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14/22

目には目をー4

友情、素敵な響きですね。

 通り雨の様に、気まぐれの様に突然それは落ちてきた。


 無数の、降り注ぐ隕石――違う、魔力の塊、だろうか? いや違う分析している場合ではない。冗談じゃない、速度が桁外れだ。どんな細工が施してあるかも分からない。まずい、離脱が間に合わない、逃げ切れない。雨の一粒一粒を全て躱しきれない様に、この流星に――迎撃? まさか。冗談だろう、俺にそんな上等なことは出来ない。


「宵鳴、頼む」

「任されました」


 宵鳴なら何とかしてくれる。じゃなきゃ死ぬ。宵鳴はとっくに暗くなっている空から打ち出される流星群に手をかざすと、なんかバリアっぽい膜を空中に投影した。


 この世界はいろいろな不思議と理不尽にあふれているが、そんな世界に住む俺は、バリアっぽいモノってなんだろう、と思った。バリアってなんだろう、冷静に考えてしまった。

 さながら雨に差す傘の様にそのバリアは俺と宵鳴を守った。


「……いけない。この状況は、まずい、です――。ごめんなさい、奈桐さん……」


 宵鳴が焦った表情を浮かべた。しまった、って感じの顔。


「え? ちょっと、何? なんで謝るん? 止めて? 俺の命グッドバイってこと?」

「――その通りよ。泣いて許しを請いなさい、ツルギ」


 ――その声が聞こえたことで、敗北を悟った。降りしきる魔力の雨の中、そんな声が聞こえる――? そう気づいた時、既に首には熱い衝撃が走って、視界がぐるぐると回る中見えたのは――流星(フォールアウト)本人に足止めを食らっている宵鳴と、既に剣を振り抜いたノレイの狂気染みた笑みだった。


 俺は首を切断されたと気づいたのは、瞬時に生き返ってからだった。死んだ俺の体と、生きている俺の体が入れ替わるように、俺の視界が復活する。ストックを消費して俺は生き返った。パーソナリアじゃ無かったら即死だった。


「一つ。ねえツルギ、あなた、精々が二つ程度、でしょう?」

「ぐ――、クソ――がぁ――」


 俺は断末魔を出しつつ心臓をノレイに貫かれてまた死んだ。宵鳴がノレイを吹き飛ばすのが見えた。流星はいつの間にか倒れている。宵鳴がやったらしい。


 次、殺されたら俺は正真正銘死ぬ。二度と生き返ることの無い、死体になる。


「ねえ! そのクズ男をこっちに渡してよ。死に方は選ばせてあげたいんだ」

「お断り、です。奈桐さんは――わたし、が……守る」


 しかし宵鳴は動けない。未だに流星雨は止む気配は無く、恐らく術者であろう流星(フォールアウト)が気絶しても止まらない仕組みなのだろう。世界最強の名をもつ流星(フォールアウト)の代名詞――というか、まんま名前の通りなのだが、流星群を降らす、という魔術。有名だ。


 宵鳴はその防御に力を割いている。宵鳴自身は流星に曝されようと平気なのだろうが、問題は俺だ。一瞬で死ぬ。だから宵鳴は完全に防がざるを得ない。一定量の意識を裂かざるを得ない。そして俺はこの傘から出られない。出たら死ぬ。


 俺、完全にお荷物である。知ってた。


 そして厄介なのは、ノレイやら未樹は当たり前の様に流星の中を駆けてくることだ。俺一人に対する檻が出来上がっちまった。この中で俺だけが唯一動けない。


 ぶっ壊れていく公園を尻目に俺は冷や汗を流すことしか出来ない。


「わたしが――守ら、ないと、わたしが――わたしが――ッ!」


 宵鳴は全方位に弾幕を張った。属性も何もない、むき出しのままの魔力球を全方位に放ち続け、ノレイと未樹を近づけさせない。


 クソ、このままじゃジリ貧だ。このまま時間を稼いて、流星群が止めば俺達の勝ちだが、そう素直に終わるとは思えない。何かあるはずだ。宵鳴もかなり焦っている。ミスがあるかもしれない。

 俺が何とかここから脱出しなければ――。

 一か八かの可能性に賭けることにした。


「宵鳴、俺の能力を使う。一直線上の流星を一瞬だけ消し去ってくれ。脱出する」


 俺の第三世代としての能力は「加速」。自分の身体機能の加速を一時的に行える。最大で五倍くらいにまで速くなれる。これを使って逃げ切る――。


 問題点は、俺がこの力を全く使いこなせていないということ。体の方は速くなっても、それを認識する脳味噌まで速くなるわけじゃない。つまり俺は、速くなった自分自身を認識できない。運動神経の働く速さは等倍だ。


「……分かり、ました」


 俺が戦闘で「加速」すると俺は自爆して死ぬ。相手もついて来れないが、俺もついて行けない。五倍というのはそういう速さだ。さらに体の方もボロボロになる。耐えられる様な訓練をしていない。いや、そういう修行をしていない俺が悪いのだが、俺だってまさかこんな状況に陥ることになるとは思っていなかった。

 自爆覚悟で練り上げた俺の戦い方は、初見殺しに特化している――。


「幸運を、祈ります。グッドラック」

「二回も同じことを言わなくていいっての」


 瞬間、流星群の雨に穴が開いた。俺は感覚を研ぎ澄ました。


 ――何か、自分の中の鍵を開くような感覚がして、体が軽くなる。俺は速い――。


 景色が見えなくなった。急な加速に俺の認識が付いていかない。だが足を止めるのは無理だ。急停止すると足が折れる。辛うじて見える道路を駆ける。速く速く速く――。「新世代の子供達」ってのはデフォルトで車の速度くらいは出せる。その五倍――。俺は速い———。誰一人として俺に追いつくことは許さない――。


 とにかく逃げ切らないといけない。都市部へ紛れ込めば見つけるのは容易ではない。すぐにビル群が見える様になる。しかしどうする――? 人混みに突っ込めば死ぬのは俺だ。もう命に後がない。間違い無く死ぬ。そんなのはご免だ。


 遙か後ろから殺気を感じる。追ってきているらしい。宵鳴はどうしている――?


