06
私はその後…気を失い、またもや高熱を出して数日間意識がない状態が続いた。
ベッドの上で意識の波に朦朧としている私を、ミヨンが心配そうにのぞき込み看病をしてくれていた。
夜中なのだろう、サイドテーブルの光に照らされているミヨンの顔色が悪い。
なにかミヨンに声をかけたいと思うが、乾いた喉からはなにもでてきそうにない。
「(もし私が聖女になれなくても、ミヨンは一緒にいてくれる?)」
私の看病をしながら泣きそうになっているミヨンを見て、私も悲しみが広がっていく。
「(そんな顔をさせてしまって、ごめんなさい。)」
再び意識が、暗闇に沈んでいった。
◇◆◇
起き上がれるようになってすぐ、お父様の執務室へ呼ばれた。
お父様に会うのが怖い…扉の前で体が固ってしまう。
期待に応えることができない私に、お父様は何を思うのだろう。
気持ちの沈みとともに、声を発することが重くなってくる。
瞼の裏が熱く重い…後ろ向きに歩き出したくなる気持ちをふるいたたせて執務室をノックする。
「…っ、お父様。シュロールです。」
「入りなさい。」
執務室のドアを開けると、お父様の顔がこちらを向いている。
双眸が鋭く、そしてけっして逃がしてはくれない強さでシュロールをとらえる。
勧められるままにソファへ座ると、お父様が重く口を開いた。
「いっそ…たいした魔力を持っていない方が、ありがたかったんだがな。」
お父様は初めにそういって、私から目線をはずし大きくため息をついてみせた。
お父様の期待を裏切ったのだ。
そういう反応をされることは予想がついていたが、実際に目の前でされるとこらえられるものではなかった。
目に、涙が浮かぶ。
「申し訳…ございません。」
公爵家の令嬢として、常に冷静であることを心に置いているつもりだった。
それなのに私の声はあまりにも弱く、そして困惑し震えていた。
お父様の眼差しは、私の様子を観察しているようだった。
重苦しい空気の中、考えをまとめるのに時間をかけこちらに視線を合わせたお父様はアシュリー様からの報告を簡単に教えてくれた。
アシュリー様によると、「時間が必要」ということだった。
今は魔力を発動することができないが、いつか発動する様になるかもしれないという事。
その為の、学習や実技が必要だという事。
そしてこれが一番驚いたことだったが、学習するためにユージンがこの屋敷に滞在してくれるという事。
ひと月に一度、アシュリー様が公爵家に出向き、測定を行ってくれるという事だった。
そして…聖女候補が、保留になった事。
実際シュロールは、この国が始まって以来の聖属性魔力の持ち主だった。
このことを無視して、聖女候補から完全にはずすことは難しい。
排除とするにはまだ、判断が早すぎるとのことだった。
アシュリー様はこれらの交渉を公爵家とかわし、お父様は心ならずも了承した。
本来ならば、公爵家の恥として私を早々に領地へ送り、ふりかかる醜聞を隠そうと思っていたのだろう。
わずかな可能性を考え、道筋を残しておいたのだ。
「しっかり学習をして、少しでも早く発動できるようになりなさい。王家には私から報告しておく。」
「これ以上、私の期待を裏切らないでくれ。」
お父様はそれだけいうと、私に退室を促した。
退室する際に執務室の窓から見たものは、黒い雲に覆われた灰色の景色だった。
執務室のドアを閉めてもなお、私の瞼には同じ景色が浮かぶ。
それはこの先、自分の行く末にかかる不安のように思えた。