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聖属性魔力がありあまる  作者: 羽蓉
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「エートゥルフォイユが挙兵した?」


エートゥルフォイユ王国、ティヨール王国との絶対的な友好国であり、フェイジョアと国境を挟んだ隣国である。

ここ百年近くでティヨールと共に、友好を温め、他国の侵略を退けてきた。

二国間の王族で婚姻を結ばれることも多く、現王妃はエートゥルフォイユの出身もある。


そのエートゥルフォイユが何故?…本当に、ティヨールに向かって進軍してくるのか?


エンジュは曖昧で不確かな報告に、苛立ちを隠せなかった。

エンジュが辺境伯を継いでから一度も、エートゥルフォイユが挙兵したことはない。

圧倒的に情報が足りない…他国の動向には細心の注意を払ってはいたが、何故この時期に?


現在フェイジョアでは王都からの追撃に備え、極秘に挙兵の準備を進めていた。

まさか…それがエートゥルフォイユを刺激したのか?

それにしてもエートゥルフォイユ側の挙兵が早すぎる、事実ならば我らが王都へ向かう前に挙兵をする意思があったということになる。


このままでは王都とエートゥルフォイユとの挟み撃ちとなってしまう。


「意思を曲げるつもりはない、愚かだと言われても構わない。大事な者達を護るだけの力があればそれでいい。」


エンジュは最悪の事態を考え、自分自身へと呟いていた。



   ◇◆◇




「…夜分遅くに申し訳ございません、ただいま戻りました。」


黒く長い外套をかぶり、ガルデニアが王都から戻ってきた。

いつも口元に浮かべている、人を不快にさせる笑みは浮かんでいない。

その様子は、ひどく疲れているように見えた。


フェイジョアに戻ったその足で、エンジュへ報告にあがったと言うことはそれだけ大事な要件があるのか、それとも戻って誰かにエートゥルフォイユのことを聞いたのか。

エンジュも眠ることができずに、机にあった書類に目を通していたので、早くガルデニアと情報を擦り合わせることができるのは有難かった。


外套を脱ぎ椅子に掛けると、ガルデニアはエンジュに対して敬意を払うのも億劫だとばかりにソファへ倒れこんだ。


「誰かを呼ぶか?」


エンジュが尋ねると、ガルデニアはうつぶせたまま拒否をしてゆっくりと頭をもたげさせる。

身なりに気を遣う性格であるはずが、首元ははだけ、目の周りに疲労がみられる。

机に置いてある水差しから、水を飲むと、ガルデニアは一息つき報告を始めた。


「王都は混乱を極めています。今回の騒動のあとに、王太子より挙兵の準備を進めるようにと命がでました。ただ…どこへと言うことが伝わってこないまま、王都を護る騎士はもちろん、民たちも不安をかかえています。」


ガルデニアは話の間中も、浅い呼吸を繰り返す。

そんな中ノックだけで扉を開き、グルナードが奥へと入ってくる。

ガルデニアが戻ったことを聞きつけ状況を確認しようと、急いで自室より駆け付けたのだろう…いつもに比べて軽装だった。

視線だけでグルナードを確認したガルデニアは、話を続ける。


「それとは別に、貴族からの反乱がありました。公爵位不在のまま、経済はまわっておらず、税収だけがきつくなっていく。そんな中の挙兵の指示、どこにそんな余裕があるのだと領地のある貴族は、こぞって自領にひっこんでしまいました。」


貴族には貴族として護らねばならないことがある、自領を護る為に王都より引き上げる。

エンジュには、その貴族たちの心情がよく理解できた。

ここを間違えてはいけない、領の民があっての国なのだ…自領をないがしろにして、国に仕えるわけにはいかない。


「慌てた王太子は、王都から人が出ることを禁じました。いまや王都という名の牢獄です。いつ自分たちがいる場所が戦場になるともわからないのですから。」


これにはグルナードが眉をしかめた、対抗する手段を持たない民たちが戦争に巻き込まれることを避けねばならない。

なのにそれを閉じ込めるとは…これが王族なのかと嫌悪を抱かずにはいられない。


「そしてこれは予想されていたと思いますが、コニフェルードが挙兵を進めております。ブロンシュ様は無事に自国へお戻りになったとのことです。」


エンジュは大きく溜息をついた。


ガルデニアの報告にエートゥルフォイユの話はない、ならばこれが最悪の事態だということだ。

エンジュは置かれた立場に、口を開くことも重苦しく感じていた。

だがガルデニアに、フェイジョアが置かれている今の状態を伝えなければならない。

グルナードに任せたいが、頼んだところで詳細に伝わらず、二度手間になることが見えていた。


エンジュは今一度、気持ちを奮い立たせてガルデニアに今日までの詳細を話して聞かせた。


「…むしろ…いや、だからかもしれませんね。」


ガルデニアは疲れが出ているにも関わらず、頭を働かせ、目はらんらんと先を見通しているかのようだった。


「私は王宮内にて、ジャサントという人物に注視してまいりました。いやはや面白い、彼の人物は…男性のように振る舞い王太子の側近として爵位も賜っておりますが、私は女性ではないかと思っています。」


なにを言うのかという顔をしたエンジュに対し、ガルデニアは楽しそうに続ける。


「三度、彼の人物と対峙したことがございます。一度目は王太子の後方に控えておりました。二度目は、王宮の夜会の給仕にて。そして三度目は王妃付きの侍女としてです。もちろんその度に姿は違います。しかしながら、私の予感がそう囁くのですよ。」


チッ、エンジュは話の内容に胸が悪くなる思いで舌打ちをする。

そうなれば話は違ってくる、かなりの確率でジャサントはエートゥルフォイユの人間だろう。

そしてこの騒動を裏で操っているのは、王妃自身だと言うことになる。


「やはり、国相手なのか…分が悪いな。」


「そうでもありませんよ?相手側にも予想を超えたことが、起こっております。」


なにを暢気なことをいっているのだと、エンジュは眉をしかめてガルデニアを見る。

やがて、エンジュにもガルデニアが何を言いたいのかわかってきたようだった。


「そう…姫の存在です。彼らはブロンシュ様が無事でコニフェルードに戻れるとは、思っていなかった。今…彼らの脅威はフェイジョアではなく、その後方で大きな牙を持ち上げている、大国コニフェルードです。」


「そう言うことか。あの姫がどこまでこちらに好意を持っていてくれるかわからないが、希望は見えてきたな。今後の展開を含めて、作戦を練り直す。ガルデニア、疲れているところすまないが、今少し付き合ってくれ。」


今宵この場にいる者達全員が、どんなに疲弊していようとも眠るつもりはなかった。

予想される事象に備えて、早い段階で何手も打っておく…その数こそが勝率を上げていくのだ。

今自分たちがなさねばならないことが、これからのフェイジョアにかかわってくる。

この日は夜通しエンジュの執務室から、明かりが消えることはなかった。

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