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第26話 名誉栄達

最終話と言ったな。

あれは嘘だ。


 アイザックに案内されて、皇后レミアをはじめとするレミア軍の幹部が食堂に入ってきた。一番奥の席に座った俺は、手だけで着席を促す。レミアと、老婆、それと金髪碧眼の男が席に着き、ユマと小さな女の子が皇后レミアの左右にそれぞれ控える。それを見て、アイザックとアーティ・マーティも着席した。

 俺は余裕ぶった顔をつくりながら、ユマが生きていた事実に、心の底で胸をなでおろす。これまで音沙汰がなかったから、死んだ可能性も考慮していた。

 テーブルには、すでにディナーのセッティングがなされている。彼らが席に着いてすぐ、前菜が運ばれてきた。


「初めまして。あるいは久しぶり。ハルキ・アーバンクレーと言う。こちらはバレー家のメイド、アーティ・マーティ。バレー家の内情をよく知る者として同席してもらった。そしてこちらはアイザック。今回の戦いにおいて最も危険かつ重要な役回りを務めてくれたため、ここに同席させた」

「は、はじめまして、皇后陛下。ア、アイザックと申します」


 皇后を前にして、アイザックががちがちに緊張した挨拶をする。

 おいアイザック、お前、ここまで皇后レミアを案内してきたのに、そこまで緊張することもないだろう。


「レミア・ニューランドと申します。こちらは最高参謀のロウと親衛隊長のバーバラ。まずは夕食に招いてくれたことを感謝いたしますわ」


 皇后レミアが口を開いた。

 そこで俺は、ようやく違和感の答えを得ることが出来た。


「なるほど。さっき城下で演説していたのは、あなたじゃなくてユマだったか」


 雰囲気が全然違う。

 今目の前に立っているレミアの方が、こう、本物の風格にあふれていた。


「よくわかりましたね」

「あれだけの立ち回りを、皇后が出来るのか、不思議だったんだ」


 サラ・バレーの投げた爆弾の火を、剣の一振りで消してしまうような妙技を、そうそう誰もが使えるとは思えない。あれは訓練を受けた一流戦士の動きだった

 前菜のサラダ――のようなものをつまみながら、俺たちは歓談する。会話の目的は専らこの戦いに関する情報交換だ。いったいどこで何が起きていたのか、そもそもどういった意図で動いていたのか、そういったこまごまとしたことを話ながら、お互いの知識の穴を埋めていく。時折アーティ・マーティやアイザックが補足をしてくれて、非常に有意義な時間となった。


「さて」


 メインディッシュを食べ終えた頃、皇后レミアが言った。


「そろそろ、話の本題に入りましょうか」

「……そうだな」

「あなたは、私に何を求めますか?」

「一つは、民衆の助命嘆願。あと、出来ればサラ・バレーとビーガン、パペットの命も助けてほしい」

「わかりましたわ。条件付きで全て飲みましょう」


 レミアがあっさり頷き、俺は驚く。


「条件と言うのは?」

「あなたが私の物になること」


 頬杖をついた皇后レミアは、絡ませた指の上に顎を載せ、妖艶に微笑む。


「そりゃぁまた、俺の事を高く評価してくれているんだな」

「実際に、あなたの価値は計り知れない。……とはいえ、暫くは私の同盟者として、側にいてくれればそれで構いませんわ。丁度第二軍の指揮官が欠員でしたの。あなたには彼らの指揮をお任せいたしますわ」


 ドウシヨウ、メッチャメンドクサイ。

 ……でも、断ったら多分、助命嘆願も拒否されるんだろうなぁ。


「……いいだろう」


 俺は渋々頷いた。

 まさかいきなり軍隊を預けられるとは思わなかったが、適当に指揮してみて、状況がややこしくなったら姿をくらませればいいか。


「では、もう一つの要求だ。これは要求と言うより、質問なんだが」

「質問?」


 ああ、と俺は頷く。


「オリフ、あるいはオリフヴェールという単語に聞き覚えはないか?」




***********




 会食後。

 帰りの馬車の中で、ユマが口を開いた。


「レミア様、あの男に第二軍を任せたのは早計であったと思われます。あの男は底が知れません」

「あら、それがいいんじゃないかしら」


 上機嫌に鼻歌を歌っていたレミアが答える。


「私は、今回の騒乱が、ひょっとしたら最初から最後まで彼の掌の上で行われていたのではないか、と疑っています」

「その根拠は何だ?」


 ロウが口をはさむ。


「この戦いで、最も利益を得たのが彼だからです」


 レミア軍は勿論の事、民衆にも大きな被害が出た。魔術師たちですら指導者を失い、今後の勢力回復には時間がかかるだろう。

 そんな中で、根無し草であるはずの異世界人だけが何一つ損をすることもなく、最後には第二軍の兵士二千人を指揮する立場にまで成り上がっている。……いや、仮に第二軍を手に入れなくても、縋るべきリーダーを失ったこの街の住人はやがてハルキを担ぎ上げ、新たな領主として祭り上げていたことだろう。


「それは、彼がもともと何も持っていなかったから、失うものもなかったというだけの話だろう」


 ロウが反論するが、ユマは首を振る。


「ロウ様はお気づきになりませんでしたか? あのディナーの内容は、そう簡単に用意できるものではありません。短く見積もって数時間……少なくとも、彼が葬列を引き連れて北門城にやって来たときには、すでに調理が始まっていたとみるべきでしょう。それに、彼が用意したのは、6人分。丁度会席に揃ったのが6人でした。しかも、我らが付いたときには既に6人分のテーブルセッティングもなされていた――まるで、未来を予知していたかのように」


 ロウが黙り、レミアも口を開かなかった。

 馬車の中に、沈黙が満ちた。

 もしかしたらレミア軍は、化け物を身内に引き入れてしまったのかもしれない。


1話で終わらせようとしたんですが、内容的に分割した方がいいかな、と思って分割しました。



次回こそ最終話。

ご意見ご感想、お待ちしております。

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