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聖属性魔力がありあまる  作者: 羽蓉
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シュロールは次第に落ち着き、言葉を探す…どのくらいそうしていたのだろう、体の芯が冷え、小さく身震いする。

ハルディンにも伝わったのか、その様子をみて声をかけてきた。


「少しだけいいか?…嫌がることは、しない。」


そう言うと少しだけ距離を詰め、ハルディンはシュロールを羽の様に抱きしめた。

触れた部分は、シュロールの体温より熱い…その事実さえ、シュロールを落ち着かない気持ちにさせた。


こんな風にしていてはいけない、自分がハルディンに相応しくないと早く伝えなくては…。

しかし優しく触れる想い人の腕は温かく、シュロールは踏み出せずにいた。




「…惹かれたのでないならば、酷い事でもされたのか?」


ハルディンの声に、シュロールはびくりを肩を震わせる。

その反応だけでハルディンには十分だった、考えられることは色々あるが…あいつは許すべきではない、ハルディンの中で怒り湧き上がる。


「答えなくていい。すまない…嫌なことを聞いた。」


ハルディンはシュロールの気持ちがまだ自分から離れていない事、そしてシュロールが自分を許せずにハルディンを諦めようとしていることを悟った。

自分にもまだ可能性があるかもしれない、そう思うとハルディンは居ても立ってもいられず、シュロールの頭にキスを落とす。

ゆっくりと抱きしめる腕に、力を込める。


「肝心なことをお前に伝えていなかった。きちんと告げていればと、後悔している。俺は…自分がどのような身分になっても、お前の側にいたい。下働きでも、護衛でも。お前じゃないとダメだ。ずっと前から、お前に焦がれていた。好きだ…シュロール。」


ハルディンの位置からシュロールの顔は見えない、それでもシュロールの反応が拒絶でないことがわかる。

肩に羽織るストールを握りしめて、なにかに耐えているようだった。


「…ごめんなさい。」


シュロールは、何度目かの謝罪を口にした。


シュロールはハルディンの言葉を、自分の都合のいいように聞き間違えているのではないかと思った。

意識は後ろにいるハルディンへ集中し、震えるほど嬉しく思っているというのに…それを受け入れることはできない。


「その言葉は俺への答えにならない。お前が俺の事をどう思っているのか…まあお前には悪いが、だいたいはわかってはいるんだが…。」


「えっ?」


シュロールは動揺する、ハルディンの言葉はシュロールの意思を揺らしていく。


「お前は…好意を持たない男の腕の中に、大人しくに収まるような奴じゃない。昔の俺の時も、そして先日の王太子の時も、精一杯抵抗したはずだ。」


シュロールを抱きしめたまま、その左手をとり、肩越しに顔を寄せ、手首に愛おしそうにキスを落とす。

そこにはオルトリーブに抵抗した時に掴まれた、手の跡がくっきりと残っていた。


「俺じゃないと嫌だと、思ったのだろう?」


ハルディンに手首の跡を見られることは、なによりも嫌だった…ハルディン以外の人間に組み伏せられた証拠が、そこにある。

シュロールは慌てて手首を隠そうと、手を引くが離してもらえない。

強い力ではない、力を込めればシュロールにも振り払えるだろう。

だが愛おしそうに、手首に何度もキスを落とすハルディンに抗えない。


「お前が自分を犠牲にして、我慢して…周りはどうなる?俺やあの女、狐顔やお前のメイド…みんなお前に幸せになってほしいと願っている。内に籠り、絶望し…最後に王太子の犠牲になりなどすれば、皆黙ってはいないだろう。」


ハルディンはシュロールの耳元で、悔しさをにじませた声で囁く。

その気配や吐息がシュロールの顔や髪に触れ、いたたまれなくなる。


「あの女はきっと、全てをかけてお前を護るだろう…そういうヤツだ。俺だって、狐顔だってそうだ。お前を奪われれば王太子を、この国を許さない。そこまで周囲に愛されているというのに、お前は自分の気持ちを押し殺し、皆の望まない道を歩むのか?共に戦うと言ってくれ、俺と…俺達と最後まで共にいると…。」


夜が深く周囲には静寂しかない、ハルディンの言葉はシュロールの奥深くへと落ちていった。


「…私、望んではいけないと…。皆を私の人生に巻き込むわ、私の行動ひとつでこの国と争うことになるかもしれないのよ?」


シュロールに感情が溢れてくる、ふるふると小刻みに頭を振りながら瞳から涙がこぼれてくる。

皆の気持ちもわかる、大事なのはシュロールだって同じだ、だからこそシュロールだけが犠牲になってでも、収めたかった。


「バカだな、お前の母親の時とは違う。あの歴史を繰り返しては、あいつらは救われない。」


母である、オルタンシアの犠牲…。

シュロールは自分が母の行動をそのまま、なぞっていることに衝撃を受けた。

エンジュはシュロールにオルタンシアの面影をみている、シュロールが同じことをすればあの悲しい瞳の伯母はなにを想うのだろう。

ガルデニアだってそうだ、騎士としてオルタンシアを護れなかった傷を抱えて今もこの土地に縛られている。


シュロールは涙を流した顔のまま、振り返りハルディンを見上げる。


「…私、自分の考えを押し通して、皆を悲しませるところだったのね。」


ああ、とハルディンは頷く。

シュロールは俯き、そっと涙をぬぐう。




「俺が、好きか?」


「…そ、れは…。」


ハルディンは、向かい合ったシュロールとの距離を詰める。

シュロールの頬に自身の手を添え、続けて問いかける。


「俺の気持ちだけ聞いて、返事をくれないなんて…ひどい奴だな。嫌いなら嫌いと言ってくれた方がいい。」


シュロールは頬に充てられたハルディンの手に、動揺し身をよじる。

恥ずかしくて、視線を合わせることができない。

ハルディンの声に安堵の色が見られる、シュロールが嫌いと言うとは思っていないようだ。

自分の気持ちを見透かされ、手の上で転がされているようにハルディンに誘導されていく。


シュロールは目をぎゅっと閉じ、最後の抵抗をした。


「…私の気持ちなど、とうにご存じなのだと。」


「それでもお前の口から言ってくれないと、意味がない。」


ぴしゃりと言いきられてしまい、シュロールは息を吐き決意する。

ハルディンに相応しくないと思っていることは、今も変わっていない。

この気持ちを伝えることが、正しいのかもわからない。

でも…この時を逃すと、二度と伝えられないかもしれない。


自らハルディンの胸へ顔を埋め、恥ずかしさを隠して小さく呟く。


「再び会った、あの時から…多分、お慕い申しております。ハルディン様、貴方が好きです。」


今日、この外庭へ来るまで、こんな風に気持ちを通わせることが出来るだなんて思っていなかった。

今でも許されるのか、正しいのかはわからない。

でもお互いの気持ちを確かめ合い、ようやくシュロールは犠牲ではなく、抗ってでも誰かを護れる人間になりたいと思った。

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