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色の無い少女ー3


「やあ奈桐。体の調子はどうかな」

「よお八法院。昨日は助かったぜ、ありがとな」

「いいって。影討ちにリベンジ出来たんだしさ」


 結局、俺は日々屋の隠れ家的な場所でニートをしていた。

 日々屋が都内にいくつか持つ隠れ家の一つらしい。日々屋はボンボンのお坊ちゃんなので、金だけはあるのだ。それ以外はない。


「でも驚いたな。本当に日々屋の言うとおりだったなんて。事情とか聞かない方がいい?」

「ああ。別に説明してもいいんだが、長くなるし面倒だ。ま、諸々の面倒ごとが片付いたら改めて礼をする。割とマジで命の恩人だからな、お前」

「ほんと、驚くよ。パーソナリアで死人が出かけるっていうのもそうだけど、奈桐がそこまで追い詰められていたなんてね」


 下手に外に出てノレイやら未樹やらと遭遇した場合が怖いので、俺は引きこもりをすることにした。宵鳴のことは心配だが、死にはしないだろう。

 そんなところに八法院がお見舞いに来た。そんな訳で駄弁っている。


「はん。所詮俺はストック数二の雑魚だよ。俺は弱えんだ」

「まあ、戦闘能力はまだしもさ、そもそもそんな状況にならないように動くのが奈桐だと思ってたからさ」

「そりゃあそうだろ。だって戦いになったら基本勝てねえじゃん、俺。戦わないようにするのが普通だろ」


 八法院は普段通りの糸目でこっちを眺めた。意味ありげな目だ。


「じゃあ聞くけど、なんであんなことになってたんだい」

「そりゃあ――」


 反射的に答えようとして詰まった。

 そりゃ――なんでだ? 考えれば当然のことだ。人を怒らせりゃ報いは来る。あの二人の場合、報いが大きすぎたってだけの話だ。

 だけど――。


「なんでだろうな――」

「なんでだろうな……って。それどうなの。僕達が居なかったら死んでたような状況だったんでしょ?」

「耳が痛いな。だが分かんねえんだよ。宵鳴がいたから勝てるって思ってたからか? だけど向こうにも策くらいあるって、なんで想定できなかった?」

「……なんか、感情的だね、珍しく。いつもの奈桐はこう、もっと打算的なのに」

「……感情的だと? 俺が、か」

「うん。そもそも奈桐ってそんなに行動的、っていうか、いろいろイベント起こすタイプだったの? 事なかれ主義じゃんか」


 発端は家を乗っ取られそうになったことだった。

 能動的じゃなかった。俺は今でも変わらず面倒ごとは避けるタイプだ――と、口に出すはずだった。だが、思い返せば俺はあいつらをわざとキレさせた。それでわざわざ宵鳴と接触までした。


「なんでだろうな……。なんか最近の俺はどうかしているかもしれん」

「……でも、悪い事じゃないと思うよ。まあ、今回みたいに命の危険があるのは別だと思うけどさ、人生なんだし、いろいろあった方が楽しいよ」

「今回俺はさっぱり楽しくねえがな……」

「僕は結構楽しい。なんかすごいレアな状況だし。修羅場っていうのかな。……やっぱり気になるなあ。ねえ、奈桐が二股掛けて刺されそうになってるって感じなの」

「アホ、ちげえよ。全然違う。恋愛沙汰じゃねえっての。流石の俺でもそこまでクズじゃねえ、マジで」

「ほんとかなぁ……?」

「マジで、マジで。俺そんな風に見えるか?」

「うーん……。奈桐って、こう、一時のテンションに身を任せてそのまま自滅しそうな感じあるからさ。その場の勢いでいろいろやっちゃいそうな感じあるよ」

「マジで……?」


 自己認識と他人の視点の違いに驚いた。そんなものなのかもしれない。

 八法院はお見舞い品の果物を取り出した。


「ほら、フルーツ詰め合わせ。まあ、地球産じゃないのもいろいろ混ざってるけど、結構美味しいと思うよ。傷はもう大丈夫なんでしょ?」

「まあな。正直自分の再生能力に驚いてる」

「そりゃあ僕達は人間じゃないからねぇ」


 八法院は自分で持ってきたお見舞い品に手を付けた。そのまま林檎を丸かじりし始める。皮を剥くのが面倒くさいらしい。俺も皮を剥くのが面倒なので、適当な果実に適当にかじり付く。果汁が滴るが別に気にしない。


