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第6話 落花結実

カーラの口調が安定しない……

キャラの描き分けって難しい……


 カールを描く金色の髪。純粋でまっすぐな青い瞳に、幸薄そうな薄い唇。将来が楽しみになる整った顔つき。

 ピンクを基調としたドレスは、もはやゴスロリと言ってもいいほどごてごてとしている。

 年齢は、恐らく8歳か9歳。どうサバを読んでも10歳には満たないだろう。

 背は低く痩せ気味だが、子供らしいフニっとした体つきからは、食事に不自由していないことが見て取れる。

 彼女の背後にメイドが控えていることからも、裕福な家の育ちであることが窺える。


「親愛なる領民たちよ、妾は、カーラ・バレー。この街の顔役の娘である」


 鈴の鳴るような、それでいてしっかりとした意志を感じさせる力強い声だった。


「君たちは、家族から、あるいは友人の誰かから聞いたことがあるだろう。レミア皇后が魔術師たちを操り、善からぬことをしていると。しかし! それだけ魔術師の存在が認知されているにもかかわらず、レミア皇后が魔術師たちを使って何をしようとしているのか、それを知るものがいないのは何故だ!?」


 少女は、小さな木の台の上に乗り、道行く人たちに語りかけていた。

 しかし、人々は眉をしかめて彼女を一瞥するだけで、まるでいないものかのように扱っている。

 その話を聞いて、おや、と思った。

 確かユマは、バレーの顔役が魔術師たちの親玉だと言っていた。

 しかし、街に流れる噂では、魔術師たちの裏にいるのは皇后レミアだという事になっているらしい。

 皇后の側が嘘をついているのか、それとも街の顔役の側が嘘をついているのか。あるいは、両方とも真実を語っているという可能性もある。

 その場合――。


「むっ?」


 彼女はそう声を上げると、不意に演説を止める。

 その反応を見て、ようやく俺は、自分が思考に没頭するあまり、まるで彼女の演説に聞き入るような形で足を止めていたことに気が付いた。

 彼女の視線が、ばっちり俺の方を向いていた。

 俺はそそくさと立ち去ろうとするが、もう遅い。


「アーティ・マーティ、そいつをとっ捕まえろ!」


 少女の命令を受け、側に控えていたメイドが信じられない勢いで走り出す。

 十メートルは離れていたのに、わずか三歩で俺に追いつき、肩を掴まれる。


「くそっ!」


 とっさにメイドの腕を取り、背負い投げの要領で投げ飛ばす。

 一瞬だけ、彼女の手が俺を離れたが、空中で器用に体をひねると、そのまま俺の首に脚をかけ、俺はそのまま引きずり倒された。


「はじめましてだな、オニイサン」


 気が付くと、金髪カールの少女が、俺を見下ろしていた。


「妾の名前はカーラ・バレー。こちらは機械人形のアーティ・マーティ……おっと、妾の演説を聞いていたのだから、妾の名前は知っているか」

「はじめまして、お嬢さん」

「ちょっと、そこの喫茶店でお話をしようか。なぁに、悪い話じゃない」


 少女は、そういうと、にやりと不敵に笑った。




***********




 喫茶店の中は、落ち着いた雰囲気だった。

 大きな窓から陽光が差し込み、所々に置かれた観葉植物が目を楽しませる。コーヒーとも紅茶ともつかない独特の、それでいておいしそうな香りが店内に満ちている。さすがにBGMこそ流れていないが、町の喧騒がかすかに聞こえ、それが逆に現実と切り離された、特別な空間を作り出していた。


「今日は何の茶葉がある?」

「ブランタネット、オーク葉、グリーンハルフなどがございます」

「じゃあ、グリーンハルフを一つ。オニイサンは何がいい?」

「えっと、同じものを」

「かしこまりました」


 店員が一礼して去っていく。


「さて、ちょっとおしゃべりをしようか、オニイサン」


 カーラと名乗った少女は、丸い机に頬杖を突き、向かいに座る俺に向かってにやにやと笑う。

 どうにも厄介ごとの気配がするので、すぐにでも逃げ出したかったが、俺のすぐ後ろにメイドが控え、両肩に手を添えられているため、それも出来ない。


 ”まあ、魔術師の情報は得られそうだし、いいか”


