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街角に潜む悪魔達へ-1

 怒号が響く。

 

 衝撃波が飛び交う。

 

 俺達のクラスにテロリストでも攻め込んできたのかと期待したが、そんなことはなかった。いや、攻められているというか———襲撃を受けたのは、まあ、間違いない。


「敵襲———ッ、敵襲———ッ!」


 アホか、と俺は思った。敵襲って何だ、敵襲って。煙幕でよく見えないが、気配は感じる。明らかに能力を発動させている誰かがいる。何者かを攻撃する意志と共に、悲鳴やら歓声やらとりあえずなんか叫んどこう的な適当な叫び声が校舎に響き渡った。


 俺は———傍観しよう。狙われてるのは俺じゃないっぽいし、襲われるような心当たりないし。


 感覚を研ぎ澄ます。


 ———鋭い剣を弾く金属音。二種類響くうち、片方は知っている。うちのクラスの王子様だ。ただ、防戦一方らしい。衝撃波が黒板を砕いた。魔術の基礎的な公式が黒板と共に崩れ落ちる。こりゃ午後の授業は中止だろうな———。


 三度の剣戟。弾き、流し、崩し———突く。

 そして煙幕が切り払われる頃には、下手人は消え去っており、


「は、八法院がやられたぞォ———ッ!」


 口から血を大量に流し、壁に叩き付けられるように腹部を刺し貫かれた八法院錬次(はっぽういんれんじ)が壁にもたれて目を閉じていた。出血が多すぎる。血まみれで、今なお流れ続けている。気を失っている? いや、これは———。


「みん、な……。気を、付け、て———」


 八法院が言い残すようにかすれた言葉を吐血と共に吐き出して、意識を失った。

「八法院、しっかりしろ、八法院ッ、おい!」

 晴れ渡る学校日和のある日。

 八法院錬次は———。

 



