街角に潜む悪魔達へー6
一段落付きます。
「あたしのこと、理解した?」
「おう、まあ、うん。なんだ、その、性格最悪女とか言って悪かったな」
「あはは、いいよ別に。事実だし」
まあなんというか、苦労してるんだなあ、と。というかそのニュースなら俺も見たぞ。お前だったんかい。名前は伏せられてたから分からんかった。
あのニュースのおかげで俺もだいぶ割りを食った。
「じゃあ、次は私。
私がパーソナリアへ来たのは復讐の為。
私の家族を皆殺しにした人間を殺す為」
……おっふ。お、重い……。
未樹ほど長い話にはならないわ。私は見ての通りマナリミスの人間。私の家は田舎で宿と農家を営む家だった。
話は簡単。とある日、宿には旅人が来た。綺麗な女の人だった。私はその人に作る料理の材料を、パパに頼まれて買いに行った。それで、帰ってきた頃にパパとママは殺されてた。
その村の警備機関がその事件を調査して、犯人はすぐに分かった。それと同時に捜査は打ち切られて、警官は犯人逮捕に動くことを止めた。
マナリミスでは、未だに法律より、強力な力を持った個人の方が強いわ。その人間は有名だった。強い人間だったのよ。正義感の強い若い警官が逮捕に突っ走って、あえなく殺された。マナリミスでは、強い人間の方が正しい。
私はそのことを伝えられて、復讐することにした。私にとってあの家は全てだったから。
私は力を求めて首都に出た。幸い私には才能があった。道場破りみたいなことを繰り返して、いつしか私は強者と呼ばれるようになっていたわ。
それからも、私は力を求めて戦い続けた。残念なことに、「二万人殺し」の一件が起こってから戦争は起こらなくなくなったけど、武名の高い人間に片っ端から勝負を挑んだりして私は確かに強くなっていた。
そして、あの女のことを知った。
あの女は有名だった。
「星砕きの祭前回優勝者、アタナリア・リビフィールド。通称流星。そいつが、私の殺すべき相手」
……おいおいマジかよ。
俺はかなり驚いている。復讐という理由は、まあ、こんな時代なら珍しいことでもないのかもしれないが、対象が対象だ。
「あー、その。……出来るのか?」
流星は簡単に言えば化け物だ。俺が三千人いて、傷一つ付けられるかどうか、というレベル。そいつを殺せるか、という問い。
「可能性は十分に存在する。未樹も協力してくれるから。それに私も強い。私達二人で戦えば、互角までは十分持って行ける。なら勝機は必ずある」
自惚れではない。自分と相手の実力差を見極められない程度の人間ではない。ノレイはその類いだ。……未樹も乗っかってるのか。
――羨ましいな。自分の目的の為に、命をかけてくれるヤツが居るってことは。
「あなたも、協力してくれるかしら」
「悪いがそりゃ無理だ。お前らの命より、俺の命の方が優先順位は高い。俺の目的が果たされた後なら付き合ってやっても良いが、今は無理だ」
「ぶー。連れないなぁ、なっとー」
当然の話だ。自分の命ってのは大切だ。
「そもそも、俺じゃ大して役にも立たん。第三世代の端くれとはいえ、お前らみたいに修行パートは通過してないんでな」
それに、と付け加えて、一番の理由を話す。
「———俺が命をかけていいと思うのは、俺に命をかけてくれるヤツに対してだけだからな。お前らはそうじゃない」
だろ? と確認すると、二人は自然に頷いた。
「まあそうだね。なっとーはあたしたちの居場所だけど、それ以上の価値はないね」
「そうね」
うわードライだ。自分で話題振っといて何だが、こいつら乾き切ってんな。人のことは言えないが。
他の人間にとってどうかは知らないが、俺にとって、こいつらにとって、これは自然な価値観だ。命の価値も、居場所という価値も、絶対にそれ以上の付加価値を付けない。
そういう風に人間関係を更に広げていけるように育っていない。俺にとって、こいつらは運良く俺にデレてくれているだけの美少女どもで、俺にとって大切な、などの形容詞は絶対につかない。
