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聖属性魔力がありあまる  作者: 羽蓉
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大浴場を出て騎士棟より中庭を経て、邸の自室へ戻る。

早く魔力の発動を試してみたく、逸る気持ちはあるというのに、それとは反対に進む足取りは重い。




シュロールはハルディンの言葉を思い浮かべながら、胸にもやもやしたものを感じていた。


ハルディンに何があったのかわからないが、以前とは違いシュロールのことを気にかけ、手助けをしてくれているように感じていた。

それなのになぜ、もう訪ねてこないでほしいなどと言うのだろう。

ヴィンセントやミヨンはきっと、シュロールに気を遣い意見らしい意見を言うことはあまりないのだろう。

その点ハルディンならば、頭の回転が良く、シュロールへ忌憚ない意見を言ってくれるに違いないと思っていたのに。




「あの、お嬢様。」


思いつめたように、ミヨンから声をかけられた。


「いかがされました?なにか思うことがおありのようですが…。」


「なんでもないの、ごめんなさい。少し急ぎましょうか?」


「いえ、よろしければご提案があるのですけれども…よろしいでしょうか?」


そう言うとミヨンは、入浴着のことについて話し出した。

この世界では、入浴の時に入浴着という物を着用して入浴する。

薄い布地にレースなどを施した羽織りを前で合わせ、軽く紐で結ぶ。


「王都でもそうでしたが、魔力の事では、私はあまりお役に立てません。」


顔を伏せつつミヨンは言った。

いつも真っすぐに、視線を反らさないミヨンにとっては珍しい。

自分が役に立てないことがもどかしい、と思っている事が伝わってくる。


「しかしお嬢様がご令嬢としてお過ごしになる為の、支えにはなれます。今後の事を考え入浴着を改良してはいかがでしょう?」


今までの一般的な入浴着は、薄い色がほとんどだった。

でも今後、魔力を発動するためには入浴する事が増えるであろう。

その為に、人目につくことを警戒しての発言だった。


「ありがとう、ミヨン。私では思いつかなかったわ…お願いできる?」


「あっ、いえ。私など…のちほど手配いたします。ご要望はございますか?」


「…透けない、が一番重要かしらね。」


「…で、ございますね。」


シュロールとミヨンは、顔を突き合わせて真剣に話し合い、そして笑いあった。

ヴィンセントは会話の内容を察してか、数歩あとについてくる。




   ◇◆◇




シェスにも戻ってきてもらい、再びバスルームに入る。

入浴着に着替えて、バスタブへ近づく。

前回とは違い、お湯の準備をしなくていいミヨンとシェスは、息を飲んでシュロールの様子を伺う。


シュロールはバスタブの前に立ち、祈った。

深呼吸をするとバスタブの底に手をつき、そっと念じる。


「(手桶10杯分の温泉のお湯を、アイテムボックスの外へ)」


その時に、前世で温泉施設に行った時のライオンの口からお湯が出ているところを思い浮かべていた。


ザザザーーーッ。


掌を中心に渦を描き、温泉のお湯が次々とバスタブへ溜まっていく。

目分量でだいたいを考えていたが、手桶10杯分はバスタブに溜まると少し少ないくらいだった。


姿勢を正し息を飲むと、シュロールは足をつけバスタブの中へゆっくりと浸かって行った。

普段お風呂に入る時の温度よりも、少し熱く感じる。

じんわりと暖かさが体へ昇ってきて、気持ちが良い。


やはり大浴場で指先に感じた時と同じように、体の表面から何かが流れるような、伝わっていく感触がある。

シュロールは目を閉じ、以前にアシュリー様と手を繋ぎ測定をした時の要領で、自分の中にあるはずの魔力へ集中した。


「お嬢様!」


ミヨンの声に驚き目を開けると、ミヨンは湯の表面を見ているようだった。

シュロールも気になりつつ、視線を落とす。


そこにはシュロール自身からにじみ出るように、白い靄が湯の中に漂っていた。


「…これが、私の魔力…。」


シュロールが靄の部分を両手で掬い、よく見えるように近づける。

うすい靄のようなものはお湯の中で、霧散していった。

シュロールは祈るようにもう一度、自分の中の魔力へ集中した。


やがてシュロールの体を中心に、白い靄が増え、入浴剤のように真っ白なお湯へと変わっていった。

バスタブの中全体が白くなると、やや緑色の光がバスタブの中から輝きだす。


目の前で起きている事柄に、声も出せずに恍惚とした表情で見守るミヨンとシェス。

シュロールは自分でも信じられない気持ちで、その変化を見つめていた。


「シェス、お願い。」


我に返ったシュロールはあらかじめ、打ち合わせていた通りにシェスを呼んだ。


シェスは両手を胸の前で握りこみ、やがて意を決して湯船に両手を浸けてみた。

明らかに、以前と違う感触があった。

ぴりぴりと肌を刺激する感触に加えて、熱さを感じる。

驚いたシェスは、湯につけてすぐに手を引き上げた。


慌ててミヨンがタオルを持って、シェスの手を包み込む。

再び開いた時に目にしたシェスの手は、手荒れの後などみじんも感じない綺麗な若い女の子の手であった。


「…か、回復してます。というか、手荒れなんてなかったかのようです!」


すごいすごいと、ミヨンとシェスは二人ではしゃぎ喜んだ。

目に涙を浮かべ、互いに自分の主人がすごい事をやり遂げたと称えあっていた。

ふと気が付くと、シュロールの反応がないことが気になった。


ミヨンはシュロールへ駆け寄り、様子を確認しようと顔を覗き込む。


シュロールは静かに声をこらえ、大粒の涙を流し、ミヨンとシェスを見上げ「ありがとう」と呟いた。

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