「人間じゃない、ねえ……。俺はお前らほど人間を止めてないつもりだぜ。単に身体能力と再生能力とか一時的にめっちゃ速く動けるとか、精々がその程度だ」

「アウトだね。十分人間じゃないよ。そもそも普通の人が僕達みたいな動きしたら筋肉千切れるんじゃないかな。ところで、奈桐はこれからどうするつもりなの? 僕、なんかやることある?」

「はー……。これから、ねえ」


 大会に出て、ノレイと未樹相手になんとか生き残って、一億を手に入れて……それからどうする、か。

 正直、一億円に釣られてしまった感はある。だが日本円の価値は高い。パーソナリアで換金すればかなり良い金額になるだろう。

 だが、それからどうする。……あ。


「ヤバい。ヤバいことに気づいた。俺の命がヤバい。ヤベえぞ」

「どしたの急に」

「やっべえ、だってあいつらガチ切れ中じゃん。俺ぶっ殺そうとするぐらい切れてんじゃん。だって大会で戦うことになるやん? そしたら全力で殺しにくるじゃん。そしたらあいつらもう試合のルールガン無視で殺しにくるやん。俺勝てねえじゃん。……俺、死ぬんじゃ」

「……事情がよく分かんないけど、大変だね」

「おう八法院、お前の友達の命がマジでヤバいぞ、今回はガチだ。どうしよう」

「いや普通に謝ろうよ。その、人を怒らせちゃってるんでしょ? ちゃんと謝ったの? そもそもどっちが悪いの?」

「マジでまともな意見は止めろ……。一番常識的なことを言うんじゃねえよ……」


 八法院はため息を吐いた。

 ぐうの音も出ない正論だ。俺も沈んだ。

 そりゃそうだ。謝るのが人間関係として通常だろう。


「だけどなあ、俺は自分が間違ったことをしたとは思っちゃいねえんだよ。あいつらは歪んでる。俺だって人のことを言えた立場じゃねえが、あいつらはどっかで人生間違えちまったんだ。俺はそいつを指摘しただけ……のはずだ」

「ふうん。大切な人なの?」

「――、大切。大切、と来たか。大切な、人――ねえ。さあな。少なくとも、俺の親父よりは大切だな。それだけは間違いないだろうな」


 クズのような親父よりは、大切だ。


「うーん。比較対象が奈桐のお父さんかぁ……。質問を変えるけど、奈桐はどうなって欲しいの?」

「今回の事態の落としどころか。そうだな……。そうだなぁ――。……ち、ダメだな。どういう訳か、さっぱり頭が働かない。とりま命の危険さえ無くなればなんでもいい」

「大雑把だねえ。あとでしっぺ返しを食らうかもよ?」

「別にいい。俺が死ぬような自体にならなきゃ、どうなろうと構わねえよ。命さえありゃ、どうとでも出来ると思ってる」

「前向きだね。良い感じに計画性無いのが奈桐らしいよ。詰めが甘そうなところとか」

「うるせえ。良いんだよ、どうせ俺はそういう頭使うのは嫌いだ。そうやって計画練ってみて、その通りに行ったことなんざ一度もねえよ。絶対に予想外の出来事は起こるからな。なら考えるだけ無駄だ」


 それに、微かでも思ってしまった。

 別に、あいつらになら殺されてやっても構わない、とでも。

 ……そんな訳はない。俺は死にたくない。馬鹿か俺は。


「……まあいいさ。あまねく計画ってのは崩壊する運命にある。あいつらが何を考えていようが、どうせその通りには行かねえよ。そういうもんだろ」

「あるいは、奈桐のその考えも、その通りには行かないかもね」

「うるせえよ」



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