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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

君と僕

作者: 朱雪藍

小さいころから、正義のヒーローに憧れた。

でも、

悪の軍団もかっこいいと思ってたんだ。



この国では、「善」と「悪」との差がはっきりしている。国民はみな魔法が使えて、その魔法で判断できるから。


白い残像が見えるようなら、善。

黒い残像が見えるようなら、悪。

みたいにね。


この国の魔法は「心」からくると昔から言われているから、それもかかわっているのかもしれない。

精神が汚れている人は魔法だって汚れるし、綺麗な人が使う魔法は綺麗なんだ。


良くわからないかもしれない。けど、僕が住んでいるこの国では、ずーっと、ずーーっと昔から、そうなんだ。


少し話が変わるかもしれないけど、僕には彼女がいる。僕はまだ「善」側の人間だけど、彼女は「悪」なんだ。それもかなりのね。


何で君を好きになったのかはよく覚えていない。けど、僕の心に住み着いたみたいに、頭と心は君のことでいっぱいなんだよ。


僕は人を助けるけれど、君は簡単に殺しちゃう。

僕が息を吸うように良いことをするなら、君は息を吐くように悪いことをする。それが人を殺めるものだったとしても、君は構わず、息を吐く。


君のすることには僕もいつも困っちゃう。けど、仕方ないと思う自分もいるんだ。

「善」でも「悪」でも、君は君だから。


僕は回復魔法を使う。

君は切断魔法を使う。

僕が人に運をあげたら、

君は運を根こそぎすいとる。


もしかしたら、ある意味かみ合っているのかもしれない。


最近は、僕も怪我をすることが増えてきた。まあ、すぐに治せるんだけどね。


「悪」とみなされた人たちは、たくさんの非難を浴び、迫害を受ける。同じ人間なのに、悪というだけで虫けらみたいに扱うんだ。


悪はゴミ、いや、それ以下の扱いを受ける。


この国が見た感じだけでも平和に見えるのは、そんな背景があるからかもしれない。僕だって、君が悪じゃなかったら、周りと同じように差別し、蔑んだだろう。


罵り、侮辱し、暴力を振るい。

いくら悪に対する仕打ちといえど、この国の人のやり方はたまにひどすぎる。日ごろの鬱憤を晴らす矛先を悪に向けて喜ぶ姿を見ると、どっちが悪なんだかわからなくなる時があるくらい。


君だって、腹を立てるときくらいあるだろう?

いつか悪側の人が立ち上がり、復讐してくるとは考えないんだろうか?それとも、一度悪と認定された人にはそんなことをする気力はない、とでも思っているのか?


だとしたら、それは大きな間違いだ。


僕にはわかるんだよ。君が今にも怒り狂って暴れだしそうだって。いや、もう行動に移しているな。ほかの悪を引き連れて、いずれは国を滅ぼしに来るって。もしかしたら、君のことだから一人でやるかもしれないけど。




そういえば、最近やけに視線を感じる。それに、監視系の魔法の気配も。


ま、気のせいか。


足が自然と人気のない方へと進む。少しいつもと違う周りの空気を、僕の体は感じていた。


行き止まり。周りを見渡し、異常がないか確認する。


異常なし、と思い、帰ろうと足を動かした。


気配がする。上空から、明らかに攻撃の気配が。

とっさの反応で後ろに飛ぶ。ものすごい音とともに、さっきいたはずの場所が黒く焦げていた。残像は、白。


「やっと見つけたぞ、アルトリア・ハルシュ。」

声とともに、数人の鎧をまとった人がおりてきた。その鎧には、見覚えがある。あれは、確か聖騎士の鎧だったはず……


いや待て、なぜ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「聞こえているのか?……ん?報告によると、女のはずなんだが……」

