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聖属性魔力がありあまる  作者: 羽蓉
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騒動があった翌朝、シネンシス公爵家では慌ただしく来客を迎えていた。

本来なら手紙で伺いを立ててからの、訪問となるはずだが…その来客は手紙とほぼ同時に訪れた。


不躾な訪問であるが、上位の者を迎えるにあたりそんなことは言っていられない。

ただただ、今は…時が悪い。

内容によっては、早々にお引き取り願いたい相手であった。


   ・

   ・

   ・


シネンシス公爵家の居間では、体裁を取り繕ったジェロームがお客様を迎えていた。

向かいのソファには、体躯のいい壮年の男性、そしてその子息が座っている。


「突然の訪問に驚いておりました、プラタナス公爵。」

「今日はどういったご用件で…申し上げにくいのですが、昨夜のことで我が公爵家は少し立て込んでおりますゆえ…。」


「そのことで少し貴殿と話がしたいと、これが言うものですからな。」


プラタナス公爵と呼ばれた壮年の男性は、隣に座る自分の息子に視線をやった。




プラタナス公爵も昨夜の夜会に参加しており、事の一部始終をこの目で見ていた。

王太子による婚約破棄…プラタナス公爵家にとっては、パワーバランスが測れる良い余興くらいにしか思っていなかった。


しかし家に戻るなり、息子であるハルディンが婚約破棄された令嬢を「伴侶として迎えたい」と言ってきた。


最初は正気を疑ったが、考えてみると…これはこれで使い道がある。


婚姻を結ぶ家として…シネンシス公爵は落ち目ではあるが、金回りが良い。

これもあの令嬢の恩恵だと、もっぱらの噂である。


そしてなにより、血筋が良い。

社交界ではあまりしられていないが、辺境伯であるフェイジョアの血を引く…あの美しいオルタンシアの娘である。


令嬢としては、少々出過ぎたところがあるが、我が息子であれば使いこなせるだろう。

息子はあれで、私に似て奸計が得意である。


そう考えたところで、プラタナス公爵にもわかることがあった。

この考えにたどり着くものが、少なくないであろうこと、そして急ぐべきであるということを。

利益と恩恵を受けるべきは、我がプラタナス公爵家であるべきだ。


   ・

   ・

   ・


プラタナス公爵とハルディンは、同じ公爵の爵位を賜る家でも、自分達が直接に会って押し切ればシネンシス公爵はこの話を受けるであろうと思っていた。

昨夜の出来事に対しての助け舟ともとれるように、和やかに話をするつもりでいた。


それにしても、シネンシス公爵の顔色が悪い。

公爵家当主が直々にやってきたのだ…今のシネンシス公爵ならば、諸手を上げてすり寄ってきてもよいはずなのに。

少しの疑問を持ちながらも、プラタナス公爵は話を進めることにした。


「うちのハルディンは、ご存じですな?」

「これもそろそろ後継者として、色々学んでいかねばならぬのですが…。」

「その前に良い伴侶をと思っておりましたが、どうしてもこちらの令嬢を伴侶に迎えたいと。」

「こうして伺った次第なのですが…どういたしました?」


こちらの用件を伝えている最中に、シネンシス公爵は顔を青くしカタカタと震え出した。

何かが変だ…このまま話を続けていいものか、プラタナス公爵は言葉を飲み込んだ。


その時…隣に座っていたハルディンから、声が上がる。


「おいっ、こっちに来て座るがいい。おまえにも関係のある話だ!」


目をやるとメイドが開けた扉の後ろを、ゆっくりと歩く令嬢の姿が見える。

突然声をあげる息子の無礼さに、苛立ちを覚えたが…当人がいるなら話が早い。


プラタナス公爵はうなずき、シュロールを居間に招き入れた。


昨日の夜会で見た艶やかな妖艶さとは違い、今ここで見る令嬢は朝に咲く小さな花のように慎ましい。

こちらが、本来の姿なのだろう。

しかし想像以上に、フェイジョアの…美しきオルタンシアの血を引いているのだと確信した。


黒い髪の毛はゆったりと降ろされサイドに流すように軽く結われている。

身に着けているドレスも華美なものではないものの、薄い水色と白の刺繍が清楚さを醸し出している。

何より透けるような白い肌は、見る物を惑わせるほどの滑らかさをみせている。


シュロールは居間で話している我々に向かって、近寄り礼を取る。


「お初にお目にかかります、プラタナス公爵。」

「シュロール=フェイジョアと申します。」




シネンシス公爵の震えは止まり、ハルディンは何を言っているかわからないという顔をした。

挨拶を受けたプラタナス公爵は思考の為に動きを止め、次の瞬間烈火のごとく怒りをあらわにした。


「(…フェイジョア、フェイジョアといったか?)」


「…これは…これは、誰の失態だ!…おまえかっ、シネンシス!おまえが仕出かしたのか!」

「王家はこのことを…まさか、王家の失態なのか!」

「もう一人、娘がいたはずだが…何故こうなった?」


シュロールが名乗っただけで、瞬時に事を理解したのはさすが宰相だと言える。

シネンシス公爵も、こうも早く事が公になるとは思っていなかっただろう。

今もこの場でわかっていないのは、ハルディンただ一人であった。


「はっ、なにを言い出すかと思えば…他の男と婚姻でも結んだというのか?」

「どこの貴族だが知らないが、我が公爵「黙れっ!」家……えっ?」


言葉を遮られたことを不思議に思い隣を仰ぎ見ると、宰相の職務中でも見たことのない悪鬼のような顔があった。


「いえ、父上…この娘が名前を。」


「黙れといっている!」

「私が…策略において、間違った判断をしたことがあるか?」


ハルディンは父親を尊敬していた、その手腕でこの国を宰相として支えているのだ。

誰よりも、頭の回転は速い…その父親が言うのだ。

何かがある、そしてそれは父親の能力を持ってしても解決が厳しい問題なのだと。

ハルディンもまた、頭の回転の速い男であった。


プラタナス公爵は、シネンシス公爵を覗き見た。

先程から言葉を発することができず、使い物にならない。

おそらくは、この男が発端であろう…そして同時に、王家も失態を犯したに違いない。


「シュロール嬢、改めてご挨拶大変うれしく思います。」


「さっそくですが…いくつか質問したいことが。」

「シュロール嬢はいつから、フェイジョアに名を変えられたのでしょう?」

「あと…。」


ごくりと唾を飲み込む、できるならばこの予想は当たらないでほしい。


「エンジュ殿は、こちらにご滞在なのだろうか?」


言い終わると同時に、背後に気配を感じる。




「私を待ち望んでくれているとは…なんとも有難いじゃないか、プラタナス宰相殿。」


シネンシス公爵家の整った居間にて、貴族達の煌びやかな装いの中。

気だるい雰囲気と、口元だけの微笑み、そして皮肉を交えてエンジュは扉にもたれかかっていた。

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