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色の無い少女ー1

起承転結で言う転から結。

……たぶん。

 煙草臭い匂いで目を覚ます。


「……あぁ? ……何処だここ」


 お約束っぽく呟いてみる。すると反応する人物が一人。


「起きたかよ」

「日々屋……。ヤニ臭えな、それ消せ」


 日々屋が煙草をふかしていた。俺はベッドから身を起こした。まだ微妙に節々が痛い。

 服は――そのままだ。破れていたり、血が付いていたり。というより血だらけである。主に俺の血だ。


「おい。他になんか服はねえのか? なんでこんな格好なんだよ」

「はん。そこら辺漁れ。なんかあるだろ」


 舌打ちして俺は部屋を確認した。一般的なマンションだかアパートだかの一室に見える。ベッド、窓、クローゼット、テレビ、テーブル、椅子……。普通だ。日々屋はデスク前の椅子に座ってスマホをいじっている。


 俺はクローゼットにあったGパンとシャツに着替えた。誰のものかは知らないが、別に問題は無いだろう。


「んで?」


 俺は着替えると、日々屋に声をかけた。


「んで……ってなんだよ、日本語話せ。脳味噌納豆菌」

「うるせえぼっち野郎が。友達いないヤツは話が通じづらくて困るな」

「ああ?」


 日々屋との会話はとにかく煽り合いだ。日々屋はまともに人と話すことが出来ないのでこうなる。必ず相手を煽らなければ会話が出来ないのだ。


 能力と性格が相まって友達はゼロ人。間違っても俺は友達ではない。会話が成り立つか成り立たないかの瀬戸際だ。クラスメイトは日々屋と話すことすら嫌がる。人のいい八法院でさえそうだから救いようがない。


「真面目に聞くが、どうしてあの場所が分かった? なんで俺を助けた」

「ち……。せっかく助けてやったってのに、礼の一つも言わない様なヤツに、話すことはねえよなぁ?」

「どうせ俺を利用するためだろ? だから礼は必要ない」

「よくご存じ。さっすがぁ」


 日々屋は得意げに話し始めた。


「俺はパーソナリアの監視システムへのアクセス権を持っているのさ。納豆菌から読み取った記憶で、こうなるってことは予想が付いてた。だから、都市で大規模な戦闘が起こった場合、すぐに俺に伝わるようになってたってことだ」


 日々屋はゴミだが、そういうヤツに限って強い権力を持っている。日々屋が都市の上部に食い込んでいても驚きはしない。そもそも、日々屋の素性は謎だ。更に言えば興味もない。これっぽっちもない。


「はーん。わざわざ俺に恩を売ってまで、何がしたい?」

「決まってんだろ? 金儲けさぁ」

「金儲け、だと? 何を考えてる」


 日々屋はニコチン臭い息を吐き出すとにやりと笑った。歪み方が三下のそれだ。


「納豆。星砕きの祭に出場しろ」

「ああ? 訳が分からん。一体どういう意味だそりゃ」

「裏から手を回して、お前を本戦に出場させてやるよ」

「……とち狂ったか。そんなことして何になる」


 俺を本戦に出す? そもそも俺は予選にすら参加していないのに? 


「俺は星砕きの祭の運営委員だ。あんまり金を出さないパーソナリアの行政に代わって俺が方々から金をかき集めてきてんだよ。スポンサーになってくれりゃいい汁を吸わせてやるとか、お前んとこのこんな弱みを知ってるぞ、とか。そうやってな」

「……んで? だからどうなる。お前の立場はどうだっていいんだよ」

「問題が起きてんのさ。お前さんのところの影討ちが派手に暴れてくれたおかげで、大会があんまり盛り上がりそうにないんだよ。有力選手も何人かやられたからなぁ。星砕きの祭は大きな金が動く。だが、それは星砕きの祭が大いに盛り上がってくれるっつー前提在ってのことだ」

「そうかよ。マジでどうでもいい話だな」

「このままじゃあダメなんだよ。構図としちゃあ、世界最強の流星に挑む強者たち。果たして行方は……って感じだったんだが、その強者たちがやられたんだよ。なんでも影討ちは二人組だってんだから始末に負えねえ。記憶を読んだが、影討ちは一対一では勝てないと判断すると二人組で襲いかかっていた。だから誰も勝てなかった。一人でも十分過ぎるくらい強いのに、それが二人だってんだからなぁ。おい納豆菌、飼い主としての責任問題だぜ、こりゃあ」

「ざまあみやがれ、クソが」

「だから方針を変えた。あの二人が出場すりゃあ、問題はねえんだ。それはそれで良いネタになる」


 俺は思い出して笑った。


「おい日々屋。あの二人は出場しねえぞ? どうすんだよ」


 あの二人は、出場しない。未樹がそう言った。未樹の目論見は見事に成功していたらしい。


「馬鹿だな。そのための餌があれば問題ねえ。なあ? 飼い主さんよ」

「――ち。そういうことかよ。だが、限界はあるだろうな。俺は弱えぞ? 俺が一回戦負けすりゃあ、あいつらが出場する意味が無くなる。普通に棄権すんじゃねえか?」


 つまりは、俺を餌にしてノレイと未樹を出場させる、ということだろう。それが上手くいくかは放っておいて、問題点を日々屋に訊く。


「問題ねえよ。本戦はトーナメント戦だ。ちゃんと良い感じのヤツを組んでやる。ちゃんとシード枠も付けてな。それに、お前は初見殺しだけはいっちょ前だからなぁ。普通にやっても良いとこまでいけるだろ。お前の活躍は俺が金に換えてやろうじゃねえの」

「け――。じゃあ次の質問だ。――そんなに上手くいくか?」

「問題ねえよ。折宮未樹とノレイ・ソートクランにそのことを伝えれば、恐らく乗ってくるだろうな。本戦でしっかり殺してやるって具合に」

「おい待て。大会で死人を出せば、どうなるか分かってんだろうな」


 試合で殺されたくは無い。ノレイと未樹ならやりかねない。


「まあ、別に俺は納豆菌が殺されたとこで困りはしねえ。別にいいだろ」

「死ねゴミ野郎が」


 俺は部屋の窓を開けた。さっきからニコチンとタールで臭い。

 午前の太陽光が差し込む。いつの間にか、朝まで眠っていたらしい。


「まあ、多分大丈夫だろ。相応の見返りは用意しておく。何がいい?」

「一億を日本円で用意しろ。そんだけ出せるんなら、殺される危険があっても本戦に出場してやるよ」


 冗談で俺はそう口にした。正しガチトーンである。俺に命賭けろというなら、そのぐらいは用意してもらわないと釣り合いがとれない。


「てめえの命に一億も価値はねえ――が、今回は別だ。いいぜ、口座に振り込んでおく」

「……あん? マジで? マジで一億? いいの?」

「いいも何も、てめえが言い出した条件だろうが。ただし、きっちり出場してもらうぜ。文句は一切受け付けねえ」

「オーライオーライ。一億はマジだな? 嘘なら大会をぶっ壊すからな」

「交渉成立だな。よろしく頼むぜぇ? 釣りの餌にしちゃ安物だがなぁ」

「その安物を選んだお前は小物だな」

「はん、違いねえ」


 俺達はほくそ笑んだ。


 一億。一億――。一億円が俺の手に――。


 ぐふふふふふふ……ふはははははは――。

 


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