一人が何やら資料のようなものをパラパラとめくる。そして、僕は確信した。



こいつらは、()()()()()()()()()()()のだと。



次の瞬間、僕の意識が少し揺らいだ。


君が、来る。


そして、僕の意識が消える。







「ったく、どいつもこいつも、邪魔ばかりしやがって……」

聖騎士たちはみな、目の前の光景を信じ切れずにいた。


それもそのはず、さっきまで男だったはずの人間がいきなり女になったのだから。

顔はあまり変わっていない。背丈も。しかし、明らかに出るところは出ていたし、引っ込むところは引っ込んでいた。


男の状態では気づきにくいが、聖騎士たちの視線を集めるほど、整った見た目をしていた。

「貴様がアルトリア・ハルシュだな?」

一人が一歩前に出る。


「だったらどうしたってんだよ。」

だいぶ口調は乱暴だが、その言葉一つ一つには「重み」があった。

「最近多発している事件の首謀者だと聞いた。そうだとしても、そうでなかったとしても、お前を連れて行く。厳正な「法」の下で裁くためにな。」

一歩前に出た騎士が続ける。

ハルシュは右手を上げ、何も言わずに火炎魔法を撃った。

いきなりの攻撃に少し戸惑った様子を見せるも、かわす聖騎士たち。残像は、黒だった。

「これが返答か?」

いらだった様子でリーダーのような男が言う。

「……イエス」

そういったハルシュの口元は、笑っていた。

身構える聖騎士たち。それに対し、ハルシュは両腕をだらんと下げ、下を向いていた。何かをしきりに呟いている。


次の瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



落ちる。全く底の見えない闇へと。日ごろ鍛錬を積んでいる聖騎士たちにも感じたことのない強さだった。何をしても闇は晴れず、ただ落ちる。どちらが上で、どちらが下なのかも、わからない。


次にハルシュが顔を上げたとき、聖騎士たちは跡形もなく消え失せていた。

「あ、そういえば怖い顔しちゃってたな……」

一人呑気にそういうハルシュの口元には、とてもやさしい笑みが浮かんでいた。

「そろそろ交代かな?じゃ、あとはよろしくね。」

ハルシュの意識が消える。「君」が「僕」に戻る瞬間だった。




「うーん……」

僕が目を覚ました時、さっきまでいたはずの聖騎士たちはもういなかった。きっと、君の仕業だろう。ふと足元を見ると、「ザルゴ洞窟に行って」と地面に書いてあった。僕と君の意思が同時に同じ脳内に存在することはできないから、こうして情報とかをやり取りするしかない。


少し面倒だなとも思いつつ、この聖騎士たちのことが広まるのも怖かったから、僕の足は自然とザルゴ洞窟に向かっていた。


ザルゴ洞窟。国の南東にある、巨大な洞窟。険しい崖なども周りにあって、立ち入り禁止になっているところが多い。あまりなれない道を進みながら、何で君が僕にここに行けといったのかを考えていた。


周りより一回り大きな穴が見える。あれがそうだ。

少し恐怖も感じながら、中に入る。ひんやりとした空気が、恐怖心をよりあおってきた。


まだ、進む。中は入り組んだ複雑なつくりをしているとばかり思っていたが、実際そうでもないらしい。来た道を忘れることなく、だいぶ奥までくることが出来た。


そして、あるものを見つけた。


一つの、骸骨。人一人分はそろっているようだ。

これを見た瞬間、いきなり頭痛がした。どうやら、君のターンらしい。

意識が揺らぐ中、一つの「問い」を壁に書く。


そして、意識が消えた。







また、僕に戻った。どのくらい時間が経過していたのかはわからない。先程の問いを確認すると、下に回答があった。

「もしかして、これが、「君」なのか?」

「ええ。この国では、はるか昔に「善」と「悪」に分けられるじゃない。そして、今でもその区分が残っている。善の家系に生まれたらどんなに嫌な奴でも初めは善だし、悪の家系に生まれたら悪にしかなれない。善が悪になることはあっても、悪はもう善になることはできないの。悪の家系に生まれたら、初めから最後までずっと悪。


私も、悪の家系に生まれた子供だった。


親が悪だからというだけで蔑まれ、小さい時からいじめられた。でも、その時の私はまだ何も悪いことなんてしてなかった!信じてもらえないかもしれないけど。


馬鹿にされ、いじめられ、暴力を振るわれても怒られるのは私。


ある日、いきなり腕をつかまれて、そのまま連れてかれたの。私が助けを求めても、誰も聞いてくれはしない。周りに人はたくさんいたのに。


そして、ここに連れてこられた。」

その次からの文は、いきなり筆圧が強くなっているように感じた。

「両手足を縛られて、声を出せないようにされて。周りには五人位男の人がいた。


何回も犯されて、おもちゃみたいに扱われた。なんでって聞いても、下品な笑いを浮かべるだけ。ようやく聞いた理由は、「私が悪だから」それだけだった。しかも、その五人は善の家系。


