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聖属性魔力がありあまる  作者: 羽蓉
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「改めて…フェイジョア辺境女伯、迷惑をかけました。」


ブロンシュは、エンジュに向かい礼をとった。

他国の…それも王族の礼に対して、エンジュは眉をしかめたが、同じ様に礼で返した。


翌朝には起き上がれる位には回復をしたブロンシュは、エンジュの自室に訪れていた。

顔色はあまりよくないように見えるが、普通に動く分には問題がないのだろう。


「お加減は、もうよろしいので?」


「ええ…万全とはいきませんが。なにより、急がないといけない理由がありますので。」


そう言うとブロンシュは、深く追及されないように少し目を伏せた。

エンジュも、その様子を眺め、相手の出方を伺っている。


「当初…そちらに接触を図ったのは、王宮内の状況をお知らせするためでした。」


視線を向けては伏せ、ブロンシュは口を開き話し始めるが、その様子には戸惑いが見える。

隣国の王女、それもティヨールの王族と近い位置にいた人物だ…エンジュも警戒しつつ話に耳を傾ける。


「しかし私自身、助けていただき確信いたしました。やはり貴女にお話しするべきだと。」


そういうとブロンシュは、今まで王宮で起こったことを話し始めた。


   ・

   ・

   ・


ある日のこと…王陛下が廊下を渡っていた時に、急に体の不調を訴えることがあった。

偶然にも近くにいたブロンシュは、慌てて様子を見に行ったが護衛にとめられてしまう。


壁に手をつき、苦しそうに咳き込む王陛下の口元に、煙の様なものが見えた気がした。

王宮医師が駆け付け、陛下の様子が収まったので安心しその場をあとにする。


その時から王陛下がお隠れになり、現在は行方不明なのだと言うことだ。


それから王宮内は疑心に溢れ、やがて王陛下がお隠れになった理由は、ブロンシュの従者が持ち込んだ食べ物のせいだと言われるようになった。

従者が、食べ物を?…ブロンシュには心当たりがなく、それに該当する従者もいない。


やがてコニフェルードからブロンシュの供として入国したと言われる者が現れる。

ティヨールで爵位を賜り、王太子の側近として控えているようだった。

ブロンシュも護衛や侍女も、誰もその者のことを見たことがない。

コニフェルードの者であるなど、なにかの間違いではないかと王太子に申し出ても、そんなことはないと一蹴される。


王宮内ではブロンシュに対する、不信感が広がっていく。


そして王太子より、私たちの婚約をいったん白紙に戻すと伝えられる。

ブロンシュに対する不信を宥めることなく、追い打ちをかけるような撤回になにかがおかしいと感じはじめる。


ブロンシュの身の危険を感じた護衛が、祖国へ報告しティヨールから逃げ出すことになった。

その過程で、今回の騒動に自分だけでなく、シュロールにも疑いがかかっていることを知ったブロンシュは、それだけでも伝えてからこの国を離れようと決意する。


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   ・


「こちらの令嬢から奪い取るような真似をしたことは、国の為とはいえ申し訳ないと思っております。私もあの方の優しい立ち振る舞いに、少なからずお慕いしておりました。なのにこのような仕打ち。王太子様は…オルト様は、変わってしまわれました。」


エンジュは黙って話を聞いていた、ブロンシュはもう一度立ち上がり、頭を下げる。


「フェイジョア辺境女伯は、此度の夜会へ出る為王都まで来られたのでしょう。きっと何かしらの動きがあるはずです。このまま私が国へ帰ることで、ティヨールとコニフェルードは戦争になるかもしれません。国の行く末を任せることになったこと、同じ国を預かる一族として申し訳なく思っております。」


ここまで話を聞いて、ブロンシュがこちらに接触しようとした意図がようやく見えた。

こちらの動き次第で戦争が始まる…それを止められるチャンスがあるのは、今度の夜会というわけだった。


「…私共に何ができるかわかりませんが、心に留めておきましょう。」


そう言うとエンジュも立ち上がり、礼を取る。

二人の話は終わった。




   ◇◆◇




「ブロンシュ王女、国境まで護衛を務めさせていただくハルディン=プラタナスと申します。」


王都から抜け出し、国境まで少数でブロンシュの護衛をする。

ガルデニアやエンジュが抜け出せない今、ハルディンが数人で護衛を勤めるようになった。


「貴方が、シュロールのお相手?」


ブロンシュは邸から今まで見た男性の中で、ハルディンがそうなのだろうと当たりを付けた。


「いえ…いや、そうありたいと思っています。」


ハルディンが答えると、ブロンシュは眉を寄せた。

この者は名は名乗り貴族には違いないが、爵位を言わなかったところを見ると高位の者ではないはずだ。


「そう…ならば誰よりも高い地位に昇りなさい。誰からも一目置かれるような男になって、シュロールが他国の王女と交流してもおかしくないくらいに…。」


そう言うとブロンシュは目に涙を溜め、頭を振る。

頭では無理だとわかっている、でもなってみたかった…国や立場など関係のない、友達というものに。


「…なんでもありません。先を急ぎましょう。」


主従でもなく、媚びるでもなく、ブロンシュを救うと言ってくれた者は初めてだった。

手を握り、暖かさに包まれ、どれだけ安心しただろうか。

きっともう二度と会えないだろう、それでも忘れてほしくはなかった。


「王女殿下は隣国のカメリア次期王太妃をご存じですか?」


突然の問いに、馬鹿にされたかのように眉をひそめる。

王族たる者、他国の情勢…特に王族や高位貴族のことに関心を向けることは当然だ。


「シュロールは、あのカメリア様と親しくしております。お互いを愛称で呼ぶほどに。」


ブロンシュは驚きに、目を見張る。

そんなことが可能なのだろうか、しかし他の王族ができるのであれば…諦めることはできない。


「…手紙を…手紙を書くと、伝えてください。」


目に涙を溜め、嬉しそうに頬を染める。


「ティヨールは悪い事ばかりではありませんでした。皆、世話になりました。」


秘密裏に国を出る為、またこの邸に滞在していることを伏せるため、見送りはほとんどいない。

だがブロンシュは、この邸の全ての者、そして未来の友人となる者に感謝を込めて礼を言った。

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