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聖属性魔力がありあまる  作者: 羽蓉
1/103

01

季節は秋に差し掛かったばかりで少し暑さが残る日…まだ日が傾いたばかりの夕方に、ある公爵家へ数名の神官が訪れていた。


   ・

   ・

   ・


家令が取り次ぎエントランスを通された一団を、この邸宅の主、シネンシス公爵と幼い令嬢が迎え入れようと待ち構えていた。


このティヨール王国の習わしとして、国民が10歳になると必ず魔力を測定することが義務付けられている。

一般的に庶民は教会へ足を運びそこで測定をしてもらうが、貴族の場合は神官が邸宅へ向かい測定してもらうことになっている。


神官達は外套を外して礼を取り、一番若い者が前へ出て用向きを述べる。


「本日はシネンシス公爵家、シュロール=シネンシス様の魔力測定を行うべく、伺わせていただきました。」


深々と頭を下げ、邸宅の主の言葉を待つ。

若い神官の言葉に頷き、上等な服をまとった邸宅の主が胸を反らしながら言葉を発する。


「よく参られた。私はこの公爵家を賜っている、ジェローム=シネンシス。そしてこちらは…」


幼い令嬢の背に、そっと手を添える。

その令嬢はそれを合図とし、ゆっくりと一歩前に出た。


「足を運んでいただき、ありがとうございます。シネンシス公爵が娘、シュロールと申します。本日はよろしくお願いいたします。」


少し緊張した面持ちで微笑みを浮かべながら、令嬢はスカートの裾を持ち上げた。

きちんとした挨拶ができたことに、父である公爵は頷く。

大人のお客様に対して恥ずかしくない挨拶ができたことに、それまで激しく打っていた鼓動が落ち着いていく。


神官の一人が令嬢の挨拶に微笑みながら、目線を合わせてくれる。


「ご紹介ありがとうございます。この度の測定補佐をさせていただきますユージンともうします。そして…。」


視線を後方に控える神官に向けながら、手を添えて続ける。


「こちらが同じく補佐のフェルナン。」


フェルナンと呼ばれた男性が、胸に手を添え頭を下げる。


「そしてこちらが本日測定を行われる、アシュリー様です。」


他の神官より少し年上に見え優しく微笑む男性は、紹介されると同時に令嬢の前にそっと跪いた。


「アシュリーと申します。本日はお嬢様の測定を担当させていただきます。大変申し訳ないのですが時間があまりありませんので、さっそく測定にとりかからせていただきたいと思います。」


優雅な挨拶と優しい微笑み…少し見とれてしまったが、令嬢はソファへと促され、神官たちは測定の準備にとりかかっていた。


補佐の鞄から筆記用具や測定に必要な道具等をとりだし、各々が作業をする場所へと配置されていく。

準備ができると、先程「アシュリー様」と紹介された優しい微笑みを浮かべた神官がソファへと近寄り令嬢の目の前に跪いた。

ゆっくりと両方の手のひらを差し出しながら、令嬢に向かい合う。


「失礼いたします。」


そういうと神官は、令嬢の両手を手に取った。

神官と令嬢の間には、大きなランタンの様な装置が置かれている。

その中に、丸みを帯びた透明の小さな石がたくさん入っていてとても綺麗で目を奪われる。

そんな令嬢を微笑ましく眺めながら、神官は声をかけた。


「では、測定を行います。リラックスして目を閉じていてください。」


令嬢は頷き、姿勢を正してゆっくりと目を閉じた。

視界から入る情報がなくなると、色々な気配を感じ取ることができる。

令嬢は目の前にあるはずの装置と、正面にいる神官の気配に集中することにした。


ゆっくり…ゆっくりと、神官の呼吸を感じる。

見えていないはずなのに、そこに人がいるというのが熱量として感じとることができた。

不思議な感覚におちいったように思える。


そして目を閉じている令嬢にもわかるほどの、眩しく白い光が放たれた。

強い光はしばらく周囲を照らし続け、その光景に誰も声を発することができなかった。

やがて光は終息し、キラキラとした余韻を残しながら消えていった。


   ・

   ・

   ・


「…これは…これは、本当に…驚いたな……。」


最初に声を発したのは、補佐であるユージンだった。

片手で口を覆いながら、呟く。


何か…良くないことが起きたのか。

令嬢は不安に思いつつ、ユージンの次の言葉を待つ。


「あなたの考えに、間違いはないでしょう。」


アシュリー様と呼ばれる神官はゆっくり立ち上がり、ユージンに向かって魔力を測定するときに使用した装置を差し出す。

装置の中には先程の光が、透明の小石たちに閉じ込められ強く輝いていた。


「公爵様、少しお時間をいただけますでしょうか。…お話がございます。」


神官達と公爵が部屋を変えて話をするよう、広間をあとにした。

先程までのやり取りと違い、皆が緊張し真剣な表情だった。


まだ10歳である、シュロールを顧る者は一人もいない。

残された令嬢は一人不安を胸に抱え、知らされる結果を待つことしかできなかった。

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