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目には目をー1

ひきこもり編です。

しっかしこの主人公……ヒロイン……どうなんだマジで

 響く。響いている。


 何が響く? 音が響く。では、それは何の音だ?


「未樹ッ!」

「りょーかいりょーかい、任せろってんだよっ」

「……この戦いに意味はない。理解して」

「黙れッ、あなたに意味が無くとも、私にはあるッ!」


 剣戟の音が――響く。


 空に響く。伽藍洞な心に響く。

 ならば響け。反響しろ。



 この思いを忘れることはない。



 誰かを、この手で殺したいと――そう思うことは、私の人生に、たった一度だけ許された権利だ。私が私に許した権利だ。


 それは、そうで無くてはならない。それは今の私を作り出した理由だからだ。


「……厄介ね。これ程だとは、想定していなかった。けれどノレイ、まだ君に殺されてあげる訳にはいかない。剣を仕舞いなさい。然もなくば、私も手加減は出来ない」

「上等よクズ野郎がぁッ! 良いからとっとと死になさいッ!」

「そうだよー? 悪いことをしたら、は罰を受けなきゃいけないんだ。子供も知ってる当たり前のことなんだから。有名人は、ルールを守んないと、子供が真似ちゃうでしょう?」

「……さて、どうにも耳に痛いな。だが、君たちが言えた口か」


 接近戦でありながら、空中戦。高度三百メートルを超えるビル群の壁を足場にして立体戦闘を展開する。空中は都合がいい。なんせ、死角が山ほどあるのだ。攻撃の手段が倍近くなる。


 しかしそれでも決定打を与えられない。罠は確実に回避され、絶対に当たったはずの攻撃は外れている。最も殺したくなる行動は――その女が、一度もこちらに攻撃を仕掛けてこないということ。


「てめェーに言われたくはない台詞ナンバーワンッ! じゃあ良いから死んでッ」


 未樹がビルを蹴って空を舞う。直線上にはターゲット――アタナリア・リビフィールド。逃さない――地上に降りられたら厄介な相手だ。このまま不安定な場所で殺しきらないと厄介。安定した足場で戦うのは不利な相手。


「『その焔に万象をくべて、炎は燃え盛る』『故に火は陰らず』――弾けッ」

「オーライオーライ、なっとーをぶっ殺す前の準備運動だよッ、――あーもう死ねッ!」

「……物騒な少女達ね」


 魔術発動、炎の球を多数発生させ攻撃に織り交ぜる。未樹がそれを斬ると爆発し、丁度いい目眩ましへと変わる。もちろん普通に直撃しても有効な攻撃になる。


 私の出来る最も有効な攻撃魔術と、未樹との連携を持ってしても、届かない。

 それが、最も腹立たしい事実だ。


 防御に徹されては、こちらの攻撃は届かない、とでも言いたいのか? 慢心か? 馬鹿がそんな甘い考えなら、すぐに打ち砕く。そのまま殺す。


「未樹、『ずらし』て」

「合点承知!」


 未樹は剣をリビフィールドに投げ、そのまま自分も突進。丸腰だが、未樹の本領は武器にはない。一番得意な分野は、殴る蹴る投げるの三つ。


「年貢の納め時だってさ――走馬灯の準備はオッケーかなぁッ!」


 弾丸の様に飛び出した未樹は、そのまま等身大の弾丸になる。対抗手段は限られている。リビフィールドが選択したのは――回避。ギリギリで近くの壁を蹴り、方向を変える。未樹はその動きについて行けない。そのまま視界に捉えて――何もない空間を、全力で殴った。


「が、は――」


 そしてリビフィールドは死んだ。腹部に穴が開いているからだ。「新世代の子供達」ならばあるいは生き残ったかも知れないが、リビフィールドはあくまで人間だからだ。


「まず一つ。ねえねえアタナリアさん、あなた、あと何回殺せば死ぬのかな?」


 即座に再生するリビフィールドは、慣性のまま空を舞い、壁に対して垂直に着地し、ビル群中層の生活圏を構成する床――何百とあるビルとビルとの連絡通路であり、住人に取っての大地だ――に足を付けた。


「……やる。だが、私の目的は、戦いではない。私の話を聞け」

「いいよぉ、話して見せてよッ! 話す余裕があるんならねッ!」


 未樹が突っ込む。血に染まった両手を握り込んで。なかなか戦闘狂らしい顔付きをしている。そのまま肉弾戦に持ち込む。リビフィールドはやはり、防御に徹するだけで、一切の反撃を行わない。