 ほんの少し、気が逸れた。


 しまった、と思ってももう遅い。


 石に躓いた。そう気づいたのは、俺の体が馬鹿みたいな速度で地面すれすれを滑空している時だった。

 F1レースの事故がそのまま死に繋がるように、俺は馬鹿みたいに地面に衝突した。直線で、整備された道だっだのは、紛れもない俺の幸運だ。


「――あ、ぅあ――ぐ、ぁあ――」


 転がり切った俺の口から、言葉未満の音がこぼれ落ちた。その音で俺の意識がまだあることを確認した。まだ、生きている。死んでない。


 さっきから、痛みで涙が出そうだ。特に足。次に心臓の辺り。俺の能力に心機能が対応仕切れていないから、さっきから心臓は大忙しだ。足の骨は折れているんじゃないか? さっき転んだとき致命的になんかヤバい感覚がした。細胞も死んでるだろう。むしろ感覚が鈍い気もする。だが痛い。鈍くて圧倒的な痛み――。上半身も無傷な訳がない。


 ――痛え。


 俺は何とかうつ伏せから寝返りを打って、夜空を寝そべりながら眺めた。綺麗だ。美しい――。


「……助か、った、か……?」


 自分への確認の言葉を出した。それだけで痛い。呼吸がさっきから荒い。全力疾走の様なものだ。ただし危険度は桁違いだ。


「まだよ。無様ね、ツルギ」


 朦朧とする世界の中でノレイの声が聞こえた。


「……お、いおい。まさか、本気で俺を、殺す、つもり、かよ……? 今なら、まだ冗談で済ませてやって、も、いいんだ、ぜ……」

「ツルギ。あなたは否定したのは私の全てよ。私が今日まで生きている理由を、あなたは一体何と言ったのかしら。その発言を撤回するなら、命は助けてあげてもいいけれど」

「は……。そんなに、重要な、ことかよ。それが、お前の、全部……か? そんなものが、お前の、人生、なのかよ……」

「……撤回する気は無い?」


 それは最終確認だった。結局、ノレイはそういう風にしか生きられないのだろう。自らを否定する人間を、殺してでも否定する。


 それが、唯一の自分を守る術なのかどうか、俺には分からないが。

 それは少なくとも、彼女の人生の在り方だったのだろう。


 俺ならもう少し賢く、スマートにやるだろう。波風立てず、凪の様に、風が吹こうと、ただ揺れるだけの木々の様に、もう少し上手く生きるだろう。逆風に立ち向かわず、やり過ごす。そうしただろう、俺ならば。


 だが――なんでだろうな。


「ジョークは、止めろよ……。お前には、似合わねえさ」


 命を対価にしても、俺はノレイを認められないんだ。


「残念よ」


 朧気な視界の中、ノレイが剣を振り上げた――。



「させない。悪いが、僕の友達なんだよ。殺させない」



 全く以て予想外の人物が乱入してきた。


「……八法、院。なんで、」


 八法院はノレイの剣を、自分の獲物である刀、日本刀で弾いた。


「……この感触。君が影討ちだね。先日は世話になったよ。どうして奈桐を狙うのかな」

「……邪魔よ。負け犬は尻尾を巻いて消えなさい。私には勝てない。忘れたのかしら」

「どうかな。この前はやられたけど、正面からは得意分野なんだ」


 達人同士の静かな探り合いは既に始まっている。目に見えない剣筋が見えているのだろう。ほんの少しずつ、間合いを図っている。

 違う、観戦している場合か。なぜ八法院が居るかは分からないが、助かる可能性が出てきた。とっとと逃げねえといけない。


 しかしダメだ。立ち上がることも出来そうにない。あと一時間あれば自然治癒力で歩ける程度にはなりそうだが、そんなに待っていられない。被害の少ない上半身だけで逆立ちして逃げるか。無理だな。

 視界に新しい人物が映った。


「よォ納豆菌。お困りみてーじゃねーか。助けてやろうか?」

「……日々屋。お前、何が目的だ。なんでここに居る」


 日々屋が口元を歪めている。

 日々屋なら俺が襲われていることを知っていたとしても不思議ではない。派手な戦闘だったし、日々屋の能力はそういう応用が利く。本人の頭も回る。俺の状況も理解している。八法院を寄こしたのは日々屋だろう。


「そっちの王子様と同じだよォ。お友達を助けるのは、当然だろぉ?」

「は、友達、だと? ぞっと、する。冗談でも止めろ、殺すぞ」


 日々屋の気色悪い笑みに心底ドン引きしつつ答える。


「いいじゃねえかよ。せっかく人が助けてやろうってのによ。それともここで死ぬか?」

「それも、勘弁だ。一つ、貸しに……しといてやる」

「ははッ。だとよ、気張れよ王子様ぁ! ちゃんと時間稼いでくれよなぁ、そんじゃあなノレイ・ソートクランッ!」


 日々屋は三下っぽい台詞を吐きながら俺を担いで飛び去った。ちょ、止めろ、もっと丁寧に運べ、痛え。

 残してきた宵鳴のことが気がかりだが、命には代えられない。


「待ちなさい――、待ちなさい――ッ!」


 去り際に見えたノレイの顔は、泣きそうですらあった。



しっかしこのキャラ達は……

んんんんんんん……

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