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聖属性魔力がありあまる  作者: 羽蓉
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28

ミヨン達の話を聞いているうちに、すっかり時間が過ぎて行ってしまっていた。

途中エンジュより、今日の夕食を一緒にとることができないと伝言を受けていた。


旅の疲れもあり、簡単なものをお願いして食堂へ向かった。


「無理を言って、ごめんなさい。」


給仕をする者に申し訳なさそうに伝えると、顔を輝かせながら「とんでもない」と喜んでいた。


お願い通りに、品数を少なめに提供してもらっているが…王都のシネンシス公爵家ではみたこともない料理が並んだ。

ひとつひとつゆっくりと説明を聴きながら食べたいところだが、明日以降の楽しみになりそうだ。

どの料理も美味しくいただいたが、特にパンは感動的に美味しく、無言でパンだけを食べ続けるほどだった。




食事が終わると、早々にこれから自室になるであろう部屋へと、ミヨンに案内された。


案内された先のドアを開けると、そこにはシネンシス公爵家の自室と似た雰囲気の調度品で整えられていた。

特に目を見張ったのが、壁に一面に作り付けてある本棚だった。


「これは…。」


なによりもシュロールを理解していなければ、この部屋にはならない。

今まで努力してきた、魔力の研究…フェイジョアに来てその努力は、必要とされないだろうと思っていた。


「今までのシュロール様のご様子を、エンジュ様へ報告させていただきました。」


驚きで本棚に視線が釘付けになっているシュロールの背中に、ミヨンがそっと話しかけた。


「必要な物は全て揃えるとおっしゃって…僭越ながら私も、少し協力させていただきました。」


そういうとミヨンは、シュロールに向かい「お帰りなさいませ」とそっと囁く。

目に涙を溜め、シュロールはミヨンに感動を伝えるよう、静かに抱きしめた。




   ◇◆◇




昨夜はいつの間にか眠りに落ちていて、朝の寒さで目が覚めた。

秋になったばかりとはいえ、フェイジョアの気候は侮れない。

羽織る物を手に取り、ベッドの横にあるチェストの上にあるエンジュにもらったガーネットを手に取った。


「おはようございます。お嬢様、よろしいでしょうか?」


コンコンとノックをして、応えるとミヨンがドアから顔をのぞかせてきた。

全身が確認できるまで側にくると、シュロールは声を上げた。


「まあっ!」


ミヨンが着ているのは、フェイジョア辺境伯邸のメイド服であった。


ホワイトブリムを頭に乗せ、ペールブルーに白いピンストライプのワンピース。

その上にはケープの様に肩に広がる形でウエストをリボンで結んだ白いエプロンを着ていた。

シネンシス公爵家の伝統を重んじることを主にしたメイド服とは違い、とても可愛くよく似合っている。


「とても可愛いわ、ミヨン!」


ミヨンは伺うようにシュロールの目をじっと見つめると、やがて表情をほころばせた。


「ありがとうございます、お嬢様。また今日から、よろしくお願いいたします。」


にこにことミヨンの可愛さに、全身をくまなく眺めていたシュロールはその言葉に、少し顔を曇らせた。


「そのことなのだけど…ミヨン、あなたはそれでいいの?私はもう王都ではなくフェイジョアへ来て、エンジュ様の庇護下にいる。あなたは…本当は、騎士になりたかったのではないの?」


シュロールは自分の為に、進むべき道を閉じさせているのではないかと、ミヨンに問いかけた。

それに驚いたミヨンは、眉を寄せ下を向き頭を振った。


「お嬢様、私はお嬢様に生涯忠誠を誓うと…あの時決めたのです。それはどんな形でも構いません。お嬢様の側こそが、私の場所なのです。」


そう言うとミヨンは顔を上げ、真っすぐとシュロールを見た。


「昔『あなたとは仲良くなれそうな気がする』と言ってくださったではありませんか!」


窓のカーテンの隙間からこぼれる朝日を顔に受けたミヨンは、首をかしげ微笑んだ。


「そうね、貴女はフェイジョア辺境伯邸のメイドであり、ブッドレア男爵家令嬢…そして心に騎士の誓いを持った、私の友人だわ。」


ミヨンの両手を取り、シュロールは「忘れないでね」と呟いた。


   ・

   ・

   ・


ミヨンに手伝ってもらい、朝の支度をしていると髪を梳かしながらミヨンが今日の予定について話してきた。


「本日は朝のお食事がすんでから、エンジュ様の執務室へ伺うようにいわれております。申し訳ありませんが、エンジュ様はすでに朝食を済ませておりますのでお一人での朝食になります。」


「ええ、わかったわ。私もエンジュ様に伺いたいこともあるし…。午後には少し、時間が空くかしら?」


「大丈夫だと思いますが、いかがされました?」


「さっそくだけど、本棚に本を入れたいの。」


ミヨンは鏡越しに、嬉しそうに微笑んだ。


以前のお嬢様は…なにかに怯えるように学び、焦りを隠すように本にかじりついていた。

そうしないと、自分が自分として存在することができない…そんな風にも見えた。

しかし、今は違う。

期待に満ちた目で本棚を見て、本を並べたいというお嬢様は、とても満ち足りている表情だった。


「(フェイジョアへ、お連れできてよかった…。)」


王都のシネンシス公爵家や王太子の前ではけっして見せない笑顔でいるシュロールを見て、ミヨンもまた自分に笑顔が浮かんでいることを感じた。

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