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目には目をー3

パーソナリアという場所はどういうところなのか作者もよく分かっていない案件

――そうこうしていると、太陽が沈もうとしている。パーソナリアでも、夕暮れは朱い。この世界の太陽は、地球の太陽とも、マナリミスの、地球で言う太陽に当たる恒星とも違う。パーソナリアというのは、異世界だ。まさしく、異なる世界だ。文字通りの――。


「……結局、奈桐さんは、何が目的だったの、ですか……。一日中わたしを連れ回して……」


 公園のベンチに腰掛けた宵鳴が問う。灰色のタイルと木々の緑で構成された、どこかシステマチックで機能的な公園だ。運動に適した場所であり、日時によっては人も多いが、今日はその限りではなく、俺と宵鳴以外に人はいない。


「んー、まぁ――。今日はどうだった?」


 宵鳴と微妙な距離を置いて俺はその横に座って空を眺めている。鮮やかなオレンジはすぐに紺色へと変わるだろう。雲の色も同様に。


「……どう、と言われましても……」

「俺は結構面白かったぜ。楽しくはなかったけどな」

「……なら、わたしは楽しかったと思い、ます。面白くは、ありませんでした、けど」

「なら……ってなんだよ。ならって」

「……別に、なんでも、ありません……よ?」


 宵鳴はどこかしら呆然としている様にも見える。心ここにあらず、といった具合は今日一日ずっと続いていたものだが、それでも話を振るとしっかり返してきている。よく分からんヤツだ。マイペースというか……。


「けッ。別に良いけどな。ま、強引にいろいろ連れ回したのは悪かったと、多少は思っている。多少。俺なりにいろいろ考えてみた結果、宵鳴にはこういうのが必要なんじゃねえかっつー結論にたどり着いてな」

「……こういう、の……とは……?」

「ネガティブなヤツってのは、いろいろ考えすぎるんだよ。いつも自分の悪いところばっかり考えては後悔して、自分を嫌いになっていく。そいつが一人ならなお悪い。止めるヤツがいねえからな。そういうヤツに必要なのは、考えさせないことだっつーのが俺の持論だ」

「……もしかして、わたしの、ために……?」

「ああそうさ。それ以外に何がある? 人間、誰かと話している時とか、何かをしている時に、うだうだ考えたり出来ない。余計なこと考えて、てめえで勝手に泥沼に嵌まっていかなくて済む。どーせお前、ほっとくとすぐ昔の事思い出して勝手に自己嫌悪に陥って――っつータイプだろ。こういうのが、今のお前には必要だ、と俺は考えた」


 宵鳴の表情は動かない。いや、内心はどうかは分からないが、感情が顔に出ないタイプだ。それは生来のものか、後天的に植え付けられた癖か。


「まあ俺はメンタルカウンセリングの専門家でもないし、知識もねえがな。だが、そいつら専門家にお前を任せたところで上手くいくとも思えなかった」

「……奈桐さん、あなた……は、やっぱり、その……」

「んだよ? 言いたいことはちゃんと言え。少なくとも俺は怒らねえよ」


 珍しく口ごもる宵鳴は珍しい。内気に見えて、以外と遠慮の無い物言いをするヤツだと思っていた。


「……優しい、ですね。奈桐さん、は――」


 ――。薄く微笑みながら放った一言は、かなり俺に刺さる言葉だった。それを知ってか知らずか、宵鳴はやはり遠慮のない人間だった。


「頼むからそういうのは勘弁してくれ。マジで頼む。いやマジで。その言葉は俺に効く」

「でも、わたしを助けてくれようと、してくれています……」

「お前との交換条件だったからだよ。俺の命守る対価に払う義務だ。俺は優しい人間じゃない。それだけは断じてない」

「そういう、ところ、ですよ……」

「それ以上は止めてくれ。俺は優しい人間の末路を知っている。教えてやるよ。優しい人間から順番に貧乏くじを引いていくんだよ。優しい人間は自分を顧みることがない。例えば、優しさ余って新世代の子供達を助けようとした人間は、なんでかリンチに遭っていたよ。タチが悪いのは、そいつは一切を恨まなかったことだ。結局そいつは、それを知ったそいつの親がそいつを連れて引っ越していった」


 いつだか、そんな馬鹿が居たことを思い出した。


「当たり前だった。親は子供を守んなきゃいけなかったからな。そのままだと、そいつがどうなるか分かりもしない状況だった」

「……後悔……を、している……のです、か?」

「知るか。どうせ昔の話さ。ほじくり返して嬉しいヤツが一人も居ない馬鹿話だ。とにかく、そん時思ったんだよ。俺は絶対に優しいヤツにはなりたくねえって。優しくなったら、ロクなことが起こらねえんだなって、そん時分かった」


