エピローグ:人生は続く
エピローグでござい。
今回の一件の落としどころは、まあなかなか酷いことになった。主な罪状は無差別な魔術行使により不特定多数に危害を加えようとしたこと。まあこれはアタナリアに関係するのでパス。
次にパーソナリア最大の闘技場を半壊させたこと。立て直すためにはもう全部ぶっ壊す必要もあるらしく、実質全壊させた時と同じくらい修繕費がかかるらしいこと。
最後に、星砕きの祭をぶっ壊したこと。これに関してはマジで酷いことになった。主に関係する各企業からとんでもない額の被害請求が届いた……日々屋に。企業側の責任は主に日々屋が負っていたらしく、日々屋は頭を抱えていた。だがあいつならなんとかなるだろう。あいつの親は億万長者番付に名を連ねるほどの金持ちだし。あいつ自身、いろいろなとこにパイプ持ってるみたいだし。そもそも日々屋が企業側からめちゃくちゃ嫌われていたようだ。あいつの能力で企業の後ろ暗い秘密を暴かれ、それをネタにいろいろやっていたかららしい。ざまあ。
パーソナリアに警察は存在しない。だが治安組織……ギャングかヤクザの様な組織は存在し、彼らは日々鎬を削っている。そしてそんな彼らのシマでいろいろやらかしたノレイや未樹は、タダでは済まない。当然だな。
武力で比較すれば、恐らくノレイと未樹の方が力を持つ。だがこれはそういう話じゃない。自分のやったことにけじめを付けるためにも、あいつらには罰が与えられ、あいつらもそれを受け入れた。
土木工事。壊れたコロッセオの再建設にあいつらは駆り出されることになった。それに加え――むしろこっちが本命だが――パーソナリアでの、治安維持。たまにいる町中で暴れ出すような輩を無力化すること。
一応給料は出ているらしい。というかヤクザの親玉が結構人情あふれた人で、未成年であるノレイと未樹に対してかなり寛容だった点が大きい。
そういう、マジで責任とらなきゃいけない点については、アタナリアが引き受けた。彼女が全ての責任を取るということで決着が付いたのだ。
「これがノレイのためになるなら――」
そう彼女は言っていた。
俺――については、特にない。だって俺、基本的に被害者だし。……多分、被害者だし。……多分。
宵鳴はそのまま学園に通うことにした。学費やらは研究棟の連中と俺が交渉して何とかして貰った。交換条件で、たまに宵鳴が研究に協力することになった。身の危険はないそうだ。
世間の反応――を挙げていけばキリがない。
世間的には、アタナリア・リビフィールド一人の仕業と言うことで決着が付いている。テレビカメラや、撮影用の魔術は軒並みぶっ壊れたので真相を知ることは出来なくなった。真実を知る者は当時者であった俺達や、ヤクザのおやっさんくらいしかいない。
アタナリアはスケープゴートになってくれた。今回の一件での泥は全て自分が被る、ということで、ノレイも納得した。それで今までのことに決着を付けるとも。
だから批判等々は元世界最強のみに向けられ、俺達の影はない。いや、マジでよかった。アタナリアには感謝が尽きない。一人に責任を取らせることに思うことはないでもなかったが……。「それ」をノレイの復讐にする、ということでカタはついたのだ。
そして――今。
「晩飯だ、机片付けろ」
俺はリビングのテーブルで勉強をしていた宵鳴に声を掛けた。宵鳴は教科書類を畳むと、それを適当な場所に避難させた。風呂上がりで駄弁っていたノレイと未樹も、運ばれてきた夕食を見て嬉しそうに口元を綻ばせた。
――最近は、よく笑うようになった。
さながら花のように可憐で、本心からの笑みをよく見せるようになった。もともと顔立ちは非常にいい二人組だ。ちゃんと笑うようになればさぞかし魅力的だ。と言うわけで俺もそろそろ手を出したいが、それを宵鳴に気づかれて殺気をぶつけられる。えっちなのはダメらしい。
――いただきます、と声を揃えた。
「もぐ、んぐ……。んふ~、労働の後のご飯はなお美味しいねえー。チューハイない?」
「あるわけねえだろ、酒は高いんだ。自分で買えよ。つか飲むんじゃねえよ……」
「お酒は、よくない……です」
「リリアル。あなたも働くようになると分かるわ。全く、これだから労働というのは嫌なのよ……」
「いいじゃねえか。やっとお前ら穀潰しも社会の役に立てるんだ。それに、そんなに悪くねえだろ。充実感的な」
「まあね。確かに充実してるよ。職場の人も面白い人が多くて、結構楽しいんだー」
「……興味が、あります」
「宵鳴、お前も学校卒業したら出来るから。でも絶対そんないいもんじゃねえよ。学生のうちだぜ、遊べるのは」
「遊んでいるのはツルギだけでしょう。リリアルは毎日ちゃんと勉強しているわ」
「ほんとにねー。偉いね莉々亜ちゃん。よくそんな毎日出来るよね。あたしまともに勉強したことないなー」
「勉強、楽しい、です……」
「あーマジあり得ねえ。勉強楽しいとか人間じゃねえな――」
賑やかな食卓だ。
家族というのは、こういうものなのだろうか、と。
ほんの少し、そう思った。
「そういや、ウチの家計簿もなんとか持ち直してきたぜ。やっぱちゃんと働く人間がいるとちげえな」
「もうあたし達がなっとーと莉々亜ちゃんを養ってるようなもんじゃない? これはこの家の中の立場に関わる問題だよ」
「調子に乗るんじゃねえ。この新調したテーブル代とか、お前らがぶっ壊したドア代とか、まだまだ借金は残ってんだからな。それに俺は自分の分は自分でなんとかしてるから」
「テーブル代は別にいいじゃん。どうせボロい安物だったんだからさ。こっちのテーブルの方がしっかりしてて高級感あるし」
ようやく、平和な毎日が訪れたのだ。
最近分かったことだが、食卓に自分以外の姿があるのは、存外に悪くないのだ。
そうやってらしくもない感傷に浸っていると――。
「ねえなっとー」
「あん?」
「ありがと、ね」
未樹に礼を言われた。
「私も、ありがとう」
「……奈桐さん、ありがとう、ございます」
「……どうした突然」
「いや、なんとなく思っただけ。ね?」
それに同調した二人。礼を言われるのは慣れていない。むず痒くなる。
誤魔化すように俺は飯をかき込んだ。我ながら良い出来だ。
全ての問題が上手くいった訳じゃない。まだいろいろなことが残っている。
でも、俺達は生きていく。
ここはまだ中継地点だ。人生は続く。
俺はそう思って、明日の献立を考えた。
おしまい! こんな妙な作品を読んでいただきマジありがとうございました。




