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聖属性魔力がありあまる  作者: 羽蓉
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シュロールは自分の部屋で、お茶を飲む女性をこっそりと盗み見ていた。

自分もまた紅茶に手を伸ばすが、目の前の人物が気になってしょうがない。

ちらちらと、無言で視線を彷徨わせる。


「(お母様の姉…私の伯母様。)」


お母様を知らないシュロールにとって、この女性にお母様の面影を探してしまう。

だが最初から思っていたが、この方は本当に表情が乏しい人だった。


   ・

   ・

   ・


「見られるのは構わないが、聞きたいことから先にはじめてくれ。」


視線を上げず、手元の紅茶を無表情に見つめながらエンジュは言う。


突然の声に、無遠慮な視線を投げかけていたシュロールは慌てた。


「えっ…えっと、私は…辺境女伯の、養子になるのでしょうか?」


声はうわずり、紅茶を持つ手もおぼつかない。


「エンジュで構わない。」

「伯母様と呼ばれるのも、くすぐったいものでな。」


「養子の件は…そうだな。そうしてもらう事が、一番早い解決だろう。」

「そなたに異論がなければ、の話だ。」


顔をあげた、エンジュは口元だけで微笑んだ。


シュロールは、ほっと小さく、安堵の息を吐く。

今までに感じたエンジュという人は、表情は乏しく、感情が表にでることがあまりない。

だがしゃべると高圧的で、皮肉をこめて相手をやりこめる。


しかしこの伯母にあたる女性は、年下のシュロールに対しきちんと対話をし、意思を確認してくれる。

少なくとも、シュロールに対して意に沿わないことをしないという安心感がある。


「…何も知らないようだな。」

「ならば、フェイジョアとこの国、そしてシネンシスとの関わりから話してやろう。」


そう言うと、エンジュは淡々と、事の起こりを話しはじめた。




   ◇◆◇




フェイジョア辺境伯家は代々、隣国との国境を武力で制してきた。

一族の力は強大で、他国を圧倒する能力とそれに準ずるカリスマ性も持ち合わせていた。


ある時、王国はその力に嫉妬し恐れた。

いつか国を裏切り、隣国と組み、攻め込むのではないかと。


そこで王家は、婚姻を利用することにした。

政略結婚という名の、人質だった。


王家との婚姻となれば、辺境伯が力をつけすぎてしまう。

そこで白羽の矢がたったのが、高位貴族…それも公爵の中で発言力があまり強くない、シネンシス公爵家だった。


長女であるエンジュはすでに、家督を継ぐことが決まり、一族としての能力も開花していたので、婚姻は妹のオルタンシアが受けることになった。

そして、ジェロームとオルタンシアの婚姻が結ばれる。


ほどなくして政略ではあるが、ジェロームとオルタンシアの間にシュロールが生まれる。

しばらくは幸せに過ごしていたが、産後のオルタンシアはどんどん衰弱していった。


王家に託された、フェイジョアの人質…オルタンシア。

彼女を失うことを恐れたジェロームには、代わりの人質が必要だった。

シュロールだけでは不安だ…この子に何かがないとも限らない。

保身に走ったジェロームは、保険としてクロエを我が子とした…表向きに、オルタンシアの子供として。


そうして、今回の婚約破棄である。

ジェロームは、シュロールを駒として利用すると決めていた。

フェイジョアに対しては、クロエがいる…バレるはずがない、と思っていた。


王家はフェイジョアの人質が2人いると、高を括っていた。

シュロールとの婚約を破棄し、コニフェドールの王女と婚姻を結ぶ方が国としての利益が大きいと判断した。

シュロールに罪をかぶせ、国外追放にすることで王家の体裁をまもるつもりでいた。


それなのに夜会の前に突然、エンジュが王に対し謁見を申し出てきた。

火急の用件と、断ることのできない気迫を伴っていた。


蓋を開けると、フェイジョアの血を引くものは1人しかおらず…更にはその娘に、無実の罪を押し付けようとしている事実をつきつけられた。

すでにコニフェドールの王女との婚約も内定している状態で、王太子の婚約破棄は覆すことができない。


王として…内々にエンジュの養子の話を受けるしかなかった。

王家の失態で、フェイジョアの人質がなくなってしまったのだった。

すべてはジェロームの保身が招いた結果だった。




   ◇◆◇




「お前の父親が、ああも絶望的に落ち崩れた理由がわかるだろう。」


「ええ、お父様はこの後…爵位を落とすことになりますのね。」


「ああ、それだけではない。」

「そなたは知らなかったかもしれないが、あれはそなたの研究結果を用いて商売をしておった。」

「それもフェイジョアの力をつかって、端から潰していく。」

「金回りも、厳しくなるだろう。」


お父様も、シュロールのことを『聖女のなりそこない』として蔑んでいた。

その蔑んでいた娘の、研究成果を…商売として利用していた?


「(本当に愛してなど、なかったのね。)」


人質として利用されたお母様、そして国の政略や利益として利用されたシュロール。


エンジュはきっと、血の繋がりというだけでシュロールを助けに来てくれたのだ。

元々貴族として残るつもりはなかった、王都には未練はない。


「フェイジョアは、過ごしやすい土地だと嬉しいですわ。」


そう告げると、エンジュは顔を上げお母様と同じ微笑みを浮かべた。


「フェイジョアまでは遠い、道々話して聞かせよう。」


前世では当たり前のように受けていた家族の愛、今度こそ今世での家族の愛を見つけた気がした。

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