03
高熱が引き、やっと起き上がることができるようになった頃、私に専属の侍女がついた。
今後『娘が聖女になるかもしれない』と、期待した父が手配したものだった。
「お嬢様…新しくお嬢様の専属となる侍女を紹介しますわ。」
「ブッドレア男爵家が次女、ミヨンともうします。これからお嬢様のお世話をさせていただきます。」
顔をあげた少女は、長いアッシュブラウンの髪の毛を綺麗にまとめ、しっかりと目を見て話す子だった。
「ミヨンはお嬢様と同じ年になります。」
「そう、よろしくお願いします。ミヨンとは仲良くなれそうな気がしますわ。」
呼ばれた少女は目を丸くして、こちらを見ていた。
彼女は男爵家に生まれている。
身分の差を考えても公爵家の娘に、そんなことを言われると思っていなかったのだろう。
目線が正直すぎる…でもそこが、とても好感が持てた。
再びミヨンを見ると、彼女はしっかりと目を見て口元だけで微笑んだ。
◇◆◇
「当然のことだと思いますよ。」
ミヨンが手際よく紅茶を入れながら返事をする。
私の予感通り、ミヨンとはすごく仲良くなった。
彼女は聡明で、はっきりと物を言う子だった。
多角的に物事を見据える洞察力がある上に、全力で私のことを肯定してくる。
必ず目を見て話す姿の彼女に、嘘がないとわかる。
私は彼女の目が好きだった。
「…そうかしら、神殿からの結果もまだわからないのに?」
私とミヨンは、先程お父様に呼ばれたことについて話していた。
測定の噂を聞いた王家から、王太子との婚姻の手紙が届いたのだ。
お父様は自分の発言力が確かなものになるという視点から、大変喜んだ。
ミヨンが言うには『聖女』を王家に取り込み、他国を威嚇する目的があるのではないか…とのことだった。
「聖女だから娶ったのではなく、『娶った女性が聖女に選ばれた』と言うことが大事なのだと思われます。」
事もなさげに言うミヨンに対して、少し眉間にしわを寄せる。
ミヨンの言うことはきっと正しいのだろうけど、言われる身にとってはたまったものではない。
「これで私が聖女でなければ、どうするのかしらね。」
「お嬢様ほど聖女にふさわしい方はいらっしゃらないので、大丈夫です。」
「…ミヨン、大丈夫には聞こえないのだけれど?」
「出過ぎたことを申し上げました、でも間違いないので大丈夫です。」
ゆずらないミヨンに、吹き出しそうになる。
自分が何者であるかわからない不安に悩んでいるというのに、絶対的な味方がいるのはありがたかった。
「(彼女のこういうところ、好きだな…ミヨンがいてくれて良かった)」
温かい紅茶を持ちながら、目線を窓に向けそっと考えをめぐらせる。
どんな思惑があろうと、神殿の結果がどうであろうと…私がこのお話を断ることはできない。
せめて、期待を裏切らないように努力をしよう。
そこまで考えて、ようやく紅茶に口をけてみた。
澄んだ香りが心地よい。
心の中のもやもやが溶け出すような、ほっとする味だった。