02
神官達が神殿に帰ってその日のうちに…公爵であるお父様に呼ばれ、執務室へ向かった。
簡潔に言うと、私…シュロールの魔力は「聖属性」。
それも王国の国民全員に初歩の回復魔法をかけても、まだ余りあるほどの魔力であること。
そして神殿にて確認してみなくてはわからないが、今後『聖女』になる可能性があるかもしれない…ということだった。
色々なことが一度に自分に降りかかったその日から、シュロールは高熱を出し、寝込んでしまった。
シュロールは歪む視界から意識が徐々に遠ざかり、長い…長い夢を見ていた。
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「お父さん、お母さん…迷惑をかけて、ごめんなさい。」
何度目になるかもわからないその言葉を、疲れて青い顔をした両親に伝える。
「何を言ってるの、迷惑だなんて…大げさなんだから‼」
弾ける様に言葉を放つ母からは、以前に見られていた生き生きとした表情を見ることは出来ない。
「そうだぞぉ、元気になったらいっぱい返してもらうからなっ。」
少しおどけた様子で返事をする父の表情からは、心配からくる悲壮感がただよっている。
私はベッドの上から、両親に話しかけていた。
なにげない話のように、流されていく。
私は15歳の一年間を、この病院のベッドで過ごしていた。
時々両親は、表情が抜け落ちたまま立ち尽くすことがあった。
「大丈夫だから」「不安はないよ」を、くり返し説明される。
「(…私はきっと、長く生きられない…)」
そう確信していたが、両親を思い…言葉にはださない。
私の記憶は、手術に向かう直前に両親の手を握り「行ってきます」と言ったところまでだった。
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目が覚めて見た天井は、夢で見たそれとは違う天井だった。
この邸宅で公爵令嬢として、10年間育った記憶もある。
「手術…ダメ、だったんだ…。」
夢で見たと思ったものは、前世の記憶だった。
あの世界で私は、学校へ行く途中に突然足が動かなくなり…入院することになった。
脳の病気だということは知らされたが、「薬を飲めば治る」「手術をすれば治る」と言い聞かされていた。
親不孝だったな、もっと思っていることを…感謝を伝えれば良かった。
あんなに…あんなに私の為にがんばってくれていたのに。
丈夫な子になれなくて、ごめんなさい。
高熱を出していることを理由にして、私は思いっきり泣いた。
後悔した理由を思い出し、その事ひとつひとつを思っては…泣きまくった。
両親を思って、泣いた。
私が入院していた間、我慢させていた弟を思って、泣いた。
友だちを思って、泣いた。
無駄に過ごした人生を思って、泣いた。
優しくしてくれていた人たちを思って、泣いた。
公爵令嬢らしからぬ、慟哭。
使用人達が心配してかけつけてきたが、私は泣き止もうとは思わなかった。
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結局あの測定した日から、私は5日間寝込んでいたようだった。