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聖属性魔力がありあまる  作者: 羽蓉
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シュロールはカメリアと共に、馬車に乗っていた。




当初の約束通り、カメリアの馬車で邸に送ってもらうことになったのだった。

助けて頂いただけでもありがたいというのに、重ね重ね…申し訳なさがつのる。


カメリアの馬車はこの国の物とは違い、豪勢な作りだった。

シュロールは奥へ腰をかけると、きょろきょろと周囲を見回した。


外の音は馬の足音さえ聞こえず、内側は振動を感じさせない。

中は広く作られ、令嬢が二人対面で座っていてもドレスをかすめることもない。

なにより圧迫感を感じないよう、内壁を明るく整えてある。


「音と明るさ、それに振動に対しては少し魔石を使っているの。」


カメリアはシュロールが物珍しそうに眺める様子をみて、そう答えた。

緊張していたのか、優しく話しかけられ、ほうっと息を吐く。


「少し…落ち着いたかしら、良かったらくつろいでね。」

「公爵家へは、少し時間がかかるから。」


送ってくれる側のカメリアが、気遣ってくれる。

先程までのハルディンとのやりとりとは違い、少し口調がくだけていることが嬉しい。


王宮から公爵家へは、王宮の外周を半周迂回してから、向かわなくてはならない。

同じ王都内にあっても、時間はかかる。


「ありがとうございます。本当に、なんとお礼を言ったらいいのか…。」


シュロールは少し眉毛をさげながら微笑み、カメリアに対して感謝を伝えた。


あの時…カメリアが来てくれなかったらと思うと、今でも鳥肌が立つ。


元々王太子に対しての嫌悪感はあったが、あのハルディンに対してはそれ以上だった。

シュロールを利用しようとすることを、隠しもしない。

意思を確認するつもりもなく、拒否すれば力づくで従えようとする。

なにより、肩に感じたハルディンの吐息を思い出すと、体が震えだす。


ブロンシュの悪意など、可愛いものだった。

世の中には避けられない悪意もあるのだと、あの時学んだ。

なにより、声が出せなかった自分に、対処ができなかった自分に腹が立った。


「顔色が悪いわ、どうか楽にして。」


カメリアがシュロールの隣へ移動してくると、手を取ってくれる。

暖かく柔らかい感触がした…どうしてこんなにも、親身になってくれるのだろう。

同じ位の年齢の友人がいないシュロールは、カメリアのスキンシップが恥ずかしくてたまらなかった。

頬を赤くして、おどおどと緊張を隠せないでいると、カメリアが「貴女、可愛いわ」と、笑いながら寄りかかってくる。


「貴女とお話がしたい…と、いうのは本当なの。」


手を取ったまま、カメリアが視線を向けて微笑んでくる。


「私もあなたと同じで…大勢の人の前で、婚約を破棄されそうになったことがあるのよ。」


「(この方が?こんなに綺麗で、優しい方なのに?)」


シュロールは驚きのあまり、カメリアを凝視してしまった。

カメリアは申し訳なさそうに話を続ける。


「断罪…と言うのだそうよ。」

「私の場合は、心無い者に婚約破棄を促されただけで、実際には破棄せずにすんだのだけど。」


カメリアはシュロールの怒っている顔を見て、慌てて訂正をした。


「あの時の私は…無力で、強がる姿を見せる事しかできなかった。」

「きっと、あなたの気持ちが一番わかるのは、私なのではないかと思って…。」


はにかんで、なお少し悲しそうにカメリアは、シュロールをのぞき込んで言った。

そこにはシュロールを通して、過去の自分を見ているカメリアがいた。

この方も…同じなのだ。

努力して、相応しくあろうとして、なお求められなかった苦しさがそこにはあった。


婚約を破棄されるということは、貴族にとって、それも令嬢にとって、最上級に不名誉なことであった。

しかも、王族よりもたらされた破棄。

体裁を重んじる社交界において、それは死を意味する事に等しい。

破棄をする側にどんな思惑があろうとも、される側にとって縋ってでも回避したいに違いない。


「でも、あなたはそれを迷わずに受け入れた。」

「もう何か、覚悟ができているのね。」


そういうとカメリアはシュロールの手をそっと降ろし、自分の指からなにかを取り外していた。


「これから先、貴女の為になにか、できることがあるかもわからないけど…。」

「グランフルール次期王太子妃として、友として、何かがあれば頼ってほしい。」

「まずは、リアと呼んでくれるかしら?」


そう言いながら、私の手のひらに何かのせてそのまま握りしめた。

シュロールはそっと、カメリアの顔をみる。

花が綻ぶように微笑みながら、目の端に涙を浮かべている。




今日…王宮についてからずっと、気を張り続けてきた。


失敗してはいけない。

後れを取ってはいけない。

自分を叱咤し続けた。

思わぬ恐怖もあった。

自分の考えの至らなさにも、悔しさが溢れかえる想いだった。


でも今、同じ境遇に立ったことのある人から友になってほしいと。

頼っていい、味方でいてくれると…。


気が付けば、私は涙を流していた。


「…っわ、たしの事は、シュロ、と…。」


「シュロ…シュロ、可愛い名前ね。」

「私、シュロのことが好きよ。きっと仲良くなれる。」


私を抱きしめながら、カメリアは囁いた。

幼い子供を、あやすように。

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