こいつらが明日他のイケメンにすり寄ろうが、ここから突然出て行こうが、俺はたぶん、大した関心を持たない。
俺は———おそらく俺達は、どれだけお互いの表面上が親しくなろうと、本質的に無関心だ。
ノレイと未樹の関係がどうかは知らんが———。
「じゃあ次は、なっとーの番だよ」
おっと俺もやんのかこれ。
え、マジで? 独白でなんかかっこつけたこと言った直後だよ? まあでも仕方ない。別に隠す理由もない。
「俺が———俺がパーソナリアに来た理由は、お前ら二人に比べれば大した理由じゃ無いな」
俺は———。
新天地を求めた。
平凡な第三世代として生まれた俺は、ごくごく普通に虐待されて育った。お袋が俺を出産するときに死んじまってな。親父はそのせいで俺をいたく恨んだらしい。
お袋が死んだのは、俺が「新世代の子供達」だったせいだ、と本気で考えてたみたいなんだわ。ホントのところがどうか、ってのは別に問題じゃないが。
俺にとって不幸だったのは、施設に行けなかったこと。
俺の親父は俺を捨てたりしなかったが、その分俺に当たった。いくら「新世代の子供達」でも、三歳児の頃とかはそりゃもう痛かった。それだけは覚えてるな。
第三世代でな、簡単には死なない。分かるだろ、赤子でも、車にひかれるくらいじゃ死なないんだよ。頑丈だし、強えし、傷口とか簡単に治るしな。
でもまあ、心の方はそうじゃない。中学ぐらいになって、パンピーに殴られた程度じゃびくともしないようになっても、心の方は竦んじまってな。親父が手を振り上げると動けなかった。殴られたって、痛くも痒くもないってのに。
経緯なんて忘れたが、俺は家事全般を担当していた。家には俺と親父以外居なかったし、親父は家事なんてしなかったからかね。なんでか知らねえけど、いつの間にかそんな習慣がついてた。
その度に、なんで俺は、あんな親父の世話をしなくちゃならねえんだ、って考えてたな。
そのうち俺は夜遊びに走った。そのときようやく俺は他の「新世代の子供達」と出会って、そいつらとの喧嘩で能力を使うようになった。
そいつらはいろんなことを知ってたな。暴力の振るい方とか、遊び方とか、いろいろ。
パーソナリアの存在も、そいつらから教わった。テレビは見ない子供だったから、知らなかったんだよ。
んで、中学卒業を機会にして俺はパーソナリアへ来た。クソ最悪な環境を変えて、楽しい人生の為の新天地を求めて、ってな。そんだけだ。
「普通だねー」
「普通ね」
「そうだな、パーソナリアに来る奴らは大抵こんな理由だし」
それでもまさか家を襲撃されるとは、夢にも思わなかったが……。まあ、それなりに楽しい生活だ。
「今でも親父さんに手を挙げられると、竦むのかしら」
「まあ、たぶん。親父限定だから問題はねえけど」
「ふーん。普通に大変な人生だねー。頑張って幸せになってね」
「まあそこそこに頑張るわ———んで、これで話は終わりか」
「そうだね。じゃあなっとー、これからもあたしたちの居場所で居てね?」
未樹が笑った。俺とノレイも笑った、と思う。やはり俺の見立てに狂いはなく、笑うととんでもなく可愛い。
「ま、ほどほどにな」
俺は居場所という存在として求められ、俺はそれに応える。たったそれだけの関係だが、それで存外に悪くない。
*
「そういやお前らの食費でこの家の家計がヤバい。お前らちょっと金入れてくんね?」
「やだ、あたしは働かないよ」
「右に同じ」
「……つーか、お前ら日中なにやってんのよ。家でごろごろしてるとかだったら追い出す」
「やだなーもう。なっとーも知ってるでしょ、有名なんだから———世間を賑わす謎の剣士! 強者のみを狙い、その全てを確実に葬ってきた謎の実力者! 通称影討ちの正体とは!」
「———私達よ」
「えぇぇぇぇぇ………………」
感想、評価待ってます。
どんな感想でもいいので是非ともよろしくお願いします。