悔しくて、仕方がなかった。


結局腹を裂かれて私は死んじゃうんだけど。


死んでからも、私の魂は成仏しなかった。まあ、当たり前だよね。そして、ずっとさまよってた時に見つけたのが、「貴方」だった。


こうして体を借りるのも悪いと思ってる。しかも私の時は本当に女の子になってるんだからなおさら。


でも、私はこの国が、許せない。

もうそろそろ私の意識は一度消えるけど、次に向かうところを書いておくね。着いたら、また私の出番だから。」


君の過去を、初めて知った。

この国に違和感を感じていなかったのは、僕だけじゃない。

僕の脳内はまだボーっとしていたけれど、君が示した次の行先に行かなくては。

でも、そろそろ日が暮れる。

今日は、ここで野宿かな。





朝。ひんやりとした空気は変わっていないけど、昨日よりも日差しが暖かい。


次の場所に、行かなくちゃ。






「皆さんこんにちは。こちらは国営放送です。突然ですが、一つお知らせがあります。今から二時間後の12時までに、王宮内の広場に国民の方は集合して下さい。もう一度繰り返します。皆さんこんにちは……」


国中に、放送の声が響き渡った。いつもと少し違うなと感じるくらいで、内容までは気にしていなか

ったようだけど。



誰一人として広場に集まることなく、一時間が過ぎた。

「むー。これはもしかして、お仕置きが必要かな?」

先程の声の主が呟く。


「こちらは国営放送です。もう一度皆さんにお知らせします。12時までに、王宮内広場に集まってください。少しお集まりが悪いようなので、お仕置きしちゃいます♪」

刹那、爆音とともに国中のいたるところで爆発が起きた。

「わかりましたかね?皆さんもこうなりたくなかったら、あと一時間以内に王宮内広場に集まってください。」

声の主は、ハルシュだった。

国中にどよめきが広がる。恐怖が伝染し、数秒の間をおいて自分達の置かれた状況を知る。

賢い人たちは、真っ先に王宮へと駆け出した。

人を踏もうが、関係ない。

「恐怖」が完全に国民の心を支配し始めていた。


「おー、皆さんやっとやる気を出し始めたかな?」

今ハルシュは、王宮内にいる。王や貴族たちも()()()()()()()()



今はもう、動かぬ死体になってしまっているから。



「何かあんまり、王様直属の護衛隊も強くなかったな。」

窓に寄りかかって外を見るハルシュの服は、真紅に染まっていた。

タイムリミットまで、あと40分。






何で俺たちがこんな目に遭わなきゃいけねぇんだよ!

そう心の中でいい、王宮を目指す。

何かわけわかんねぇ放送が入ったと思ったら、爆発がおきてこうなりたくなかったらさっさと集合しろだと?王宮の奴らは、俺たちの命なんてゴミと同類とでも思ってんのかよ!


周りの人もみな、血相を変えて王宮を目指している。爆発した瞬間、これだ。よっぽど自分の命が可愛いんだろうな。


いけねぇいけねぇ、今周りのことなんざ考えてたら、真っ先に下敷きになっちまう。今はとにかく王宮を目指すのが先だ。


一人の女の子が今にも踏まれそうになっているのが見えた。

あれって確か、「悪」側の子供だよな?

あんだけ泣き叫んでんのに、周りの奴らは目もくれねぇのかよ!早くだれか助ければいいのによ……


そうは思っても、男に助けようなんて気持ちは全くなかった。





王宮内。ハルシュは先程から、クリスマスのプレゼントを待つ子供のようにしている。

「まーだっかな、まーだっかな♪」

楽しそうに踊っているが、その足音は水のあるところを歩いているようだった。


「あと10分、あと10分♪」

タイムリミットは、刻一刻と近づいている。広場にはすでにたくさんの人が集まっていた。落ち着かない様子で、そわそわしている。





よっしゃ!間に合った!

タイムリミットはすでに5分を切っていた。さっきの男が他の人をどけるようにして入ってくる。






「あと1分♪そろそろ、カウントダウンを始めようかな?」

声と口は笑っていても、目に笑いの色は見えなかった。

広場には、さっきよりもたくさんの人。王宮の外に残っているのは、もう動けなくなった人たちばかりだった。

「あ、そうだ、あれやろうっと。」



「制限時間まで、あと30秒です。」

突然の放送に広場の人たちが反応する。もう広場では収まりきらず、かなり多くの人がはみ出している状態だった。


少しの間があり、また放送が入った。

「制限時間まで、あと10秒です。9、8、7、6、5、4、3、2、1、」


「0」


声とともに、王宮へと通じる門が全て閉まった。広場の周りからは火の手が上がる。はみ出ていた人や、門のところで入れずにいた人は、その餌食になった。


悲鳴があちこちから聞こえ、逃げ出そうとするものが現れた。しかし、それは自分の身を自分自身で滅ぼしているだけにすぎない。恐怖で塗り固められた人々の心では、そんな簡単なことも考えられなくなってしまっていた。


