05
翌日神殿からの手紙が届き、以前測定の日に来た神官たちが訪れた。
「シュロール様、ごきげんよう」
「今日はもう一度、シュロール様の魔力を拝見させていただきにまいりました。」
「ごきげんよう皆様、前回は色々とお騒がせしました。」
「こちらは私の侍女のミヨンです。今日は一緒に、お話を伺わせていただきます。」
私の後ろで、ミヨンが頭を下げた。
「これはこれは、かまいませんよ。可愛いお嬢様方とご一緒できるなど、光栄です。」
前回の事があり不安でいっぱいだったため、ミヨンが同席してくれるのはうれしかった。
そして相変わらずアシュリー様は、大人の男性なのに優しく微笑む人だった。
「(比べることではないけれど、オルトリーブ殿下もこのように微笑んで下さったなら…)」
少しだけ、悲しくなった。
そんな私を見るアシュリー様は思うところがあったのだろう、本題の前にと提案をしてきた。
「シュロール様は魔力を使うことに、慣れていません。」
「少しリラックスしていただくために、一緒にお茶をいただいてもよろしいでしょうか。」
庭に出て、ミヨンがお茶の用意をした。
ユージンとフェルナンも一緒にテーブルを囲み、楽しい時を過ごした。
アシュリー様が甘党であること。
ユージンの失敗談。
フェルナンの元を訪ねてくる、女性の話。
私たちは話に夢中になり、先程の悲しい気持ちはすっかりなくなっていった。
「ではそろそろ少し、魔力を拝見させていただきます。」
アシュリー様は音もなく席を立ち、以前のように私の前に膝まづき両手を取った。
ミヨンの方を見ると、はじめて見る緊張な面持ちで、私から目を離せないでいた。
「少し、魔力をひきよせます。私が手を握ったら、回復を念じてください。」
私がうなづくと、アシュリー様は微笑んで目を閉じた。
周囲がまた白い光に照らされていく。
ただ、なにも起きないまま光は終息していった。
「…どういうことですか、アシュリー様。」
「これは困ったことになりそうですね。」
ユージンとアシュリー様がささやきあう。
「どういうことでしょうか…。」
なにか良くないことが起きたのかと、不安で聞いてみた。
「もう一度同じことをやりましょう。今度は口に出して、回復を唱えてみてください。」
その後何度か同じことを少しずつ方法を変えて試してみたが、一度も成功することはなかった。
なんという事だろう。
呼吸が整わず、体が徐々に冷たくなっていく。
瞼の裏に、怒りに満ちた姿のお父様と、あきれ果てたオルトリーブ殿下の姿が浮かぶ。
『王国の国民全員に初歩の回復魔法をかけても、まだ余るほどの魔力を持っている』
そう言われた私の魔力は、全く発動することができなかった。