表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖属性魔力がありあまる  作者: 羽蓉
100/103

97

ティヨール王国に一応の平穏が戻り、残った問題は国同士の物になった。

この度、挙兵した四大国がティヨールに集まり、話し合いの席に着く。


今だ王陛下の意識は戻らず、王太子と王妃は塔に幽閉。

国の代表として、プラタナス元公爵が立つことになった。

プラタナス元公爵は自分の同行者として、エンジュに助けを求めてきた。


エンジュとしてはそのような話し合いの場は、御免被りたいところだが…ひっかかるのは聖女の事、シュロールの処遇だった。

今回国を救った者が、シュロールだとは表向きに知られてはいない。

だが必ず、議題にあがるだろう。


「言葉通り、役に立ってもらおう。」


エンジュはシュロールの部屋で、ベッドの側で手を握り魔力の回復の補助をしているアシュリーに声をかける。

その姿は、アシュリーを見下ろし、有無を言わせない強い視線を送ってくる。


なんのことかわかっていないアシュリーは、驚きながらも迷いなく頷く。

もうこの人達を疑うことは絶対にしない、アシュリーにとってこれだけはと、心に強く誓っていた。


こうしてティヨールからは、プラタナス元公爵、フェイジョア辺境女伯、ダンドリオン司教の三人で挑むこととなった。




   ◇◆◇




「悪いが…少し邸を離れねばならなくなった。これも一緒に連れていく。代わりに護衛になりそうな者を呼んでおこう。シュロールを任せたぞ。」


シュロールが眠っている部屋で、荷物を持ち込み身支度をしながら、エンジュはハルディンに話し掛けた。

エンジュとハルディンは時間が許す限り、シュロールが眠っている部屋で過ごす。

今回はアシュリーも一緒に出掛けるという、邸に残る者はシュロールとハルディン、あと少しの使用人のみだった。


「もう少ししたら、王宮からガルデニアが戻るだろう。信頼できる聖職者も頼んである。あとは…そうだなフェイジョアから、ミヨンとヴィンセントを呼び寄せるよう手配しよう。」


ハルディンは眠っているシュロールの為に、これだけの人物を動かすエンジュに笑みをこぼす。

やはりシュロールを側に置くのに、一番の強敵はこの辺境女伯に違いない。


「…ああ。任せてくれ、エンジュ。」


手袋をはめていたエンジュの動きが止まり、眉を上げる。


ハルディンから、名前を呼ばれるのは初めてだったが…これは、どういう意味だ?

言葉を放った本人を見ると、照れているのかこちらを見ずに、明後日の方向へと視線を向けていた。


「百年早いわ、小僧!」


そう言うと近くにあった焼き菓子を、ハルディン目がけて投げつける。

風を切る音があきらかに、菓子を投げる音ではない。

当たった瞬間に焼き菓子は砕け散り、当たった部分を強く抑えながら、大げさに痛がり、声も出せずにうずくまっている。


ふんっと鼻を鳴らしながら、上着を手に取ると踵を返して部屋を出ていく。

その後を追うように、アシュリーが慌ててついていく。


「お待ちください!本当にその様な装いで、参加されるのですか?辺境女伯であれば、華美な装飾でなくとも、ドレスを着用するべきでは?エンジュ様、エンジュ様っ!」


声がだんだんと遠ざかっていった。

あの聖職者も、まだエンジュを理解しきってはいない。

常識の範囲であの女を捉えていては、体を壊すだろう。


ハルディンは菓子を当てられたこめかみを抑えながら、声を上げて笑っていた。




   ◇◆◇




ティヨールの王宮内の一室にて、大きなテーブルに四人が席につく。


エートゥルフォイユ王国、エラーブル=エートゥルフォイユ国王と宰相。

コニフェルード王国軍軍事総司令官、リュカート=アルブール司令とその副官。

グランフルール王国王太子、ユードラン=グランフルール殿下とクラーテルヌ宰相。


どの国の代表も威厳にあふれ、このテーブルの側にいることに緊張を覚える。


「今から和平を結ぶ話し合いをするというのに、剣を持ち込むとは…知識を持たぬ人間は、これだから困る。それともティヨールは、この話し合いを重要視してないと考えていいのかな?」