王宮の外でも、同じようなことが起こっていた。

放送を通して、ハルシュがこういった。

「あらあら、外の人たち、かわいそうですねぇ♪」

その、今の状態を楽しんでいるとしか思えないこのセリフが、人々の恐怖心をさらにあおった。



「わかりましたわかりました、今火は止めますから。」

火が消える。犠牲になった人たちの山を見れば、どれだけの数が死んだのかがわかるだろう。


「国王たちは何を考えているんだ!」

群衆の中から、そんな声が聞こえる。ハルシュは笑っていた。

「国王~?やだなぁ、さっきからそこにいるじゃないですかぁ。」

そういって指さした方向には、建国記念の英雄の像がある。馬に乗り、槍を掲げている勇ましい勇者の像が。

その槍の先には、首がついていた。


国王の首が。


「あ、体のこと忘れてましたね。ホイっとな」

窓から姿をのぞかせたハルシュが、首のない豪華な衣装を身にまとった「体」を窓から落とした。

ぐちゃり、というような嫌な音を立てて下に落ちた国王の体から、自然と人が離れていく。もう悲鳴を上げる者などいなかった。いや、悲鳴をあげるような気力を持った者など、いなかった。



「国王だとしても、死んでからは崇拝しないようですね……」

窓から見下ろしていたハルシュがいかにもフムフムといった様子でつぶやく。

マイクを持ち、群衆に向かって呼びかける。

「改めまして皆さんこんにちは。私はアルトリア・ハルシュというものです。」

国民は、もう何にも反応らしい反応を示すことが出来ないようだった。

「ん~?皆さん元気がないようですねぇ……もう一回言いましょうか、皆さんこんにちは!」

まだざわめきは収まらない。

「皆さんこんにちは!こんなに反応がないと、また火、出したくなっちゃうな~」

いきなり、「こ、こんにちは!」と返す人が現れ始めた。つられて他の人も言い出す。いや、叫びだす。

「はーい、こんにちは♡今最初に言ってくれた人、大好きだよー!というのは冗談として……」

かわいらしい一面を見せたつもりのようだが、誰もそう思えない。数秒の間があり、こういった。

「皆さんには、あるゲームをしてもらおうと思います。ルールは簡単。この中にいる誰か一人でも私を殺せれば皆さんの勝ち、殺す方法は何でもあり、協力してもらっても全然OK!もし殺せたら、残った人たちで新しい国づくりをしてください。今から5分だけ門を開けるので、武器を取ってきていただいても構いません。」

少し間をおいて、思い出したように

「あ、そういえば、もし誰も殺しに来なかったら私が皆さんを殺しますのでご注意を♡」

といった。

「あ、そういえば、この王宮内にある財宝とかは勝った人の好きに使ってもらっていいんだよね~」

最後にこう付け足すのを忘れずに。







おいおいおいおい、マジかよ!?

あいつ、あの、王宮の窓から顔を出していろいろ言ってる、あいつを殺せば、王宮の宝はみんなそいつのものだって!?確かに、めっちゃ強そうだけどよ……あいつ一人だけなんだろ?こりゃ、やるっきゃねえな。


このようにやる気を見せたのはほんの一握りだけだった。

それもそのはず、「勝てば財宝と王になる資格、、しかし十中八九命を落とす」ゲームなのだから。

あとの人は逃げようとするか、何もできずに成り行きをただ見守るかのどちらかだった。

その人たちも、結局行きつく先は同じだというのに。


一人が正面玄関の扉を開け、あとから数人が入る。あの大きな音は、5分が過ぎて門がしまった音だろう。

入ってまずは、その状況に思わず目を背けた。


入ってすぐのスペースには、二つの細長い長方形のテーブルが置いてあり、そこに首が綺麗に並べられていた。体は階段の一段一段に腰掛けるような形で並べられている。おそらく、メイドや執事、門の警備兵だろう。

まるで「ようこそ」とでも誘ってきているかのようで、とても気味が悪い。床は一面真っ赤に染まっている。歩くと、まるで水たまりの上を歩いているかのような音がする。



「ああ、リールよ!なぜ、お前がこんなむごい仕打ちを受けなくてはならなかったんだ!」

最初に入ってきた男たちのうち、一人が叫ぶ。どうやら、殺されたメイドの中に自分の娘がいたらしい。怒りに任せ、階段を駆け上る。




二階のホールに、ハルシュはいた。

椅子に腰掛け、壁の方を向いている。その姿が妙に様になっていて、まるでこの世のものではないものを見ているような気分にさせられた。服が真っ赤に染まっていなければの話だが。