「よう、大丈夫か?」


 俺は気安く声をかけた。クラスメイトがひとしきり騒いで満足したのか、ひび割れた壁の中心部で気を失っている八法院のそばにかがむ。


「うん。いやあ、やられちゃったね。見事な奇襲だったよ」


 八法院はむくりと体を起こした。体はまだ血まみれであるため、かなりシュールだ。そのまま乱暴にゴシゴシと口元を拭った。乾いた血糊が崩れ落ちる。


「本当にな。学校に襲撃を仕掛けてくるヤツは初めて見た。現実にいるんだな、ああいうの」

「そう? 僕は一回経験あるけどね、スクールジャックされたこと」

「マジかよ……」


 手を差し出す。八法院は笑みを浮かべて俺の手を取り立ち上がった。


 周囲は荒れ果てていた。散乱したプリントやノートが床を埋め尽くしている。もしくは足を切られた机や椅子、一番被害を受けたのは黒板だろう。

 大半のクラスメイトは学校襲撃というロマンあふれるシチュエーションを楽しみ尽くして談笑している。呑気か。


「さっきの、例のヤツか?」


 俺は八法院に水を向けた。八法院はにこにこと人当たりのいい笑顔を浮かべて答えた。


「たぶんね。僕個人に恨みがあるなら別だけど」

「お前を恨んでるヤツか……。俺とか?」

「参ったな、心当たりがないや。僕、君に何したっけ」


 そういう善良な人間性だよ、と言いたかったが、口に出すと俺の人間性の浅ましさが露呈しそうだったので止めた。

 実際八法院は良いヤツである。つーか悪いところが何もない。強いて言うなら欠点のなさが欠点といったところか。イケメンだし、強いし。

 問題は俺がそういった完璧人間を許容できないということなのだが……。だって嫉妬するやん。しゃあないやん。


「冗談だ。しかし、これで何人目だよ」

「この学校内だけで七八人はやられてるよね。かなりの手練れだ。しっかり殺されちゃった」


 ヤツに狙われるような人間は大抵が実力者だ。その実力者を奇襲とはいえ仕留めきる実力。八法院の言うとおりかなりやる人物。

 クラスメイトが騒いでいる。


「すごいでござる。鮮やかにカーン、グシャって感じでござった」

「だよねー。これでもう一人優勝候補が減っちゃったよ、どうなるんだろうね」

「それな。ヤバくね? 今回ヤバくね?」


 やはり、クラスメイトはそのことで持ちきりだ。当然と言えば当然。ここに在籍する学生なら一番身近に感じなければならないことでもあるのだし。

 つーか今ござる口調のやつ居なかったか? キャラ付けが雑すぎるだろ……。


「静かにしろー。今から連絡事項伝えるからなー」


 担任がぶっ壊れたドアを蹴り破って入ってきた。とても先生の入室とは思えない。性別女性の先生は高い声に見合わぬ乱暴な声色でクラスを静める。


「午後の授業は中止だー。今日はこれで解散、このクラスだけなー。あと、出来なかった授業は今度の土曜に入るから覚悟しとけよー」


 マジかよ襲撃者死ね。土曜日が侵略される……? 学校に……? 嘘だろ、という言葉を呟いた。


「ああそれと八法院―」

「はい、なんですか?」


 先生が八法院に視線を向けた。


「一応確認するがー、なんか異常はないよなー?」

「ありません」

「そうかー。ならいいー。あんまり人の恨み買うよーなことすんじゃねーぞー」

「八法院はそんなことしませんよ、先生」

「そうかー。まあそうだなー。んじゃ、ちゃんと勉強しろよー」


 そう言い残して担任は帰っていった。


「意外だね」


 八法院が呟いた。俺は聞き返した。


「何がだよ」

「僕はそういう風に思われてるんだ、と思ってさ」

「自覚ないのか。順当な判断だと思うが———」



 ———襲撃と共に壊された窓側の壁から、風が吹き込む。その向こうにはまだ正午に差し掛からない空。日は高く、雲の流れる空に、果てはない。


 地球と異世界が繋がってから、三十年が経とうとしている。


 異世界には摩訶不思議な力、魔術が存在した。異世界人はそれを地球に持ち込———むようなことはしなかったのだが、影響は多大にあった。

 異世界の影響を受けた一部の胎児は特異な能力と、一般人から見て驚異的な身体能力を有するようになった。その一部の子供達は「新世代の子供達」と呼ばれるようになる。


 二つの世界は交流し、互いに行き交うようになった。現代に飽きた若者を中心にファンタジーな異世界を訪れ、魔術をはじめとするファンタスティックな体験に心を躍らせた。

 二つの全く新しい出会いは様々な変化をもたらした、それは双方に、劇的に、しかし緩やかな変化———。八法院錬次や、この学園、ひいては俺———奈桐剣(なとうつるぎ)もそうだ。


 二つの世界の中間には、これまた新しい世界が発生した。


 天を突くような摩天楼。それが群をなす都市部と、幻想としか言えない様な王宮、城。それがいくつも複合的に重なり合い神秘的な王城群。その二つが対立するように、親和するように向かい合うこの場所。


 名を呼びて———パーソナリア。


 意味は知らん。語呂の良さ的なアレじゃね?

