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聖属性魔力がありあまる  作者: 羽蓉
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「私は、迂闊すぎるでしょうか?」


ガルデニアに問いかけるシュロールもまた、迷っているのかもしれない。

自分でエンジュにお願いをしておいて、ここにきてひるんでいるのだろうか。


「私は、アレを憎んでおります。」


いつもと違い、こちらの問いかけに真面目に返すガルデニアに真剣に耳を傾ける。


「姫が迂闊であるかないかといえば、迂闊なのでしょう。ですが姫は自分が決めた事をなされば良いのです。それを守るのは私の役目ですから。」


それから…とガルデニアは、彼に似合わない自信のない声で囁く。


「アレの心は、一度死んでおります。自分の犯した罪を償う覚悟もあります。今はまだ途中で、これからも葛藤し続けるでしょう。私はいましばらくアレを監視し、見守ろうと思っています。」


ガルデニアもまた、この決断が腑に落ちてないのかもしれない。

しかし、その表情は穏やかであった。




   ◇◆◇




それから何度となく、騎士棟を訪れる。

そのたびに、ヴィンセントやガルデニア、どちらかが護衛をかってでてくれた。


何度かハルディンを見かけることがあったが、その都度奥の扉へ引っ込んでいってしまう。

同じ持ち場の人へ出てきてもらうよう言伝を頼んだこともあったが、それも忙しさを理由に断られてしまった。


シュロールには許す気持ちがある、それを直接伝えたかった。


   ・

   ・

   ・


ある時、大浴場へ入ると思ったよりも近くにハルディンはいた。

シュロール達が来たことは、気が付いてないようだった…今日も汗だくで、黙々と仕事をこなしている。


「ブレシュール、話したいことがあるの。」


背後からそっと声を掛けると、背中がびくっと跳ね上がる。

シュロールの姿を確認もせずに、足早にその場を離れ、奥の扉へと消えていってしまった。


シュロールもまた我慢の限界だった、言いたいことも言わせてもらえずに無視をされるのはつらい。


「ごめんなさい、ヴィンセント…ここに残って!」


「あっ…お待ちください、お嬢様!」


護衛のヴィンセントをその場に残し、シュロールはハルディンが消えた扉の奥へと入っていった。

扉の奥は控室のような造りであった、そこにハルディンはおらず、さらに奥に扉がある。

辺りを見回し驚く人を躱し、シュロールは更に奥の扉を開けた。


そこは建物の外へと繋がり、洗濯物などが多く干されていた。

洗濯物との隙間に、ハルディンをみつける。


足早に駆け寄り、呼び止める。


「どうして、話を聞いてくれないの!」


シュロールは子供のような癇癪を、ハルディンにぶつけた。

ハルディンは驚いたように一度シュロールを見て、再び少し足を進めた。

木陰に入り、大き目な木に背を付ける。

腕を組み上を向き、静かに息を吐く。


「聞いてどうする?それより、こんなところに一人で来るなど、あの女や狐顔が黙ってないぞ?」


シュロールは頭を振り、言葉を続ける。


「ごまかさないで。」


ハルディンはやれやれとでもいうように、上を向いたまま瞼を閉じる。

逃げることはなさそうだと、シュロールは話を続けた。


「もう私に、貴方が思っていた公爵令嬢としての価値はないわ。貴方も私を必要としないのなら、私達お互いうまくやっていけないかしら?」


何故か媚びるような笑顔になってしまう、こんな表情をしたいわけじゃない。

シュロールはこれが上手い言い回しでないことはわかっていた、ただ避けられている人の前で緊張し言葉を選ぶことが出来ない。


「それで?俺だけが許しを得て、心が軽くなることになんの意味がある?俺は罪を償う為にここにいる、他でもないお前にだ!」


ハルディンの感情に触れ、シュロールは張りつめていたものが切れたかのように、ぽろぽろと涙を流していた。


「…っ、それでも許し、たいと、思うことは…いけないことなの?」


ハルディンはその様子を見て、ぎょっと目を見開いていた。

償うべき存在を、泣かせてしまっている…そんなつもりはなかった、もっと俺を憎めばいいと思っていたのに。


「待て…くそっ、少し触れるぞ。」


そう言われ、シュロールはびくりと身を震わせる。

だが触れると言ったハルディンは触れる前に、体を止めシュロールを待っているようだった。

しばらく時が止まったかのように、お互いの動向を探る。


返事を待つハルディンに、シュロールは頷いた。


ハルディンは近くに干してあるタオルを手に取ると、シュロールに近づきそっと涙を拭いた。

触れると言いはしたが、ほとんど触れている部分はない。

その行動に、シュロールはなぜか微笑みがこぼれる。


「やっぱり、貴方可笑しいわ。」


泣きながら笑うシュロールは、涙をこらえながらタオルとハルディンのシャツを持つ。

シュロールの頭が、自分の胸のすぐ前にある…ハルディンは驚き、たまりかねて声を上げる。


「あーっ、くそ、くそ!なんなんだ!誰かいるんだろ?来てくれ、頼む!」


顔を赤くして上を向き、その顔を両手の掌で覆うハルディンを見て、少し離れた場所で控えていたヴィンセントが笑いを堪えながら近づいてくる。


「お嬢様、その位で勘弁してやってください。これ以上やるとコイツ倒れてしまうんで。」


ヴィンセントが間に割って入ると、シュロールは心配そうにハルディンの顔を覗き込もうとする。

ハルディンは唸り声を出しながら、その場にうずくまってしまった。

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