04
ミヨンと婚約に対する分析をした数日後、私は王太子殿下との婚約をお受けするために、お父様と一緒に王宮へ向かった。
婚約が成立することは決まっていたため、堅苦しい場ではなく顔通し程度として王宮の庭で王太子殿下と対面することになった。
「私が王太子である、オルトリーブ=ティヨールだ。」
護衛を引き連れて颯爽と現れた王太子殿下は、私の方へ促されると同時に私の顔をじっと見つめた。
はじめて会った王太子殿下は、10歳にして美しい容姿の持ち主だった。
肩下まであるハニーブロンドの髪を一つにまとめ、整った顔立ちにアイスブルーの瞳、長めのまつ毛にふちどられていた。
「(こんな人の隣に立つことが、私にできるの?…荷が、重すぎる…。)」
やがて、私を観察していた王太子殿下が口を開いた。
「聖女と聞いていたが、見た感じ…特別な派手さはないのだな。」
「まあ国の為、しっかりと努力するがよい。」
王太子殿下は、私を見ると溜息をこぼし、あきらかに期待外れだというような口調でいった。
私は劣等感でいっぱいになり、涙声にならないよう必死に返事をした。
「シュロール=シネンシスと申します。」
「オルトリーブ殿下の足をひっぱることのないよう、しっかり努力したいと思っています。」
オルトリーブ殿下は、満足できる返事がかえってきたことにうなずくと「では失礼する」と言い残し、そのまま王宮へ帰っていった。
◇◆◇
王宮での対面をお父様へ報告することができないまま、自室へ戻ってきてしまった。
あとから聞いた話だが、婚約が成立したことでお父様の機嫌はよかったらしい。
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「では、それだけのやり取りしかなかったのですか?」
鏡越しのミヨンの言葉に、怒りがにじんでいるのがわかる。
ブラッシングをしてもらっているのだが、手に力がはいっているのか髪の毛をひっぱられている。
「…しょうがないわ、オルトリーブ殿下は美しい方だったんだもの。」
「それでもです。お嬢様も…けっして劣っているわけではございません。」
ミヨンは相変わらず、私贔屓だ。
「ふふっ、ありがとうミヨン」
鏡に映る自分をみつめてみる…この先、どう美しく成長してもあのオルトリーブ殿下に釣り合える気がしない。
この黒い髪と淡いグレーの瞳…オルトリーブ殿下は「特別な派手さ」と言った。
きっと聖女と聞いて、鮮やかな令嬢でも想像していたに違いない。
せめて恋心だけでも持てれば、努力をする理由にもなったんだが。
「それでも、努力はしなくては。」
オルトリーブ殿下を、好ましいとは思えなかった。
ただ貴族の婚姻とは家の結びつき、私一人の考えでどうにかなるものではない。
なにを…どう、努力すればいいんだろう?
憂鬱だと思いつつ、明日勉強の先生に相談してみようと思った。