 未樹の「ずらし」を警戒して、慎重な動きをするが無駄だ。未樹の能力は防戦に対して刺さる。一番の悪手だ。通常攻撃に混ぜるとより凶悪になる。


「ノレイ・ソートクラン。並びに折宮未樹。私の指導を受けろ。君達はより強くなる可能性が高い」


 未樹の攻撃を捌きながら――リビフィールドが何でも無いように話した。


「……殺す」


 未樹に対して手一杯な現状、私で挟めばリビフィールドは死ぬ。なら殺す。

 瞬きの間に後ろから――両断する。


「甘い。ノレイ、君は感情で戦う人間ではない。それでは私を殺すことは出来ないな」


 剣が弾かれた。鉄を殴った様な感触。

 防がれた――。魔力防壁、それも一点集中型の、強力なもの。私が何処を狙うのか、完全に読まれていた――ということになる。


 許せるか。こんな侮辱を許せるのか。

 許す訳がないだろう。

 何のために、私がこれまで生きてきた? 決まっているだろう。

 私の家族を殺した人間を、アタナリア・リビフィールドを殺すためだ。そのために生きてきた。何年も、何年も、何年も、戦い続けて、ここに来た。


「――殺す、殺す」

「……惜しい。その剣は、もっと冷静に振るわなければ、強くない」

「黙りなさいッ」


 未樹とで挟みうちに出来ない。常に動かれ、囲めない。リビフィールドが地面から飛び出し、空へ飛び出していった。他のビルに移る気か。

 逃すか。


「――ダメだよノレイッ、罠ッ」

「関係無い。そんなもの――ッ!」

「あっちゃダメだー、完全にキレちゃったのね、ノレイ」


 風を切り、跳んで追いかける。

 魔術で固めた空間を蹴り加速、絶対に逃さない。許さない。


「……愚か、ね」


 絶対に見失うことは無いはずなのに、飛び回るリビフィールドが視界から消えたと気づいたときには、既にもう遅かった。


「が――あ、」


 ビルの死角からの足払い、堅い床に叩き付けられたと思ったら、既に体は地面に縫い付けられたようにピクリとも動きやしない。


 魔力による固定。自分の魔力を相手に纏わせ、そのまま固定して物質化させることで、相手を行動不能にさせる高等技術。まともな戦闘では使えない。なぜなら、難しすぎるから。

 構築や発動に時間がかかり過ぎる上に、相手に干渉するのだから、近距離でしか使えない。そして近距離では魔術の発動より、殴った方が速い。

 それこそ、相手の行動を全て読み切らないと――。


「……落ち着いた、か?」

「落ちるのはあなたの首だよー? アタナリア・リビフィールド」


 私を見下ろすリビフィールドの首元に、ノレイの剣がかかっている。私の剣だ。一瞬で回収したらしい。


「……止めた方が、いい。折宮未樹。君には、私を殺す確たる理由はない」

「……なーんか最近は、舐められてばっかり。ねえ、分からない? あたしにとっては、ノレイが殺したがっているっていう理由だけで十分なんだ」


 しかしその未樹も動けない。リビフィールドは既にいつでも未樹に対して行動出来るようになっている。

 体を捻って魔力の枷から抜け出そうとするが、やはりダメだ。ビクリともしない。


 一対一ではアタナリアの方が強い。この状況は悪い。未樹一人では勝てない――。

 本当に後悔するばかりだ。感情に流され、連携を見失い、無力化される。一度殺された程度では死なないパーソナリアでは、無力化が一番の「殺し」だ。未樹と連携し続ければ、勝てない相手でないはずなのに。


「再三言わせるな。君らに理由があろうと、私にはない。この状況では、そちらは勝てない。私の話を聞くのが上策だ。違うか?」

「笑わせないで。話? リビフィールド、あなたが私に話だと? まさか忘れたとは言わないでしょうね。ミランダ村で、あなたが殺した人達のことを――」


 アタナリア・リビフィールドは私のお父さんとお母さんを殺した。幼かった私はただ泣き叫ぶことしか出来なかったが、今は違う。私は強くなった。ただ、私を見下ろす女を殺すためだけに強くなった。

 私の人生は、そのためだけにある。今この時も。


「……やはり、そう。因果な物。人生というのは、自分一人が歩いているわけではない、ということ。質問に答える、ノレイ。私はその出来事を覚えて居る」

「は……はは、――。なぜお父さんとお母さんを殺した。私達はただ平和に暮らしていただけ。なぜ、殺されなければいけなかった……!」

「さてな。知りたければ、私に従うことね」


 さてな、と言ったか。

 ふざけるな。ふざけるな。

 ふざけるな。


「じゃあさ、一応聞くけど。てめーはあたし達に何をして欲しいの? 本気で、あたしたちを鍛えるつもりでもあるの? だったらあたしたちを舐めすぎてると思う」


 未樹が剣を突きつけたまま訊いた。表面こそ穏やかだが、内心はかなりキている声だ。


「舐めて、などいない。正当に評価しているからこそ、私は君達を選んだ。繰り返す。私の指導を受けろ。君はより強くなる」


 冗談の気配はない。

 私は――。


「どうするの、ノレイ。ぶっちゃけあたしは鍛えて貰えるんなら鍛えて欲しいけど、ノレイがこいつの指導を死んでも受けたくないって言うなら……うーんその場合はどうしよ」

「薄情ね、未樹。私への義理立てはないのかしら」

「まあ、別にあたしは家族殺されてる訳でもないっていうか、むしろ殺してくれるんなら今すぐにでも皆殺しに来てくれて全然歓迎だからっていうかー」


 未樹は、私に協力してくれている。私の生きている理由を知った上で、リビフィールドの指導を受けたいと涼しい顔で口に出来る辺り、かなり畜生だ。――だが、責めることは出来ない。私が未樹でないように、未樹も私ではない。


 そこに腹は立てない。お門違いだからだ。

 だが。だが、それでも私が、はらわたが煮えくり返りそうなほど、怒りの感情に満たされているのは。


『本当にぶっ殺したいなら、手段を選ぶなよ。使えるもんはゴミでもクズでも俺でもなんだって使うべきだろ。それとも、本気じゃねえのか?』


 反響する。声が、声が――。


「……分かった。アタナリア・リビフィールド。私はあなたの目的なんてどうでもいい。一切の興味がないから、あなたがそんなことをする理由なんて、ゴミほどどうでもいい。ただ私は、あなたを殺すために必要な手段として、あなたのその指導とやらを受けるわ」

「結構だ、ノレイ・ソートクラン。安心して良い。君は強くなる」

「――ただし条件がある。その条件を、あなたが呑むのなら、私はあなたに従う」

「条件による」


「奈桐剣という人間を殺すのに、協力して」



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