 視界に入る宵鳴の表情は薄いままだ。俺は言葉を続けた。


「とにかく、間違っても俺を優しいヤツだ、なんて言ってくれるな。そりゃ俺に対する侮辱だぜ――」


 言い切るより前に――宵鳴が動いた。



「そーだね。じゃーあたしこれからなっとーのこと、優しい人って言う様にするね」



 そこからは速かった。宵鳴はとっくに戦闘準備を終えていて、掌を声の発生源へと向けていた。俺は弾かれた様に振り向いて、その人影を確認する。


「ち――。遅かったなぁ、未樹。もーちょい早く来ると思ってたぜ。それとも、宵鳴にビビって動けなかったのか?」


 振り返る先に――折宮未樹が薄らとした笑みを浮かべて立っている。逆光で詳しい表情までは分からない。夕日に照らされる影は、片手に剣を握っている。

 未樹はこちらに最高潮の敵意と殺意を向けて話しかけた。


「相変わらずだねなっとー。優しいね。今日一日をそこの子に使ってあげたんだぁー? 結構お金使ってたよね。――お金、無いんじゃ無かったの? ねえ――?」

「さてな。少なくとも、てめーみたいな穀潰しに使う金は無かった。それだけは確かだな」


 無駄口を叩きつつ、宵鳴に目配せする。宵鳴はすぐに理解して返答した。


「……少なくとも、周囲には、そこの人以外、敵意を持つ人間は、居ません……」

「だってよ未樹。ノレイはどうしたぁ? お一人様でご苦労だな。未樹とノレイはいっつも一緒なんじゃねーのか?」

「べっつにー? なっとーは視野が狭いねぇ。こうは考えないの? 例えばそうね――わたし一人で十分だって――ッ!」


 瞬間、未樹が俺の視界から消えた。いや、消えたと錯覚するスピードで動いたのか。俺が一人だったのなら、俺に出来ることは何もなく、抵抗虚しく虐殺されていただろう。

 一人だったのなら。


「やらせると、でも……思いました――か?」

「君、邪魔よ? どいてくれないとー、おねーさん怒っちゃうかも――ね」


 瞬間、俺の目の前で宵鳴と未樹が鍔迫り合いをしていた――と思った数瞬後、ノレイは剣を捨て、肉弾戦闘の構えを取った――と思った瞬間二人の姿が霞んでブレた――。


 正直ついて行けない。宵鳴はいつの間にか剣を持っているし、未樹は武器を捨てるし。


 数度の打ち合いののち、距離を取った未樹に対して宵鳴が……なんか、斬撃を、飛ばした……? 上手く説明出来ないが、宵鳴が振るった剣の延長線上にあるものが切り裂かれている。まるで、剣のリーチが延長されたか、それこそ斬撃的な何かが飛んでいったとしか思えない。


「思ったより、やります……。何を考えているかは、知りませんが……。無駄、です」

「……流石に、化け物だね……っ。ほんと、何をどうしたらこんな――」


 ヤムチャ視点により、戦況について行けないが、宵鳴が押している……と思う。

 何もないはずの場所へ振るわれた未樹の右ストレートに対して、宵鳴は、それを避けるように一歩横へずれた。そのまま未樹が接近戦に持ち込み、未樹の全身を武器にした格闘術を受ける宵鳴――は、さっきから一度として攻撃を食らわない。全て躱すかいなすか、時折何もない場所から来る攻撃を避ける様に動いて、一切を回避する。


「その手品も、意図を隠さなければ、意味はありません……。感情が、動いています、よ」


 宵鳴が一瞬消えて、未樹の心臓を剣が貫いていた。すぐに未樹は飛び跳ね、離脱。服は破かれ、血だらけだ。一度殺された未樹は苦い顔をして宵鳴を凝視している。傷口は治っているだろう。蘇生のストックが、一つ削れた。


「おうどうした未樹。なんか狙いがあるんだろ? まさか本当に一人で来た訳でもねえだろ? 勝てる相手と勝てない相手、その判別が付かない……なんて、冗談は興ざめだぜ?」


 俺は堂々と虎の威を借りて未樹に呼びかけた。強者の余裕である。未樹は怒りを堪えようとせずに言い返した。


「なっとー。知らなかったかな、あたしは冗談が嫌いなのよ――? 調子に乗らないでよ、別になっとーが強い訳でも、戦っている訳でもないでしょ? ――楽に死ねると思わないでね」


 背筋が凍った。凝縮された殺気をぶつけられて俺は冷や汗が吹き出るのを感じた。未樹の顔を確認するのが怖い。俺は自分を奮い立たせるために虚勢を張った。


「うるせぇーなッ! 御託は宵鳴を倒してから言えよ! 出来るもんならなぁ!」


 俺は三下が吐くような台詞を吐いた。三下の気持ちがよく分かった。だが、宵鳴に勝てるはずがない。どんな手段を用いようとも、それだけは確実だ。


「……ほんと、なっとーってば、そんなに――死にたいんだね」

「……奈桐さん、気を付けて。何か狙いがあります」

「んなことは分かってんだよ! だが、てめーらに何か出来るもんかよッ! ウチの宵鳴莉々亜に勝てると思ってんじゃね――ぞオラぁ!」

「い、いやです奈桐さん、そんな、ウチの……だなんて、そんなこと、言われたらわたし……」

「なっとぉおおお――ッ! 殺す――やりなさい流星(フォールアウト)ッ、あいつを殺すのッ!」

「ちょっと待て流星(フォールアウト)だとッ!? ちょ、待て待て待て! マジで、え、マジで止めろッ!」

「安心してください、誰が来ようと、奈桐さんには、指一本――」

「止めろフラグ立てるな――」


 その言葉を言い切る前に、それは来た。

 流星群が、降り注いだのだ。

 

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