「意外と早かったですね。一人目は。」

こちらを向き、優しくそう語りかけてくる。

「私、こう決めてたんです。一番最初に来た人には、なるべくつらい思いをしてもらうって。しかも、その相手が昔の仇だなんて!ああ、神は、私に幸運を授けてくださった!」

男はハルシュが何を言っているかよくわからなかったようだが、その場の怒りに任せ、魔法を放った。どうせ勝てないとはわかっていても、最後のあがきということだろう。衝撃を飛ばしてぶつけるという、簡単で威力のある魔法。残像は、白。

「こんなのじゃ効きませんよ……って、白?うっそだあ、昔いたいけな少女を仲間と犯したくせに。」

簡単にはじかれ、ハルシュから攻撃がくる。ハルシュは人差し指しか動かしていないようだが、男の体は簡単に吹き飛び、壁に打ち付けられた。

「私は、貴方みたいな人が許せないんですよ。人にあんだけ辛い思いさせといてまだ善側の人間として生きてる、貴方みたいな人が。」

優しかった雰囲気は何処にもなく、ただ怒りが現れていた。

「ま、いいでしょう。貴方には、最後まで見届けてもらう義務があるのですから。」

軽く人差し指を動かすと、壁に思い切り打ちつけられた。腕や足に何かが刺さっているような感覚があり、壁から離れられない。

「さーてと、次は来ないのかな?」

階段を下りていく。ひっという声が聞こえたが、すぐに消えた。何かが燃える嫌なにおいがする。少したって、階段を上がってきたハルシュの手には、大きな串のようなものが握られていた。よく見ると、人の首や体のようなものが刺さっているのが分かる。

「見てくださいよぉ、コレ。「焼き人間」っていいと思いません?焼き鳥みたいな感じで。」

無邪気に笑うその姿は、おもちゃをもらって喜ぶ子供にも、やっと生きる喜びを見つけた老婆にも見えた。



マイクを持つ。

「なんか、もう殺しに来ないみたいなんで、みんなを殺すことにしまーす。」

軽い口調で放たれているはずなのに、内容のせいで恐怖が増しただけだった。かわいらしい一面から、ものすごく残忍な一面まで、ころころと変化するハルシュを見て、男はもう生きた心地がしなかった。



数分後。

「焼き人間」の串はすでに十本を超えていた。

目の前で串に刺され、たまにおいしそうにむさぼる姿からは、人間の香りがしなかった。まるで悪魔か、それよりも質の悪い災いをもたらすものが人の形を借りてそこにいるようで。ここが現実なのかもあやふやだった。


「ねえ、まだ生きてる?あなたを殺さなかった理由はね、この所業をこれから先まで伝えてほしかったからなの。こんなことがあったから、もうにどとあやまちはくりかえさないようにしよー、みたいにね。今から解放するから、ちょっと待ってて。」

男の顔に、少しだけ生きる力が戻った気がした。自然と涙が浮かぶ。



「なーんてね」

人差し指から放たれた貫通魔法が、男の眉間を打ち抜いた。自分にされたことを理解できていない死に顔で、男は倒れた。

「言ったじゃん、一番最初に来た人には、なるべくつらい思いをしてもらうって。」


男の死体に背を向け、窓の方に行く。

「そろそろ、交代かな。なんか、疲れちゃったよ。」

ハルシュの意識が薄れていく。






次に目を覚ました時、僕は王宮の中にいた。自分の服、周りの状況、窓から見渡せる国の状況を見て、君のやったことを察した。

少し怪我をしていたから、回復魔法を使った。残像は、黒に変わっていた。

「だいぶ君に任せちゃったからかな……」

窓の手すりに小さくこう書いてあった。

「大好きだよ

             ハルシュ」


「善」でも「悪」でも、君は君だから。

人をたくさん殺しても、国を一つ潰しても、君が君であることは変わらないから。





僕も、大好きだよ。








あらすじにも書いてある通り、今まで1000文字が限界だった作者がいきなり8000文字越えの作品を書きました!多分おかしいところとかつじつまが合わないところがあると思います!誰か教えてください!それと、筋道立てて物語を書くコツも教えていただけると幸いです!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いと思います。 ただ、ジャンルはホラーというよりもファンタジーかなと思いました。 ダークファンタジー。 つじつまに関しては、短編なので気になりません。もともと設定の細かいところを楽しむ…
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