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聖属性魔力がありあまる  作者: 羽蓉
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オルトリーブに有無もなく連れていかれ、ダンスを踊る為に手を取り、踊り出しの音楽を待っているところまでは覚えている。

最初のステップを踏もうと、足を出したときにそれは起こった。

シュロールの世界が、上下逆さまにひっくり返る感触に襲われる。

自分が倒れているのかもわからないまま、手を取っている人を見上げると、オルトリーブは穏やかな微笑みを浮かべてシュロールを見つめていた。


   ・

   ・

   ・


意識が戻った時、シュロールは暗闇にいた。

オルトリーブの腕の中で、彼に縋りつく格好で抱きかかえられていた。

慌てて離れようと力を込めると、気がついたオルトリーブより更に強い力で抱き締められた。


「あちらを見よ。」


力を緩めないまま反対方向を指し示すオルトリーブに、シュロールは顔の角度と視線だけを動かし差された方向を見る。

そこには光が溢れるフロアで楽しそうに踊り終わる、オルトリーブとシュロールがいた。


「(…あれは誰?待って、それは私じゃない!)」


仲睦まじい様子で、エンジュの元へ戻るオルトリーブとシュロールの姿に、シュロールは違うと叫びたいが声を出すことが出来ない。


「申し訳ないが、あれから私も過信しないようにしていてね。少し制限をさせてもらっている。」


そういうとオルトリーブの指が、シュロールの首をなぞる。

背筋から震える感覚に襲われたが、その時チョーカーとは別の何かが首に巻き付いている感覚があった。


「ああ、さすがにそっくりには無理だったな。見た感じだけが変わる幻術をかけている。触れば違和感があるだろうが、そもそも触れることはないだろう。あちらの私達はこの後、二人きりになりたいと中庭に出る予定だからな。」


震えながらその動向を見つめると、二人はなにやらエンジュへ話しかけ、ハルディンを振り切って仲睦まじくフロアを去って行った。


「(違う…それは私じゃない。そんな風にハルディン様を拒否しないで!そんな風に王太子に微笑みかけないで!)」


目に涙がにじむ、シュロールは偽りの自分に手を伸ばすハルディンを見て、掴んでいた王太子の腕に爪を立てた。

眉をしかめ、シュロールを更に体の隙間がなくなるほどにきつく抱きしめる。


「時間が惜しい、行くぞ。」


そうして王太子は、暗闇の中の道をシュロールを強引に連れ、歩き出した。




   ◇◆◇




シュロール達は、明かりのない部屋の一室へたどり着いた。

窓はあるようだが、重いカーテンが完全に光をとざしている。

オルトリーブは手元にあった小さな蝋燭へ明かりをともすと、シュロールを連れ更に奥へと進んでいく。


広い室内の中で、ソファがある位置まで来るとオルトリーブはシュロールを放り投げる。

そして奥の机の上にあった、黒くきらきらと光る砂の入った少し大きめな砂時計を持ってきた。

シュロールの目の前に置くと、自身も隣に座り、シュロールを抱き寄せて一緒に砂時計を覗き込む。

あまりの近さにシュロールは身じろぎをするが、抵抗は受け流されるまでもなく、力によって封じられる。


「綺麗だろう?この砂は、人の命でできている。」


意味が理解できないが、オルトリーブが戯れにしゃべっている訳ではないことはわかった。

声のだせないシュロールには、黙って続きを待つしかない。


「人体に蓄積する呪いというものがある。私は国の金を集めて、魔術師を大量に集めた。そして二人一組で相手にこの呪いを掛け呪わせる。そして生き残った者を更に二人で組ませた。そうするとどうなると思う?最後まで生き残った者の体には、絶大な呪いが渦巻いている。」


オルトリーブはシュロールを抱えているのとは反対の手を、そっと伸ばし砂時計を傾けた。


「最初はそのまま生かし、その者の強い呪いを切り札にしようとした。だが、身の内に大きな呪いを抱えた者は…やがて狂う。」


支えていた指を、ふっと離す。

砂時計はカタンという音を立てて、大きく揺る。


「仕方なく、ジャサントの持っていた血の聖剣を使ったんだが…すると何故か、一瞬でその者の全身は黒い砂に変わった。これは私の切り札だ、この国を治めやがて他国をも我がものにするための…。」


あまりにも恐ろしい話に、シュロールは体を動かせないでいた。

気がつくとオルトリーブの力が緩み、少し距離をとってシュロールを見つめていた。

その目は穏やかにも、絶望にもみえる。

蝋燭の炎の揺らめきで、オルトリーブの表情が読めない。


「…試しに、呪いのかかった血の聖剣を彼の地へ送ってみた。するとどうにかしたかった者達は、誰一人として命を落としていない。こちらで試したときは確実に死んでいったというのにっ。」


オルトリーブはゆっくりと顔の表情に力を入れていった。

眉を寄せ、下瞼に力を入れ、そして口元は笑っている。


「私はこう考えることにした。…やはりお前は聖女だった、お前の力が私の切り札を防いだのだと。」


シュロールはオルトリーブに心臓を鷲掴みにされた、そう感じるほどに息もできなくなっていた。

いまにも失神しそうなほどに衝撃的な内容を聞き、それでもオルトリーブから目を離せない。


「私の役に立つと言ったではないか、あの日からお前は私の駒だ!他の者の所有になるのは許さない。愛がなくても、婚姻を結ばなくとも、側にいて私に尽くせ。それがお前の生きる理由だ!」


渾身の力で自身の感情を抑え、低い声を絞り出しながらオルトリーブはシュロールに告げた。

シュロールを寄せる腕の力が抜けると同時に、突き飛ばされる。

上から覆いかぶさるオルトリーブが、泣きそうな顔でシュロールへ囁く。


「…ハルディンの事は諦めろ。」


そういうとシュロールの顎を正面に向け、強引に唇へ口づけをした。

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