 まあ、そんな壮大な場所の中に、これまた立派な建物が一つ。大学のようにデザイン的な学校が胸を張っている。まあそのご立派な学校は襲撃者によって一部に穴が開いている。

 この学校、いや、学院と表現した方が正しいと思う。

 ここは学ぶ場所であり、研究機関でもある。


 この学院の通称はロスマリア。

 ロスマリア特殊研究学院機構……だったと思う。確か。

 結構特殊なシステムの学校であり、俺や八法院は一年生となっている。入学して三ヶ月程度だが、かなりヤバい場所であることは確か。


 そして、これはさっきの襲撃にも関わってくることだが———パーソナリアで、一年に一度開催される総合格闘技の大会がある。

 総合格闘技というか、「新世代の子供達」や、戦いの発達している異世界の人間達による異次元の戦いである。音を置き去りにするような戦いの大会。


 「星砕きの祭(フェスティバル)」。 


 優勝者は何でも一つ願いを叶えられる、的な感じだったと思う。というか、この大会は文字通りの世界大会だ。

 ———この二つの世界で、最も強い人間を決める戦いだからだ。

 この大会で優勝すると言うことは、それは世界最強ということと同義だ。


 一番、という名誉。称号。


 それを求める人間は多い。と言うわけで、様々な人間が参加する———のだが、参加人数が多すぎると予選を行わなければならない。

 予選というのが———さっきの襲撃にも繋がるが、参加登録をした選手は、大会の用意した機器に登録される。

 大体予想は付くと思うが、その機器に大会前夜まで登録されていれば本戦に出場できる。と、いうことは、登録が切れる条件がある。


 死ぬこと。もしくは殺されること。

 いずれかの条件を満たした選手は登録から弾かれ、参加資格を失う。


 ちょっと待て、それではバイオレンスというレベルでは留まらないぞ、と思ったそこの方。ご安心下さい。

 このパーソナリアで、人間は殺された程度では死なない。

 「新世代の子供達」や魔力とかいうよく分からんものを持つ異世界の人間は、命をストックできる。

 パーソナリア内限定で、その力に応じた命の予備を蓄えるのだ。

 これはパーソナリアという世界の特性を生かしたもので、当然地球や異世界では適用されない。パーソナリアという場所限定での特権だ。まあ、死ぬときは痛いが。


 弱いヤツなら一つだけ、強いやつ、例えば八法院などは五個だか六個だかあるはず。こういう情報はかなり機密なので知らないけど。

 俺は二つ。つまり、二回までなら殺されても死なないということだ。もちろん、パーソナリア内限定の話だが。そして一度殺されてもストックは時間経過で回復する。


 そして「星砕きの祭」参加資格として、二個以上のストックが必要だ。俺でも予選に参加は可能ということだが、俺は参加しない。普通に負けるし。


 話が逸れた。


 大会予選参加者は、自分以外の予選参加者を見抜けるようになる。どういう仕組みかは知らないが、そういうことが出来るらしい。

 まあ、ここまで来れば分かるだろうが———死なずに、他の予選参加者を殺してふるい落とす。それが予選の内容。更に予選の条件として、ただ生き残るだけではなく、自分以外に三人以上殺す必要がある。そのカウントは大会側が頑張って数えている。


 ただ生き残るだけではダメですよ、と言うわけだ。


 予選対象エリアはパーソナリア「全域」。

 予選参加者以外に攻撃を仕掛けた場合は即刻参加資格を破棄される———という一般人の安全に配慮していそうであんまり配慮していないルールがある。まあパーソナリアでの原則は自分のことは自分で守れ、だし。

 そして———


「さっきのやつ、通称なんて言ったっけな」


 さっきの襲撃犯も大会参加者だ。いや、大会参加者でないと正確にそうだと見抜けないのだが、おそらくそうだろう。俺もそう思う。ターゲットが室内にいる時を狙って煙幕を投げる。それと同時の奇襲で必ずターゲットをぶっ殺している。必ずターゲットの首を切り落として行く様と、大会本戦に必要な殺害数を大幅に超えて暴れ回ってるから、既にネット上では異名がついている。朝のニュースでやってた。その異名を———


影討ち(ハイドナイフ)のことかい? いや、見事だったなぁ、本当に」

「そうだ、それ。……名前の割りにはお前の首には届かなかったな。それだけ手こずったってことか?」

「そうだといいよね。いやぁ、彼女本当にやるね」

「彼女? 女なのか」

「多分ね。煙幕が濃くてよく見えなかったけど、なんかそんな感じがしたんだ」


 そんな感じって……。斬り合うだけで相手の性別まで分かるのかよ、やっぱりやべえわこいつ。

 と、八法院がこちらに視線を向けている。


「……なんだよ?」

「いや、奈桐は出ないのかな、と思ってさ。星砕きの祭」

「出ねえよそんなの。俺じゃ勝てるビジョンが浮かばん。俺弱えし」

「そうかな。良いところまでは絶対に行くと思うんだけどな……」

「止めろマジで。調子乗って参加して瞬殺されたらどうしてくれる」

「あはは」


 あははじゃねーよこの野郎、やたら爽やかに笑いおって。


「でも、チャンスはまだあるよ?」

「止めろって……そもそも大会の参加受付期間は過ぎてるだろ」


 いやいやそうでもないんだな、と八法院はかぶりを振った。


「リカバリーの為にね、三人倒した選手を更に三人倒すことで本戦の出場資格を得られる様になってるんだ」

「なんだよその鬼畜仕様……。三人倒してる時点で既にヤバめじゃねーか」


 俺には無理だろう。一応俺も「新世代の子供達」の端くれではあるし、一般人……まあ、普通のヤツから見れば恐ろしく強いのだろうが、そんな俺から見ても八法院の強さは化け物じみている。

 更にその八法院を殺せる実力者が存在するということだ。もはや別次元である。無理。そもそも———。


「俺には出場する理由とか無ぇしな。ドラゴンボールあったって、願いが無けりゃ意味がない。そうだろ?」

「そうかな。僕が出場しようと思ったのは、単純に腕試しだけどな」

「これだから脳みそまで戦いで構成されてる奴らは……。大会の優勝賞品に何も思わないのかよ」

「何でも願いを叶えてやろうって言われたってね。パッと出てこないんだから仕方ない。それで———午後が暇になっちゃったな」

「あーマジそれ。小遣い稼ぎでもするか。八法院、付き合えよ」

「いや、僕はいいよ。お金に困ってはないんだ」


 ああクソ、ムカつく台詞ばっかり吐きやがって。



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