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色の無い少女ー2

 世界間転生者とは、ほとんどわたしの代名詞だ。


 けれど、その存在を知っている人間こそ多いが、「わたし」を知っている人間は少ない。非常に少ない。「二万人殺し」を行った人間が、便宜上そう呼ばれているだけだ。


 転生者という存在が明らかになったのは、少し昔に遡らなければならない。

 最初の転生者が明らかになった理由――は、自己申告だと聞いている。


 人にしては過剰な、人一人が持つには強大な――どころか、人が持つにはあまりに強すぎる力を持った、その人間。


 確かに転生をした、と最初の転生者は言った。


 わたしも同様だ。


 わたしはあの世界から逃げてきた。

 わたしは逃げてきた。現実と戦うことを諦めてしまった。だから自殺をした。もう生きている意味が無くなったから。死にたい、と思ったから。


 わたしの罪――は、ほんの一欠片でも、願ってしまったことだ。


『次の人生は、もっと強くなりたい』


 傲慢にも、そう願ったことが、わたし達転生者の罪だ。それは、同時に罰だ。

 だから、転生者は力だけを得る。心の弱さと反比例するような、桁外れの力を授かる。


 おそらく。転生者の中でわたしが一番強い。


 なぜなら、わたしに勝った転生者は存在しないから。


 だって、みんなわたしが殺したのだから。




 転生者は危険な存在だ。歩く核爆弾と評しても、なんら誤解もない。


 いつ爆発するか分からない。なぜなら心が弱いから。辛いことや、悲しいことに直面したとき、彼らは簡単に暴走する。


 現実を受け止められないのだから。

 だから、わたしが先んじて殺した。


 幸い、それまで転生者による事故は起こっていなかった。だから、これから先の危険性を潰すために殺した。一瞬で死んだ。


 わたしがそれをした理由は、精霊に頼まれたからだ。


 この世界を守るため、転生者を殺して欲しい。そう頼まれて、わたしは虚ろなまま承諾した。そして、わたしも転生者だ。


 だから、最後には自殺をしなくてはならない。でも、それは今じゃない。

 もしも、転生者が発生しなくなったら、死のうと思っている。


 わたしを殺せるのが、わたしを置いて他に存在しないのだから、それしかない。

 未だ、転生者は稀に発生する。精霊が教えてくれるのだ。


 そしてわたしは、いつかわたしがわたしを殺す日を願っていた。


 ……けど。


『いいから俺と来い。お前がお前を許せる日が来るまで、付き合ってやるからよ』


 その言葉に、焦がれてしまった。


   *


 私が呆然として街を歩く転生者を見ていたのは、必然だった。


 監視していたからだ。


 制服を着た男がツルギを持ち去ってからの転生者の様子は、酷いものだった。まず、目に光が無くなった。そもそも顔色も酷かった。


 だが気にかける理由はない。戦ったところで勝てる訳もないし、ツルギがいないのなら居ても居なくても問題はない存在。幸い、積極的に敵対行動をとることもしなかった。本人にしてみれば、それどころでは無かったのだろうが。


 だから、最低限の警戒だけをして、私達は撤収した。

 転生者――宵鳴、と呼んでいたか、あの男は。


 本人に自覚は無いだろうが、虚ろな足取りで宵鳴はツルギの家に向かっていった。


「奈桐さん……どこですか……」


 と、やはり一切の感情が抜け落ちた様な顔で、次の日は街中を歩き回っていた。知覚能力を全開にして探していたのだろうが、成果は無かった。正直、私達も手詰まりだった。ツルギの行方は分からない。転生者の捜索能力を当てにしていた面すらある。


 ごめんなさい、とブツブツ呟きながら幽霊の様に街を歩き続ける宵鳴という少女は、控えめに表現して恐怖である。


 私も恐怖を抑えながら監視していたが、収穫は無かった。

 流星による私達への修行――は、少し遅らせている。そんなもの、ツルギを殺した後でいくらでも受けてやる。


 心底許せないのだ。


 あの男は、一体何がしたいのか? 目的があって私達にあんなことを言ったのか? 

