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聖属性魔力がありあまる  作者: 羽蓉
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ファンファーレとともに、ティヨール王国王太子オルトリーブ=ティヨールが入場する。

その堂々とした風格、すでにこの国の主と言ってもおかしくない、振る舞いだった。


中央へ来ると、皆の方へ向き直り声を上げる。


「皆よく来てくれた。今年も豊かな春を迎えることができた。私からの祝いの気持ちだ、存分に楽しんでいってくれ。」


そう夜会の開催を宣言すると、オルトリーブは楽団へ視線をやる。

静かな演奏がはじまり、ファーストダンスが始まる。

そして貴族たちは、こぞって王太子の元に挨拶へと並びに行く。


   ・

   ・

   ・


しかし、シュロールはその場で固まっていた。

幼い頃から数回しか見たことのない王太子だったが、約一年でこんなにも風貌が変わるのだろうか。


以前は輝くハニーブロンドの髪の毛にアイスブルーの瞳、憧れが人の形をとるとこんな人になるのかもしれないと思わせるほどの整った容姿。

そして誰に対しても、表裏なくはっきりと物を言い、王族として相応しくあろうとする好感の持てる人物。

それがオルトリーブの一般的な印象だった。


だが今はどうだろう…輝く髪の毛はそのままだが、少し長めに整えられ顔にかかる様子は憂いを帯びているようにも見える。

顔色は白く、目に輝きは宿っておらず、人を映していないようだ。

また以前は明るい色を好んで着用していたように思うが、今日の服装は金の縁取りがついた黒い詰襟に、金の刺繍がさりげなくついている程度だ。

挨拶を受けている姿もまた、口が重いように感じる。


「(私も二度お目にかかっただけで、あまり良く知らないのだけれど…あんな方だったかしら?)」


驚きで呆然と視線を向けていると、オルトリーブと目が合ったような気がした。

…そんなはずはない、今もまだ他の貴族の挨拶をうけているのだから。

何故かシュロールはその視線に、底知れない怖さを感じた。


不安にかられ、少し落ち着きを失くしたシュロールを見て、ハルディンは声をかける。


「どうした、気分でも悪いか?」


「いえ、なんでもありません。」


体の向きを変え、ハルディンに向かい合うように立ち頭をつける。

ハルディンもわからないまま、シュロールの肩を抱き、引き寄せる。

シュロールはようやく、悪夢から解放されたように息をついた。




始まりの夜会は、招待される者が高位貴族に限られるせいか、王太子の挨拶も早々に終わる。

それらを切り上げた王太子は、他の貴族からの声を振り切って、足早にシュロール達の元に近づいてくる。


エンジュとイビス、そしてハルディンとシュロールは互いを確認し一点に集まる。

やがて王太子がこの場に来た時には、四人で楽しく談笑していたかのように振る舞っていた。


「やあ、久しぶりに顔を見る。我が婚約者殿は、人気があるらしい。」


そう言いながら輪の中へ入ってくると、オルトリーブは悪びれもせずにシュロールの隣に立った。


「…王太子殿下。殿下と我が姪の婚約は、とうの昔に破棄されております。」


エンジュが声色をつくり訂正する、しかし内心では並々ならぬ怒りが湧き出ていることがわかる。


「そうか?しかし、何故わざわざこの男を選ぶのか…本当にお前は昔から、私の心を逆撫ですることが上手い。」


そうシュロールに言い放つと、その向こうに立つハルディンに馬鹿にしたような視線を向ける。

ハルディンは警戒心をむき出しにして、シュロールを引き寄せる。


それを見たオルトリーブは、ふんと鼻を鳴らす。


「…まあよい。噂の令嬢、私と踊っていただけますか?」


オルトリーブは颯爽と、手を差し出してきた。

拒否は許さない、そんな力強い光がアイスブルーの瞳に宿っていた。


これにはその場にいた全員が、驚きを隠せなかった。

現在、王太子には婚約者がいない…その王太子から誘われ、踊ると言うことがどういうことなのかわからないはずがない。

ましてシュロールとは一度、王太子の方から婚約を破棄しているのだ。

シュロールは言葉の意味が、自分の中で恐怖として広がりっていくのがわかった。

気がつけば、きつく、きつくハルディンの袖を握りしめている。


「殿下、お待ちください!」


ハルディンが慌てて、間に入ろうとする。


「…爵位のない者と話す気はない。摘まみ出されたくなければ黙っていよ。」


王太子の表情を顔に張り付けたオルトリーブは、ハルディンの方を向かずに一蹴する。


「恐れながら、彼女は私との縁談が進んでおりますので…。」


このままシュロールを連れていかれるわけにはいかない…ハルディンを遮られ、焦ったイビスが王太子へ懇願する。

イビスの意図を感じ、オルトリーブは途中で話を遮り、確認をする。


「ラヴァンド侯爵子息、それはラヴァンド家としての発言か?」


イビスの言葉が詰まる…父親である、ラヴァンド侯爵の意思は確認している。

ここで侯爵家の意向だと伝えることが正しいのだとはわかっている…が、しかし…。

イビスはその後のラヴァンド家の行く末を考え、返事を躊躇してしまった。


「そう睨むな、フェイジョア辺境女伯。たかだか一曲、踊ろうというだけではないか。」


エンジュは綺麗に紅を塗られている唇を、女性の物と思えないほどに歪め、噛みしめていた。

視線を遮るためのレースのマスクの奥の瞳は、怒りの感情で揺れているのだろう。

それでもこの場を、堪えきる…この先を間違うわけにはいかなかった。


「さあ!」


差し出された手に、自身の手を重ねることもできず、シュロールは理由をつけ辞退しようとしていた。


「せっかくですが、私などよりも…あっ、いやっ!」


言葉の途中で手を掴まれ、エンジュ達の輪から飛び出してしまう

フロアの中ほどまで連れていかれると、オルトリーブとシュロールは貴族たちの注目を浴びていた。

くるりと振り返り、手を持ち替えらる。

踊るためとはいえ、引き寄せられる行為に、嫌悪感が走る。

体を固くし、近寄ることを拒んでいると、微笑みながらオルトリーブが耳元まで顔を寄せ、囁いてくる。


「ハルディンなら…いいのか?あっちを見るがいい、俺を殺しそうな勢いでこちらを見ているぞ?」


シュロールは、振り返ることができなかった。

オルトリーブに引き寄せられているこの姿を見られたくない…ハルディンの目にこんな自分がどう映っているのだろうか。

きつく目を閉じ、視界からの情報を閉じる…時間が過ぎ、この王太子の、苦しくも激しい拘束から逃れたかった。

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