っても問題はなさそうだったが、一応用心の為に違う名前を使う。


「ほう…商売人がこの時期に、こんなところに来るとはな。」


昨日は誰もいなかったのに、宿屋の食堂にくたびれた格好の三人組がいた。

その中でも、線の細い黒い髪の毛で顔の半分を隠した陰湿な目つきの男が話しかけてきた。


「エン…ブリオさん、悪いですよ?そんなにきつい口調で。」


そう言うとその中でも一番若い男が近寄ってくる。

一番人懐っこい笑顔の男は、上質なアッシュブロンドの髪の毛をがりがりと掻きながら申し訳なさそうに話す。


「俺達もともと傭兵で、戦争がありそうな土地を旅してるんだ。ここももうすぐ戦争が起きるって聞いてたものだから、商人の人がこんなところにいるなんて驚いたんだよ。悪気はないんだ、本当に申し訳ない。」


そう言うと、謝罪の為に頭を下げる。

簡単に商人に頭を下げることができるこの男は、貴族ではないだろう…ジャサントはそう判断し、差しさわりのない程度の会話をすることにした。


「いえ大丈夫です、私も間が悪く驚いているところです。聞けば戦争は隣国と睨みあっている状態だとか…今日にでも反対のブローブランへ戻ろうと思っています。」


昨日から今までの状況からみて、これ以上商人を装うのは難しいと判断し、この領を出ると宣言をしておく。

あとはタイミングを見て、領主の邸に潜り込めばいい。


宿屋のおかみが、会話の間を見てにこにこと朝食を運んできた。

昨日の屋台の食べ物もそうだったが、ここの民は意外と良いものを食べているようだ。

運ばれてきたパンに手を伸ばす…ほんのりと温められていることに驚いた。


「ここの食事、いいですよね。私達もいろいろ渡り歩いてきましたが、こんなに気配りができているところは初めてだ。」


仲間から離れ、すっかりジャサントの隣に座り込んだ人懐っこい男はジャサントに水差しから水を汲んで渡してきた。

言葉の流れからその若者の姿を見ると、なるほど長く旅をしていたのか…動けば埃が立ちそうな格好をしている。

後ろにいる残りの二人も同じような格好だ。


「サパンさんって言いましたっけ?私達はこれからここの領主に自分たちを売り込みに行こうと思ってたんですが…貴方さえよければ、ブローブランまでの護衛として雇いませんか?」


ジャサントはうんざりした気持ちになったが、表情にだすのをかろうじて堪えた。

なんだ…そういうことか、傭兵として雇われるよりも、商人の護衛として雇われる方が実入りがいい。

この傭兵たちはジャサントを値踏みして、稼ごうとしているのだ。

一番愚かだと思う者は、貴族だが…傭兵という職業の者も山賊と変わらないではないか。


「いいえ…ご厚意はありがたいのですが、ブローブランまでは乗り合いの馬車を利用しようと思っていますので。」


「物を知らないらしいな、今の時期は馬車も規制されている。ブローブランへ出るまで何日かかるかわからんぞ?」


答えてきたのは、エンブリオと呼ばれた男だった。

断るのはもちろんだが、最初に声を掛けてきた陰湿な男とずっと一緒に旅をするなど耐えられるはずがない。

多分この中のリーダーなのだろうが、何もしなくても威圧感のある苦手な相手だった。


「それでも、馬車を待とうと思います。」


ジャサントは顔から笑顔を消して、話しかけてきた男と向き合う。

その男もジャサントを真正面から見据えてくる。

それまで自分たちを売り込むために、威圧してきた男は口元を上げ顔に笑みを浮かべる。


「いや、悪かった。心配しての事だ…早く馬車が出るといいな。」


先程まで押し売りとばかりに自分たちを勧めてきた傭兵たちは、あっさりとひいた。

すでに領主の邸へ行く話へ、切り替わっている。


ジャサントは付きまとわれずに済み、ほっと息をついた。

しかし油断はできない、早く宿を離れてこの者たちと再びあってもわからないよう変装をしなくては。

そうやって今日の行動を決めると、残りの朝食を口の中へほおばった。




   ◇◆◇




「宿屋の主人からの情報は、ありがたかったですね。エンジュ様、いかがでしたか?実際に本人と会ったことがあるのはガルデニア様だけだと聞きましたが。」


「いや…あれでは私でもわかる。あれがジャサントで間違いないな。…ということは、王都の挙兵はハッタリということか。」


埃まみれの傭兵の格好をした、エンジュとヴィンセントは宿屋の裏口から、地元の民にしかわからない通路を使い邸まで戻る。

これも「フェイジョアの雷鳴」以降、戦争が起きた時のために作ってある通路だ。


一緒にいたアリストロシュには、できる範囲でのジャサントの尾行を任せた。


これからエンジュたちは、この情報をもとに数通りに渡り練っていた作戦を開始する。

相手の裏をかくことで、数歩先を進むことができる…エンジュの目には闘志が浮かんでいた。

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