 侮辱……という程度ではない。否定だ。私の今までの人生の否定だ。


 絶対に許さない。


 撤回するならいい。半殺しで済ませてもいい。だが、あの様子では望み薄だ。

 ならば否定しなければ。その否定を更に否定しなければならない。あいにくと私は平和主義者ではない。殺すか殺されるか――という状況は、慣れている。


 人の命を奪うことに、抵抗はない。罪悪感もない。強い方が正しい。少なくともマナリミスではそうだった。


「……どこ、ですか。奈桐さん、どこ……」


 昼の都市の白さが苛立たしい。雑踏の人間を皆殺しにしてやろうか、と理由も無いのに考えた。無意識に舌打ちをしている。相変わらず、転生者はふらふらと危うげな歩みを続けている。それでも人にぶつからないのは、転生者故か。


「ごめんなさい……わたしが、わたし――」

「ああもうッ、いつまでそうやっているつもりッ!」


 じれったくなってつい声をかけてしまった。振り返る転生者、宵鳴の顔は、死人のようだ。微かな驚きが混じっている――のか? 判別が付かない。


「あなた……は」

「ノレイ・ソートクランよ。さっきから何をやっているの? 見ていられない」

「……あなた、こそ。さっきから、わたしをつけ回して、何のつもり……ですか」

「気づいてたの? まあいいわ。転生者なら、何か無いの? そういう強力な力とか」

「……何の話、ですか」

「探しているんでしょう、ツルギを。私も同じよ」


 答えながら、私は一体何をやっているのだろう、と思った。


「……あなたは、昨日、奈桐さんを……襲ってきた、人。探すのは、奈桐さんを、殺すため……ですか」

「だったら、何だというの?」

「……なんで、奈桐さんを殺そうと、するのです……か?」

「……あの男に味方するのは止めなさい。ロクな人間ではないわ。あなたほどの力を持つ人間とは、到底釣り合わない」

「断ります……。なぜ、そのようなことを、わたしに……」

「逆に聞くわ。なぜあの男に付くの」

「……奈桐さん、わたしを、救おうと、してくれてます。だから」


 救う。その言葉に連想して思い出してしまった。


『俺が――お前らの――』

「居場所に――」


 呟いた声は、転生者にも届いていた。


「……居場所。それが、あなたの欲しいもの、で……。奈桐さんを、許せない、理由……です……か」

「――ッ、突然何を言い出すの」

「だって、あなたが、悲しい顔をしてます。……気づいて、いないの、ですか」


 思わず、自分の顔に手を当てる。だがそんな行動で自分の顔が分かるはずがない。悲しい顔? 私が、そんな顔をしていた……?


「……奈桐さんを殺そうとするのは、止めてください。それが、きっとあなたのためにもなる、と……。思います」

「……ツルギを探すのに、協力しなさい。殺すも生かすも、あの男を見つけないと、皮算用になってしまうわ」

「……わかり、ました。わたし、宵鳴莉々亜です」

「私はマナリミスの人間よ。名乗るのなら、マナリミスの名前が礼儀ではないかしら」


 宵鳴莉々亜という少女は、一見して日本人ではない。いや、私自身地球へ行ったことも無く、ましてや日本など見たこともない。だが、未樹やツルギの持つ日本人としての特徴を、目の前の少女は持っていない。

 同郷としての感覚だ。


「……リリアル、です。リリアル・ナイアランスト……です」

「ふうん。なんだか、どっちの名前も似ているわね。リリアル」

「そっちの名前は、嫌いなんです……。日本の名前で、呼んでくれませんか?」

「嫌よ。それはあなたの前世の名前でしょう。私は今の名前で呼ぶべきだと思う」


 私がそういうと、リリアルは少しむくれた様な顔をした……様に見える。表情の変化が乏しいのでよく分からないが。


「ふふ……。私のことはノレイでいいわ。不思議と、あなたとは上手くやっていけそうな感じがする」

「……はい。よろしく、お願いします、ノレイ……さん」


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