エートゥルフォイユ国王、エラーブル国王がエンジュに向かい、侮辱を込めて声を上げた。


エラーブル国王はティヨール王妃の実の父親で、年齢は60近くになるだろう。

この歳になっても王位を譲る気はなく、エートゥルフォイユを自分の思うよう動かしていた。

王位を脅かすものは早々に排除し、自分に従う者だけを側に置く。


「…肝が小さい男よ。安心しろ、この剣は封印してある。これは私の杖の代わりでね、でもまあその気になれば、こんな物を使わなくても十分握りつぶせる。」


エラーブル国王の大きな顔は、一気に赤くなった。


「なにをっ、偉そうに…私が誰かわかっての発言だな?」


「お待ちください!エートゥルフォイユ国王、お気持ちを静めて下さい。謝罪なら私がいたします。…ですがあの杖代わりの剣を排除したところで、彼女は『フェイジョアの雷鳴』、フェイジョア辺境女伯です。その意味、隣国の貴方様ならわかるでしょう?」


プラタナス元公爵はその場をできるだけ穏便に治めるよう、丁寧に説明をした。

エラーブル国王の顔色が一気に、青くなる。


「おっ、お前がフェイジョア辺境女伯だというのか?」


この場でティヨールの交渉をするのは、プラタナス元公爵だと聞いている。

だがそのプラタナス元公爵を後ろに立たせ、テーブルの椅子に足を組みゆったりと座っているのはエンジュだった。

興味がなさそうに顔を背けていたが、名前を呼ばれエラーブルへ視線を送る。

それだけでエラーブル国王は、下を向きぶつぶつと小声で文句を言っているようだった。


「これはこれは、お会いしたいと思っていました。私の赤い花が、貴女の所でお世話になったと伺っています。」


それまで澄ました表情で、感情をのぞかせることなく座っていたグランフルールの王太子ユードランが顔を綻ばせ、親しそうに声を掛けてきた。


「ああ、花姫の御婚約者…グランフルール王太子か。あの時に持ち帰った紅茶は、気に入っていただけたかな?」


「ええ、とても。そして嬉しそうに話す可愛い花を、愛でることができました。」


ああ…残念だなと、エンジュとプラタナス元公爵は思った。

普段は外交や政治において切れ者だとの噂されるユードランだったが、カメリアの事になると少しおかしな反応になるらしい。


「あのっ、私の事は覚えてらっしゃいますでしょうかっ!」


大きな声で会話を遮ってきたのは、コニフェルードの軍の副官だった。

エンジュに向かい、訴えかけるような表情を向ける。


「すまないが、顔を覚えるのは得意ではない。」


「いえ…いいんです、あの時も名乗ってはおりませんでしたから。しかし本当に、感謝をしております。そして男性と間違ってしまい、申し訳ありませんでした。」


本当に面識があるらしい、エンジュは眉を寄せ副官の顔を見つめる。

コニフェルード…?男性と間違える…?


「…っ、あの時の!」


エンジュは、舌打ちをした。

この男はブロンシュを担ぎ込み、最後まで部屋に入ると言っていたコニフェルードの従僕ではないか…軍の副官だったとは。

あの時エンジュは「聖女と同等の力を見せてやろう」と言った。

まさかこの場で、シュロールの存在を暴くつもりではないだろうか?


「あの御方を救っていただき、ありがとうございました。そして私も、恩義を返したく思っております。」


まっすぐにエンジュに向かって、男はそう宣言をする。

ブロンシュのこともシュロールの事も、言葉にはあがっていない…隠していることをわかっての発言だろう。


こうして全ての国代表の会話が終わると、皆がテーブルの中央へと向かい合う。

今後の国の行方を決める話し合いが、今始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