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第25話 甘蕩酒薫

美味しい日本酒が飲みたい。


「レミア様、状況報告に参りました」


 ユマが皇后レミアの執務室に入ると、そこには先客がいた。


「ロウ様」

「任務御苦労でした」

「ユマ、お疲れ様でしたね」


 レミアから声を掛けられて、ユマはレミアに向き直る。


「状況報告です。民衆の鎮圧はほぼ完了いたしました。反乱の首謀者たるサラ・バレーと自警団長のビーガンは拘束。こちらの死者は28名。負傷者約300名。民衆の被害は調査中ですが、死者・負傷者共に1000名を超える見込みです」

「そう……痛ましいわね。それで、ハルキはどこかしら」

「わかりません。戦いが終わった後、忽然と姿を消してしまいました」


 ユマが答えると、レミアが残念そうに眉を下げる。彼女の肩に乗った双頭の亀が、そんな主人を慰めるようにグウと鳴いた。


「それにしても、ロウ様の策はお見事でした。あの銃列があったからこそ、無益な血を流さずに戦いをとめることが出来ましたし」

「民衆は一度銃の脅威を目の当たりにしていましたからね。そうでなければ、あんなはったりは通用しませんでしたよ」


 ロウはまんざらでもないという調子でいう。

 カーラが民衆の目の前で射殺されたとき、ロウの脳裏にはそれを活かす作戦が瞬時に建てられた。それは、地下牢に使われている鉄格子を取り外し、あたかも無数の銃を持っているかのように演じる小道具に使うという策。しかし、そのためには頭に血が上った民衆を一度鎮め、恐怖を思い出させる必要があった。城の上で兵士たちが構えた鉄の筒は、近くで見れば単なる鉄の筒だとすぐに分かってしまっただろう。しかし、実物を見たことがない市民が、しかも遠目で見ただけでは、いつ火を噴くかもわからない無数の銃口が並んでいるように見えただろう。

 その時、部屋のドアがノックされた。


「失礼します」

「お入りなさい」


 レミアが答えると、ドアが開き、一人の兵士が入ってくる。城下で鎮圧を行っていた部隊の一人だ。


「皇后陛下。城下にパペット様がいらしています」

「……そう、わかりましたわ」


 レミアは、目を細めた。

 戦いが終わり、ようやくあちこちから情報が入ってくるようになったことで、レミアは凡そパペットの企てを解き明かしていた。

 カーラたちがパペット隊につかまったこと。その後のカーラたちの行動。鍛冶師ボイルの証言。あらゆることを統合すると、北門城主のパペットが今回の一件を独断で解決しようとしていたことは察しが付く。

 結果として、レミア達が味方に引き入れようとしていた神託の救世主――ハルキを、敵に回すことになってしまった。パペットには予言の書の事を知らせていなかったとはいえ、これは大きな失態だ。これからハルキとの間にちゃんと信頼関係を築けるだろうか、と考えると、レミアは憂鬱になった。


「ここに連れて来なさい」

「それが……城下にレミア様をお連れするように、と言って聞かないものでして」


 兵士が口ごもる。

 レミアは、窓を開けて城下を見た。そこには、両肩を兵士に取り押さえられて、城の前にひざまずくパペットが居た。彼は、麻で出来た無地の服を着せられ、両手と首には枷がはめられている。


「誰の命令で、あのようなことをしているのですか?」


 レミアが尋ねる。


「パペット様のご意志だそうです」

「……ああ、なるほど」


 ロウが納得した。


「今回の一件を、あそこでパペットを首謀者として処断することで、禍根を残さずに解決できるように、という彼なりの判断でしょう」

 ああいうところはまさに忠臣ですね、とロウは言った。


「分かりましたわ。では私自身が処罰を下すことにしましょう」


 レミアはそういうと、小姓が持っていた鞘から愛剣をするりと引き抜き、執務室を出て行く。その時、ロウの耳元で「ロウ、ちゃんと止めてくださいね」と囁いて行った。




***********




 広場に降りたレミアは、目を吊り上げて、跪くパペットに歩み寄る。ヒールがカツカツと音を立て、彼女のいら立ちを表していた。小姓の少女が、短い脚で必死にレミアの後を追う。小姓の手には、空になった鞘が握られていた。


「パペット・アーケンマイヤー!」


 レミアは広場中に聞こえる声で、彼の名前を呼んだ。


「あなたの罪は、三つありますわ。一つ! 民衆を挑発し、レミア軍との無用な対立を煽ったこと! 一つ! 用兵を誤り、事態を大きく混乱させたこと! 一つ! ハルキを敵に回したこと!」


 レミアの声は、よく通る。

 為政者として、理想的な声だった。


「よって私が、この場で直々に処断いたします!」


 レミアは剣を大上段にふりあげる。そしてまさに振り下ろそうとしたとき、後ろから駆け付けたユマとロウが彼女を押しとどめた。


「レミア様! 心をお鎮め下さい」

「ロウ! 離しなさい! 私はレミア軍の総帥として、この者を処断しなければなりません!」

「確かに! 一軍の主として、反逆者の処罰は正しい事です!」

「なら何故止めるのですか!」

「レミア様が天下の主となるために、この者の才覚が必要だからです!」


 レミアの動きが、ぴたりと止まった。


「天下の主……ですか」

「はい。天下です」


 肩で息をしたレミアは、剣を降ろすと、ぴゅん、と空を切り、小姓の持つ鞘に剣をしまい、パペットに背を向けた。


「パペット。あなたに預けていた第二軍と北門城は召し上げます。……ロウ、彼には追って沙汰を下しますから、その間あなたが身柄を預かりなさい」

「御意に」


 ロウが頭を下げる。

 レミアは城内に戻ろうとしたが、そこでパペットが声をかけた。


「皇后陛下!」

「弁明は聞きませんよ」


「いえ。ただ、ハルキ様からの伝言です。“北門城でディナーでもどうですか”と」

「……」


 レミアは、無言のまま、城へ入っていった。


大学院の卒業式のとき、今朝しぼり、っていうやたらおいしい日本酒を飲ませてもらったんです。

名前だけ覚えておいて、いずれ自分でも買ってみたいなぁ、と思っていたんですが……

今朝しぼりって名前の日本酒、やたらあっちこっちの会社が出しているみたいですね。

もらったのはどこの酒造のお酒だったんでしょうか。


誤字脱字の指摘、感想お待ちしております。

次回、最終話。

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