 俺は頭の中でそうつぶやいた。

 でも、ちょっとこのマセガキをからかってみたくなった。


「まず、オニイサンというのはやめてくれ。俺にはちゃんと名前がある」

「そうか。どんな名前だ?」

「ジェームズ・ボンド」

「ジェ……変わった名前だな」

「それも当然。実は俺は神なんだ」

「何っ! 何の神だ!? 戦の神か?」


 あれぇ、喰いついてきたぞ。

 ああ、わかった。こいつは馬鹿だ。


「なあ、メイドさん」


 俺は後ろのメイドに話しかけた。


「ひょっとしてこいつは馬鹿か?」

「ご慧眼です」


 メイドはそういって唇だけで微笑む。


「ムキーッ、さては私を騙したな」


 カーラはそういってバンバンとテーブルをたたく。

 ムキーッ、とかいう人を初めて見た。

 まあ、この年齢の子供ならこんなもんか


「単刀直入に聞くぞ! 貴様はどこの手の者だ!? 魔術師か、レミア軍か!」

「……なるほど」


 やはり、カーラが考えているのは、その可能性だったか。

 魔術師の背景にいるのが、皇后レミアでも、要塞都市バレーの顔役でもない可能性。それはつまり、魔術師たちが、第3の勢力に所属している可能性。


「カーラが、魔術師たちを独立した勢力だと考えるのはなぜだ?」

「この都市は今、レミア様にとって唯一の拠点だ。レミア様が魔術師たちを使ってこの都市で悪事をなすことには、「り」がないだろ。利益も、情理も、道理もない」


 俺は一瞬、どきっとした。

 「り」がなければ人は動かない、というのは、俺の姉の口癖だった。

 敬愛し、恐怖してやまない、それこそ神のごとき姉に。

 カーラは話を続ける。


「そう考えると、“魔術師たち”というフレーズがやたらと取り沙汰されることが変に感じるようになった。……魔術師というのは、研究者だ。彼らが作り出す物は脅威となりうるし、何をしでかすか得体のしれないところもある。しかし、本来ならば裏方の存在のはずだ」

「そうなのか? 強大な力を持つ魔術師もいるようだが」

「そんなのはごく一部の例外だ。そんな大物がこの街にいるなら、そもそも裏でこそこそ暗躍などするものか」

「じゃあ、普通の魔術師には何が出来るんだ?」

「魔術は世の中にあふれているだろう。たとえば、火にかけた水が沸騰するのは魔術の力だ。物が上から下に落ちるのも魔術の力。牛乳に酢を入れると固まるのも魔術の力だ。魔術師はそれを研究している連中だ」

「いや、それは科学の力だろう」

「?」


 あー。わかった。

 この世界は、魔術と科学の境が曖昧なんだ。

 時間を停止させるような「本当の」魔法がある一方で、科学的に解明できる現象も全部ひっくるめて魔術と呼んでしまっている。

 よく考えてみれば、科学という呼称自体、物理学や化学、生物学など様々な分野を含んでいる。もしも魔法というものが元居た世界にあったとしたら、魔法学という科学の一分野になっていたかもしれない。


「じゃあ、魔術師の存在がやたらと意識されているのは、あえてそうさせている存在がいると考えているのか? 目的は?」

「レミア皇后の勢力と、要塞都市の指導者階級との対立を煽るためだろうな。レミア皇后には敵が多い。その内のどこかが、皇后の力を削ぐために搦め手を取ってきた、という事だろう」

「成程」


 カーラの言う事は、正しいように思える。

 皇后にとって、唯一の拠点である都市に支配力を浸透しきれないことは、大きな足かせになる。下手な動きが出来なくなるし、一度暴動でも起きようものなら、敵対勢力は嬉々として皇后の政治力の低さを揶揄するだろう。そうなれば、権威の失墜は免れられない。

 例え武力で相手に勝っていても、権威ある相手を倒すには力技ではいけない。死によって神格化することもあるし、権威とはそれだけで正統性になる。例えるなら、優等生が裏でいじめをしているとして、苛められっこがそれを指摘しても、逆に批判を浴びるのと同じことだ。まずは、権威という分厚い鎧をはがなければいけない。

 その点、皇后を倒すためにその足元を突き崩すというのは、かなり有効な手段だ。


「まず、一つだけ訂正しておきたいんだが、俺は魔術師たちの味方でもなければ、皇后の味方でもない。……心情的には若干、皇后よりだが、特定の組織に属しているわけでは無い」

「そうなのか?」

「ああ」


 成り行き任せではあったが、予定通り魔術師たちの情報は得られた。

 それに一つ、いいことを聞いた。魔術師たちの背後にこの都市の顔役がついていないなら、彼らの拠点というのも、そうそう簡単に移せるものでは無いだろう。ユマは魔術師たちが拠点をすぐに移すと考えていたようだが、ひょっとしたらあの場所に、何かの手掛かりが残っているかもしれない。


「魔術師たちの背後にいる組織が暴ければ、レミア軍とこの都市の人たちとの対立も解消するかもしれない。俺に心当たりがある。ついて来てくれないか?」

「妾の言う事を……信じてくれるのか?」

「そう言っている」


 カーラの目が、大きく見開かれる。そして、みるみるうちに涙をたたえ、えぐえぐと泣き出した。


「ちょっ! ……なんでこのタイミングだ泣き出す」

「だってぇ、わらわのいうこちょなんでぇこれまでだれもまじめにきいてくれなかっだぁ。ばがなごどもがへんなごどいっでるっていわれでえ、おどおさまもしんじてぐれながったぁ」

「落ち着け! 何を言っているのかわからない」


 俺が慌ててハンカチを渡すと、彼女はお約束のようにそれで鼻をかむ。

 ――彼女は、いったいいつからあそこで演説していたのだろうか。

 数日か、あるいはもっとずっと前からだろうか。

 少なくとも今日が初めてではないだろう。

 誰からも信じてもらえず、相手にすらされず、それでも小さな彼女にはそれしかできなかった。皇后とこの町の人々の対立が、誰も幸せにしないとわかっていたから、無力だとわかっていても、何かをせずにはいられなかった。

 彼女は、暫く泣き続けた。

 それから、涙声でポツリとつぶやく。


「なまえ」

「何だ?」

「なまえ、おしえろぉ」

「……ああ」


 そういえば、まだ名乗っていなかったな。


「ハルキだ。ハルキ・アーバンクレー」

「ハルキ。おぼえた」


 彼女はそういって、指で涙をぬぐう。

 その時。


「お嬢様」


 それまでずっと黙っていたメイドが、口を開く。緊張した声だった。


「死者が、この店に入り込んだようです」


あれぇ?

もう少し話が進む予定だったのに。


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