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聖属性魔力がありあまる  作者: 羽蓉
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公爵家の玄関へ続くスロープに到着した時、邸の玄関から騒がしい声が聞こえた。

馬車に残ったリアが心配して、待機してくれると言ったが私は断った。

騒がしい声の中心の人物に、心当たりがあったからだ。


リアに丁寧にお礼をいい、再会を固く約束して私たちは別れた。

リアと離れるのは寂しかったが、公爵家の騒ぎにリアを巻き込みたくない。




   ◇◆◇




玄関に近づくと声の主である、帰ったばかりのお父様とクロエが、思いつく限りの言葉で私を罵っていた。


「あの娘のせいで、我が公爵家の威信は崩れ去った!」

「あんな…あんな、なりそこない…早くどこか奥地に閉じ込めるべきだった!」

「ただでさえ、聖女になれもしない、落ちこぼれでしかないというのに…。」

「婚約破棄…婚約破棄、だぞ!」

「こんな、不名誉な…こんな…私のことを馬鹿にして!」


お父様はエントランスの中ほどで、落ち着きない様子でぶつぶつと思いを口に出す。

拳を握り、奥歯をぎりぎりと鳴らしながら親指の爪を噛む。


「王族に婚約を破棄された令嬢がいる家なんて…。」

「私の縁談は、どうしてくれるのっ!」

「お姉様のせいで、私が行き遅れたりしたら…ただじゃすまさないんだから。」


クロエは自分の扇子を握りしめながら、自分の縁談の心配をしていた。


「オルタンシアが生きていれば、この様に育てはしなかったのに。」

「…こうなったら、どこぞの有力な貴族の後妻にでもすえて、我が公爵家の発言力を強固なものにしなくては!」


「そうですわ、お父様。」

「ついでにお姉さまの持っている財も取り上げて、私の支度金に使えば…私にも良い縁が舞い込むかもしれません。」

「そうすれば、公爵家にとって利益になるに違いありません。」


名前を聞き、目に涙が浮かぶ。

お母様が生きていらっしゃったら、今の私に何を思うのだろう?

自分の名誉にしか興味のないお父様と、姉を踏み台にしようとする妹。


シュロールの母は幼い頃に亡くなったとしか、聞かされていない。

肖像画でお姿を、思い描くだけしかできない。

何度もお母様のお話をねだったが、詳しい話は教えてもらえなかった。


エントランスの入り口で立ち尽くし呆然とするシュロールに気が付いたお父様が足早に近づき、手を振り上げた。




「このっ、恥さらしがぁっ!」


…バシンっ!


頬を叩かれ、視界が歪む。

痛みよりも先に、衝撃に揺れる。

バランスを崩したシュロールは、そのまま床に倒れ込んだ。


「お前のせいで、お前のせいで…私がどれほど恥ずかしい思いをしたかっ!」


髪を引っ張り上げ、再び頬を叩く。

忌々しいものをみるように、クロエは扇子で顔を隠しながら、姉の様子を伺う。


シュロールを庇う者はいない。

ユージンもミヨンも、夜会へ出る前に、この家を出した。

二人はひどく反対したが、守るためにはどうしても譲れなかった。


「何が聖女だ!バカにして!」

「お前はこのまま、どこかの貴族に嫁がせる!」

「せいぜい、我がシネンシスの役に立て!」


そう言い終わると同時に、足で払い倒す。


「まず、喉をつぶす。女としての役に立てばよい。」

「あぁ、見た目だけは着飾ってやろう。せいぜい高位の貴族に気に入られるようになっ。」


実の娘である以前に貴族の令嬢とは、家の利益となる駒である。

愛情の有無よりも、利益の増減の方が大事である。


シュロールは考えていた、やはり自分の考えの外側にあった『王太子以外との婚姻』を勧められるのか、と。

ここからどうやって、逃げだす?

きっと嫁ぎ先が決まるまで、シュロールは監禁されるだろう。

ユージンとミヨンがいない以上、他のメイド達では逃亡の手引きは無理だ。

今はここをやり過ごし、時を待つしかない。

無意識にそっと、自分の喉に手を添えていた。

今まででさえ、理不尽な扱いに声を上げたことなどないというのに…。


そう思い抵抗をせず、耐えていたところに、公爵家の家令が足早に近づいてきた。


「ジェローム様!急ぎご報告が!」


その声にその場にいた、皆が振り返った時だった。




「ジェッローーーーーーーーーームッ!」


声を張り上げ、姿を現した人は…陰鬱な様相の女性であった。


漆黒の髪の毛は半分顔にかかり、目には光がない。

しかし身に着けているものの、色味は抑え目だが、品物は一級品に違いなかった。

男性が羽織るジャケットのようなトップをしたドレスを纏い、鞘に納め抜けないように紐で封印した剣を、杖のように扱っていた。

表情は乏しいが、目には力がある。

そしてシュロールと同じ、グレーの瞳。


「…義姉上、いや、エンジュ殿っ…。」


先程まで怒りを滾らせていたお父様が、みたこともない様子で狼狽している。

シュロールが婚約を破棄された時でさえ、見せたこともない表情に辺りにいた皆が息をのむ。

公爵であるお父様がこんなにも、動揺する相手。


「(義姉上…伯母様?)」


ゆっくりとお父様に近づいていく時に、少しだけシュロールと視線が交わる。

その視線には生気はなく、またシュロールに関心があるというわけでもない。

すぐに視線を、お父様に戻す。


「エンジュ殿、ご無沙汰しております。」


お父様から挨拶をし、礼を取った。

お父様より上の爵位でこんな方は、いないはず。


「久しいな、ジェローム。」

「なかなかに堅苦しい、挨拶じゃないか。」


表情は乏しいまま、軽い会釈ですます。

口調だけは、軽々しく親し気だ。

なのに…この重苦しい空気は、なんだと言うのだ。

誰一人、口を出せる気がしない。

それだけの気迫が、この女性からにじみ出ているようだった。

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